天災か、人災か ―― ロシア森林火災と政治 

世界の至る所で異常気象が猛威をふるっている。大洪水が生じている地域もあれば、逆にひどい旱魃がつづいている地域もある。後者に苦しむロシアでは、記録的猛暑により深刻な森林火災がつづいている。

 

 

ロシアの旱魃と森林火災

 

ロシア非常事態省によると、今年の5月以降、ロシア中部・西部で19万ヘクタール以上の森林が消失した。死者は少なくとも52人に及び、重傷を負っているものも多く、約2000軒の家屋が焼失し、3万5000人以上が住居を奪われた(8月8日時点)。ベルゴロド、ヴォロネジ、イワノヴォ、リペツク、モスクワ、ニジェゴロド、リャザン、タンボフの各州とモルドヴィア共和国の状況はとくに深刻だという。

 

大統領は非常事態を宣言し、ロシア非常事態省は消火活動に協力するボランティアを募り、軍や航空隊も消火作業に従事しているが、まさに「焼け石に水」の状況であるようだ。1日に300件の火災を消火してはいるのだが、鎮火した件数を上回る森林火災が新たに発生する有様で、常時550か所程度の火災が起きている。そのため、被害は拡大の一途を辿っている。

 

火災の影響は首都・モスクワにも及び、市内は濃いスモッグに覆われ、視界もかなり悪くなっているという。7日には今年最悪の大気汚染を記録し、一酸化酸素濃度は最大許容値の6倍以上、その他の有害物質も通常の9~10倍以上に達した。

 

目の痛みや頭痛を訴える人びとも増えており、マスクや酸素ボンベは売り切れ状態で、ガスマスクを着用する市民すらでてきたという。8月上旬にモスクワに滞在していた筆者の知人も、モスクワの街中を歩いていると気分が悪くなり、とくに地下鉄ではよりひどくなったと訴えていた。

 

 

軍施設や核関連施設に広がる火災

 

こうしたなか、7月29日には、モスクワ州コロムナ市近くにある海軍の航空装備保存基地にまで火災が広がり、航空関連の13の格納庫や基地本部、車両などが焼失し、空母搭載型の戦闘機など約200機に被害が及んだ(翌30日に鎮火、負傷者はいなかった)。

 

当初、国防相は軍施設に火災が及んだことを隠そうとしたが、誤魔化しきれず、大統領の大きな怒りを買うこととなった。

 

先立つ7月3日には、ロシア中部ニジェゴロド州・サロフにある連邦原子力センターに飛び火する危険が高まったため、センター職員やボランティアも含めて約3000人が動員され、航空機や消防車なども集中的に投入されて、必死の消火活動が行われた。

 

のみならず、同地から核物質を緊急避難させる措置も取られた。森林火災が風により激しく広がり、猛烈な煙を生じたため、航空機の消火活動を困難にしたが、何とかセンターへの延焼は防止できた模様だ。

 

なお、サロフはソ連時代の1949年に、同国初の原水爆が開発された場所であり、かつては「アルザマス16」と呼ばれ、最高機密とされていた。現在も核兵器の信頼性を高める研究などがなされており、訪問には許可が必要な閉鎖都市である(人口約9万人)。

 

原子力関連施設への延焼の危機はさらにつづき、9日には、チェリャビンスク州・オジョルスクでも非常事態宣言がだされた。オジョルスクは、イルタヤ湖畔に1945年に造られた閉鎖都市で、1994年までは「チェリャビンスク-65(その前は、チェリャビンスク-40)」と呼ばれていた。

 

オジョルスクに隣接するマヤーク原子力プラントは、ソ連時代にはプルトニウム供給拠点として機能してきたが、1957年に放射能汚染事故を起こし、近隣地域は深刻な放射能汚染を受けた。

 

現在は原子力潜水艦、原子力砕氷船、および原子力発電所からだされる使用済み核燃料を年間400トン再処理し、プルトニウムや高濃縮ウラン、移動が困難な高レベル放射性廃棄物などの貯蔵施設などがあり、当局としては核関連施設への延焼を何としてでも抑えるべく必死だという。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.2019.4.15 

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