中露の軍事関係と東アジアの安全保障

第一に、ロシアは中国の軍事的近代化を長らく支え続けてきた。武器輸出に関するデータ収集で世界的な権威とみなされているスウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータによると、2000年から2017年にかけて中国に輸出されたロシア製兵器は約278億ドルにも上るほか、ロシアの軍需産業は中国製兵器の開発・設計に関しても幅広い協力を行っている。

 

この点については中国によるロシア製兵器の違法コピー問題(たとえばロシアのSu-27SK戦闘機を中国がJ-11Bとして勝手にコピー・改良した事案)が取りざたされることもあるが、一部の事例を除けば両国の軍需産業間の関係は総じて良好である。

 

ただし、近年では中国の総合的な科学技術力と工業力がロシアを凌ぎつつある中で、従来のように中国がロシア製兵器を完成品として購入する事例は激減した。代わって中露間では大型ヘリコプターや大型旅客機の共同開発が始まっており、両国の軍事技術協力は一種の共同開発パートナーへと変化していく可能性が高いと思われる。

 

第二に、中露は活発な合同軍事演習を実施するようになっている。2005年に実施された両国初の合同軍事演習「平和使命2005」は実質的な内容に乏しい政治的ショーであるという評価が大半を占めたが、近年では共通の指揮系統にもとづいて陸海空での合同作戦を実施する、より本格的な内容が目立つようになってきた。

 

しかも、演習実施地域には両国にとって政治的に機微な地域(たとえば南シナ海や東シナ海、黒海、地中海など)が選ばれることも多い。また、中国はロシア国防省が主催する戦技競技会にも部隊を派遣している。年に一回、小規模な捜索救難演習を行っているだけの日露と比べれば、中露の軍・軍関係ははるかに密なものであると言えるだろう。

 

第三に、ロシアは中国の一帯一路構想を警戒しつつも、そこに決定的な不満を抱いてはいない。ロシアが西側の旧ソ連進出を警戒するのは、それがNATOという対露軍事同盟の拡大を伴うことに加え、ロシアと友好的な権威主義体制の崩壊につながりかねないためでもある。一方、中国の一帯一路は軍事同盟を伴わず、権威主義体制の民主化も志向しないという点で、ロシアにとって許容しうるものとみなされているのである。

 

 

中露軍事同盟の可能性

 

では、中露の軍事関係は今後、どこまで深化するのだろうか。

 

ロシア内外の専門家がほぼ一致して指摘するのは、それが同盟と呼べるものとなることはないだろう、という点だ。

 

たしかに中露は米国の覇権や一方的な軍事力行使、MDの推進などに関して反対するという総論ではおおむね一致している。その一方、両国の具体的な国益は必ずしも一致していない。中国の重視する安全保障問題(台湾海峡問題、朝鮮半島問題、南シナ海問題等)が東アジアに集中する一方、ロシアのそれが旧ソ連欧州部(ウクライナ、グルジア、バルト三国等)にある以上、協力の機会はきわめて限られるためである。

 

ロシアのクリミア併合を中国が表立っては承認していないことからも明らかなとおり、両国は互いの安全保障問題に巻き込まれることを避けようとする傾向がある。ことに、互いの立場に肩入れすることが米国との不必要な対立に発展しかねない場合にはその傾向が強い。ただし、その付近で軍事演習を行う程度の「お付き合い」まではしていることはすでに述べたとおりであり、おそらくはこうした「軍事力をツールとする政治的連携」が今後も中露軍事協力の主要な形態になると予想されよう。

 

たとえば中露はこの数年、毎年夏に合同海上演習「海上連携」を実施してきた。これまでに演習実施海域となったのは東シナ海(2014年)、日本海北部(2015年)、南シナ海(2016年)、オホーツク海南部(2017年)などであり、中国の尖閣・南シナ海問題やロシアの北方領土問題に暗黙の政治的承認を与えるようなロケーションであった。

 

2018年の「海上連携」については中国の青島付近となることが中国側から明らかにされているが、6月に予定されている米朝首脳会談の結果によっては、朝鮮半島情勢になんらかのシグナルを送る内容となる可能性もある。

 

ただ、すでに述べたように、中露は脅威認識の「各論」においてギャップを抱えてもいる。朝鮮半島情勢についていえば、中国が北朝鮮の体制維持に関して強い利害を有するのに対してロシアのそれは相対的に薄く、場合によっては北朝鮮の体制崩壊もやむを得ないという突き放した見方もロシア側には少なくない。このようなギャップを抱えつつ、協力できるところまでは協力するというのが東アジアにおいて予想される中国の軍事関係であろう。

 

もうひとつの注目点は、今年9月に予定されているロシア軍東部軍管区大演習ヴォストーク2018である。過去のヴォストーク演習が中国を仮想敵国としていたことはすでに述べたが、今年の演習も前例を踏襲するのか、あるいは対中シナリオが盛り込まれないのかは、今後の中露軍事関係を占うひとつのメルクマールになると思われる。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

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発行東京堂出版

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ISBN4490209509

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