北朝鮮の核・ミサイル能力向上にどう対処するか ――トランプ政権の核態勢見直し(NPR)が示唆するものとは

弾道ミサイルの移動発射台(TEL)とその問題

 

実は、ミサイル防衛の対処能力を考える上で問題となるのは、攻撃側のミサイルの保有量そのものというより、同時発射能力に影響する発射台の数である。この点につき、昨年11月の火星15の発射時には大きなサプライズがあった。火星15がこれまで見たことのない9軸・18輪の巨大な起立式移動発射台(TEL)に搭載されていたからだ。ロシアや中国が保有するICBM用TELでも8軸・16輪であるから、北朝鮮が火星15に用いているTELは名実ともに世界最大ということになる。

 

更に驚くべきことは、北朝鮮がこの超大型TELの完全国産に成功したと喧伝したことだ。これまで火星14を搭載していた16輪のTELは、中国から輸入した木材運搬用の大型トレーラー(WS51200)を改修したものとされており、輸出データや軍事パレードでの情報からその数は6両程度に留まるものと見積もられてきた。

 

言い換えれば、米国は6両のICBM用TELを破壊しさえすれば、ICBM本体が何基あろうと、対米攻撃の懸念は払拭されるはずであった。ところが、もし北朝鮮がそれを凌ぐ超大型TELを国産できるのであれば、ICBMの同時発射能力が強化され、それだけ迎撃計算が複雑になる可能性が出てくる。また、先制攻撃を仕掛ける場合の優先目標が増える上、TELの最大保有量がわからなければ、何両のTELを破壊すれば完全な無力化を達成したかがわからず、不安材料が残ることになる。

 

ただし、新幹線や宇宙ロケットを載せた大型トレーラーの移動が困難を極めるように、重ICBMを載せた超大型TELの機動力は高いとは言い難い。その点、北朝鮮国内に複数存在するトンネル化されたミサイル基地をあらかじめ特定できていれば、事前に基地ごと破壊することは可能であろうし、屋外での移動を捕捉することも不可能ではないだろう。

 

問題となるのは、軍や情報機関が把握しきれていない未知の地下トンネル内を移動して、横穴からTELを引き出し、短時間で発射するといった運用をする場合だ。一般的に、火星シリーズやスカッドなどの液体燃料式の弾道ミサイルは、安全性の観点から、ミサイルを起立させたのちに燃料の注入を行うため、固体燃料式よりも即応性に劣り、その間の攻撃に脆弱であるとされている。しかし、トンネル内や頑丈に防護されたシェルターのような場所でTELにミサイルを寝かせたまま燃料を注入し、屋外に出したあとにそれを起立させることで、発射までの時間を短縮することも技術的には可能である。北朝鮮は、2017年4月16日に行った火星12の2回目の発射実験に失敗しているが、これはミサイルに燃料を注入したまま水平状態から起立させることに失敗し、それが倒れたことが原因との見方もある。仮に北朝鮮がこうした運用方法を志向していれば、扱いの難しさこそあれ、移動式ミサイルの即応性・対処のしづらさとしては液体燃料でも固体燃料でもさほど変わらないことになる。

 

このように北朝鮮のICBM用TELの運用方法に注目してみると、2月8日に行われた朝鮮人民軍建軍70周年パレードは、北朝鮮が喧伝するICBM用TELの生産能力について新たな疑問を生じさせるものであった。というのも、パレードには事前の予想通り、18輪の超大型TELに載せられた火星15が4基登場したものの、一回り小さい火星14は起立発射能力のない3台の大型トレーラーに載せられて登場したからだ。北朝鮮が持つすべての能力を公開しているとは限らないため過小評価は禁物であるが、上記の光景からは、北朝鮮が「完全国産」を自称する火星15用の超大型TELは、中国から輸入した6両の16輪TELを改造したものに過ぎず、その分火星14を搭載する大型TELを確保できなかったという可能性も考えられる。もっとも、これはあくまで1つの推論であり、大型TELの製造能力については更なる分析が必要であろう。

 

 

移動式ミサイルにどう対処するか? 攻守・最適混合の模索

 

ICBMのような大型ミサイルの機動性が限定されることは既に述べたとおりだが、対処のうえでより厄介なのは、数が多く、機動性の高いSRBMやMRBMのような戦術・戦域レベルの弾道ミサイルとそのTELである。特に今回の軍事パレードでは、ロシアのSRBM「イスカンデルM」に酷似した二連装のSRBMが初登場したことが注目を集めている。

 

大きさからして、イスカンデル風の二連装SRBMの射程は最大でも500km程度と見られ、その標的となるのは韓国であろう。北朝鮮は既に「トクサ(射程120km)」、「スカッドB(射程300km)」、「スカッドC(射程500km)」と3種類のSRBMを保有してきたが、いずれも単発式であった。弾道ミサイルを二連装にする理由としては、連射能力を高めることにより、一射目の精度を二射目で修正する狙いが考えられる。

 

ただし、1つの車両に複数のミサイルを搭載するということは、それだけ攻撃に対して一度に撃破される場合のミサイルの損耗を早めることにも繋がる。また機動性が高く、捕捉しにくい小型のTELを確実に破壊するには、それらが広範な地域に展開される前に、その整備・配備基地や掩体壕を弾薬庫ごと一気に撃破してしまうのが最も効率的だ。当然、米韓はそうした攻撃オプションを視野に入れている。

 

もちろん、先制攻撃によってすべてのTELを破壊できる保証はない。むしろ一定数の撃ち漏らしは避けられないと考えるべきだろう。だからこそ、撃ち漏らしたミサイルによる攻撃のリスクを極小化するには、ミサイル防衛の役割が重要となる。第一波の攻撃でなるべく多くのTELを破壊して敵ミサイルの再装填を防ぐとともに、空中哨戒と航空攻撃を繰り返すことによって撃ち漏らしたTELを虱潰しに破壊していくのである。

 

また湾岸戦争で行なわれたイラク軍のTEL破壊作戦(いわゆる「スカッド・ハント」)では、TELを直接破壊することはできなかったものの、攻撃を繰り返すことによって、敵のミサイル活動を抑制することには成功している。つまり、TELを破壊できなくとも、何らかの形で飛来するミサイルの数を減らすことができれば、その分ミサイル防衛による迎撃効率が向上するというメリットもあるということだ。

 

こうした発想は、韓国版の敵基地攻撃能力(キルチェーン)にも取り入れられている。もし今後日本が敵基地攻撃能力の獲得を目指すのであれば、米軍や自国の攻撃能力のみならず、ミサイル防衛による防御能力との軍事的効率や政治的役割分担、それに導入・運用にかかる費用対効果を考慮した上で、攻守のベスト・ミックスを追求していく必要があるだろう。

 

ただし、攻守双方の能力を揃えてもすべての課題がすぐに解消されるわけではない。残る課題の1つが、各国と共同作戦を行う場合の攻撃目標調整(targeting coordination)の問題だ。既に述べたとおり、北朝鮮の移動式ミサイルは米陣営が先制攻撃に乗り出す場合に、率先して破壊すべき優先攻撃目標であることは間違いない。しかし、各国にとって何を優先攻撃目標とすべきかは、自ずと異なることが予想される。

 

例えば、米国にとっては米本土を脅かしうる火星15や火星14等のICBMの無力化が優先されるであろうし、韓国は射程の短いイスカンデル風の新型SRBMやスカッド、更にはソウルを射程に収める大量の自走砲などを優先目標としているに違いない。そうなると、日本を射程に収めるスカッドERやノドンといったMRBMは、結果的に後回しにされてしまう可能性もなくはない。

 

米韓は毎年実施している各種合同演習や米韓拡大抑止戦略協議体などの調整メカニズムを通じて、(少なくとも通常兵器を用いた作戦については)具体的な共同作戦計画に基づいて目標選定を行っているはずだ。しかし、物理的な長距離攻撃能力はもとより、朝鮮半島における動的な情報・偵察・監視(ISR)能力を十分に持たない日本は、この攻撃目標選定プロセスに関与するテコを欠いている。逆に言えば、北朝鮮内の攻撃目標に関する十分なISRを持つことは、より具体的な日米二国間あるいは、日米韓三国間の共同計画策定プロセスに関与していく一助となるかもしれない。

 

 

もし北朝鮮が確実な対米打撃能力を保有したらどうなるか?

 

北朝鮮の核・ミサイル開発の当面の目標は、米本土のミサイル防衛をかいくぐって、一部の諸都市を確実に攻撃しうる核攻撃能力を獲得することによる「最小限抑止力」の達成であろう。そうなれば、日本を守るために米国が極東の安全保障に介入しようとしたとき、北朝鮮は対米攻撃の可能性をちらつかせることで、米国に対し「サンフランシスコを犠牲する覚悟で、東京を守る意志があるのか」を問えるようになる。これは冷戦期から続いてきた拡大抑止の信頼性に対する古典的な「同盟の切り離し(デカップリング)」の問題であり、同盟国に対して、米国の防衛コミットメントの不安を惹起させる問題である。

 

他方で、米国の拡大抑止の信頼性は、日本や韓国などアジアの同盟国だけでなく、欧州・NATO諸国に差しかけられる拡大抑止の信頼性とも直結している。万一、東京が核攻撃を受けた場合に、米国が自ら被害を被るリスクを恐れて、北朝鮮への核報復を躊躇するようなことがあれば、それは欧州の同盟国のみならず、ロシアや中国、中東など世界中の米国の信頼性を見る目が変わることを意味する。

 

ある地域での抑止の破綻が、他の地域に差しかけている拡大抑止の信頼性に与える悪影響については、米国の核戦略コミュニティでは重大な問題として受け止められている。実際、2月2日に公表されたトランプ政権の「核態勢見直し(NPR2018)」では、抑止が失敗した場合に、その信頼性を迅速に修復(restore)することの重要性が説明されている。

 

また今回のNPRでは、北朝鮮に対する具体的な抑止戦略が明記されており、「米国や同盟国に対する核攻撃は、金正恩体制の終わりを招く」と警告している。このことからしても、北朝鮮が日本を核攻撃した場合に、米国が核報復を行う信頼性は一般に思われるほどは揺らいでいないと考えられる。

 

しかし、我々が本当に懸念すべき問題は、米国による核報復の信頼性なのであろうか。そもそも、核報復の脅しを軸とする懲罰的抑止は「やられたら、やりかえす=だから最初から手を出すな」という発想で、相手の行動を思い留まらせようとする抑止モデルである。それゆえに「攻撃された場合に、確実に報復する意志」を明示することは、抑止の信頼性を高める上で極めて重要だ。

 

ただし核報復は、抑止が失敗して核攻撃が行われてしまった場合の損害限定には全く意味をなさない。これは二国間の基本抑止構造よりも、同盟国を挟む拡大抑止構造においてより深刻な問題となる。先に述べたとおり、拡大抑止が失敗した後に報復を行うか否かという問題は、米国が各国に差しかけている拡大抑止の信頼性回復、あるいは更なるエスカレーションの防止という観点からの問題にはなっても、その時点で既に同盟国が壊滅的被害を被っているという事実を帳消しにはできないからだ。特に、日本のように戦略的縦深性に乏しく、人口や政治経済基盤が都市部に集中する国への核攻撃は国家の存亡に関わる。

 

つまり、今日の安全保障環境において議論すべき問題は、「日本が核攻撃された“後に”米国が何をしてくれるか」はもとより、「日本が核攻撃される“前に”米国が何をしてくれるか」ではないだろうか。

 

このような視点に立つと、トランプ政権が打ち出したNPR2018の方向性は、同盟国から見て高く評価できるものである。特に、低出力核弾頭を搭載した潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)や海洋発射型巡航ミサイル(SLCM)の導入、オバマ政権が採用を模索した核兵器の「先制不使用(no first use)」を明確に否定している点は、極めて重要である。

 

先に述べたとおり、移動式ミサイルの防護シェルターや地下トンネル、更には北朝鮮が将来的に堅牢化された固定サイロにICBMを配備するようなことがあれば、これらを迅速に破壊するためには核攻撃以外に方法がなくなる。しかし、米国が保有する既存の弾道ミサイル用核弾頭は100~455キロトンと威力が大きすぎ、付随被害や放射性降下物(フォールアウト)を抑えて使用することが困難であった。しかし、0.3~5キロトン程度の低出力核弾頭を搭載したトライデントSLBMであれば、付随被害を抑えつつ、こうした堅牢な目標や移動目標を迅速かつ確実に破壊することが可能となる。

 

こうした対処手段の柔軟性を拡充することは、日本の安全保障にとってプラスに働いている。他方で、今回のNPRを受け、アジア太平洋地域における米国の核戦力態勢は、潜水艦搭載型システムを重視していく傾向が強まることが予想される。だが基本的に、潜水艦の軍事的アドバンテージはその秘匿性にあり、その位置が露呈する危険を冒して先制攻撃プラットフォームとして使用する際には、周辺海域の安全性を確保しておく必要がある。

 

その点、低出力トライデントの即時性や、SLBMよりも相対的に速度が遅く、射程の短い核SLCMの役割を最大限に発揮するためには、日本を含む同盟国が周辺海域の対潜水艦対処(ASW)をしっかりと行い、これらのアセットが近海での抑止任務に集中できるよう安心を供与していくことが、米国の抑止力といざというときの打撃力を下支えすることになるだろう。このように、地域における米国の核抑止力の信頼性は、米国自身の判断だけでなく、同盟国が果たす攻守双方の役割とも密接に関係していることに留意しておく必要があるだろう。

 

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