アメリカの二大政党は「保守対リベラル」の構図だけで分析することはできない

利益集団の連合体としての民主党とイデオロギー志向の共和党

 

ニューディール期から比較的最近までの間、民主党が利益集団の連合体としての性格を強めたのに対し、共和党は相対的にイデオロギー志向を強めていった。

 

民主党連合については、対立する諸勢力も選挙での勝利を目指して協力関係に立った。民主党連合を構成する団体は、勝ち組連合に加わり続けるのが得策だったので、一部の知的エリートを例外として、リベラリズムとは何かというような理念的検討を避けた。利益集団間の相違を明確化する危険を秘めた問いをたてるのではなく、利益分配と権利拡充を通して恩恵に預かろうとしたのである。

 

民主党の支持団体である環境保護団体やフェミニスト団体には妥協を嫌う活動家が多いというイメージを持つ人もいるだろう。これらの集団は、民主党が勝って利益分配をしてもらえるという前提に立って、他の集団のことをあまり考えずに利益追求をしてきた。その結果、党を分裂させるような大喧嘩はしないものの、小競り合いは続き、民主党連合は利益集団の連合体としての性格を持ち続けた。

 

他方、共和党を支持する団体は、保守勢力と共和党の劣勢挽回を目指す必要があった。そこでまずは、保守の大同団結が目指された。保守勢力に結集の場を与えた『ナショナル・レビュー』というオピニオン誌では、いかに民主党とリベラル派が間違っているのかを強調する記事が掲載され、保守勢力内部でのイデオロギー論争は徹底的に回避された。

 

また、政策研究機関であるシンクタンクも、保守派にアイデアを提供し、活動の機会を作った。FOXニュースやトークラジオに代表される保守派メディアも大きな役割を果たした。中立性と客観報道が求められる報道番組ではなく、出演者が民主党政権の批判を繰り返すオピニオン番組を中心に作っていった。これらの結果、民主党連合という勝ち馬に乗らなかった人々が、保守というシンボルの下に集結した。言葉の意味は不明確ながらも、保守という理念を掲げて団結したため、共和党の方がイデオロギー志向が強くなったのである。

 

この結果として、民主党には利益集団の連合体、共和党にはイデオロギー志向という特徴が生まれ、それが今日でも二大政党を特徴づけている。例えば、2016年大統領選挙の際、民主党ではヒラリー・クリントンが大統領候補に確定した後も、バーニー・サンダースの支持者がクリントン批判を続け、投票に行かない人もいた。それに対して、共和党については、ドナルド・トランプという特異な候補に不満を感じた人であっても、最終的にはトランプに投票した人が多かった。選挙のときに、民主党はバラバラ、共和党は意外にまとまっているのには、このような歴史的背景があるのである。

 

ただし、近年では共和党内でも対立が徐々に先鋭化するようになっている。その理由は、民主党優位の時代が終わり、共和党が権力を持ったことにある。1994年の中間選挙で、ニュート・ギングリッチの指導下で共和党が圧勝して以降、連邦議会、とりわけ下院では共和党が勝ち続ける状態が生まれた。また、2000年、2004年の大統領選挙では共和党のジョージ・W・ブッシュが勝利した。このような変化を受けて、共和党が連邦議会上下両院と大統領職を支配する事態も生まれた。

 

このような状況下、共和党でも具体的な政策をどうするかをめぐって対立が顕在化していった。ニューディール以後に保守が大同団結できたのは、民主党の方針に反対していれば良かったからだった。しかし、保守が権力を持つ側に回ると、どのような政策を実現するべきかをめぐり争いが顕在化したのである。

 

今日共和党の下に集っている保守派には、経済的保守、社会的保守、軍事的保守と呼ばれる人々が存在する。だが、小さな政府を目指す経済的保守は、軍拡の必要性を説く可能性のある軍事的保守とは立場を異にするところがある。規制強化を目指す社会的保守と、政府の役割低下を目指す経済的保守に対立があるのはすでに指摘したとおりである。

 

なお、保守派と共和党の利益関心が一致するとは限らない点にも注意が必要である。保守連合を支えた人が望んでいたのは自らが信じる保守の勝利であり、共和党の勝利とはズレがあった。例えば、W・ブッシュ大統領は社会的保守派を支持基盤にしていたので、思いやりのある保守主義と称し、ときには福祉拡充を容認する立場をとった。

 

しかし、小さな政府の立場をとる経済的保守派は、W・ブッシュらを「名前だけの共和党員」と呼んで批判した。こうした人たちが、後にティーパーティ派となっていった。このように、ニューディール期以降、民主党、リベラル派に対する反発を基礎に団結していた保守も、権力の座に着くと内部対立が顕在化するようになったのである。

 

他方の民主党は、優位を失った今日でも、相変わらず対立を続けている。近年では、ビル・クリントンやヒラリー・クリントンを中心とする中道的なスタンスのニュー・デモクラットと呼ばれる人たちと、サンダースやエリザベス・ウォーレンのような左派的傾向の強い人たちの対立が顕在化している。ニュー・デモクラットは増税や福祉拡充に対する世論の反発を認識した上で、あまりに左派的な立場をとるのは国民の意向に合わないと考える。リベラル派と呼ばれる左派は、このような立場を明確に否定しているのである。

 

 

日本の政党政治への示唆

 

アメリカの政党政治が保守対リベラルという構図で描かれているのは事実である。だが、本稿で説明したように、二大政党はイデオロギーや理念を基に組織されているのではないため、政党の内部にも対立が存在しているのである。

 

このような特徴は、じつは日本の政党政治についても指摘することが可能である。55年体制期の自由民主党は、ときに、右翼から左翼まで揃った総合デパートと称されたように、多様な政策的立場の人々を擁していた。今日の自民党も包括政党としての性格を持っており、政治家にも支持者にも多様な人々が含まれている。

 

日本政治に対する理解を複雑にしているのは、自民党を批判する勢力がしばしば「保守」というラベルを貼って自民党を批判し、自らを「リベラル」と称するからである。例えば鳩山政権成立時の民主党はこのような戦略を採り、またメディアも保守対リベラルの構図で政党政治を説明しようとしていた。

 

だが、当時の民主党にも自民党と同様に多様な立場の人材が存在しており、全体として見れば、自民党と民主党に属する政治家のイデオロギー的立場に大きな違いがあったわけではない。にもかかわらず、当時の民主党もメディアも、日本政治を保守対リベラルの構図で説明しようとした。そして、政治家の実際の政策的立場に大きな違いがないにもかかわらず、政策の違いに基づく政権交代の必要性を強調したのだった。このような無理のある枠組みで政治を展開させることに限界があったことが、今日に至るまで有権者が政治家、とりわけ野党に対し不信を抱いている一因ではないだろうか。

 

政治を分析するに際して、理念や思想、イデオロギーに注目することは重要である。だが、多くの政治的対立は理念、思想、イデオロギーとは異なる次元で展開されているという事実も忘れてはならないだろう。アメリカの二大政党を保守対リベラルの構図だけで分析することができないのと同様に、日本の政党政治をイデオロギー対立の次元だけで説明しようとするのも危険である。アメリカの事例を通して、日本政治に対する見方も再考していただければ幸いである。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

アメリカ政治講義 (ちくま新書)

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作者西山 隆行

発行筑摩書房

発売日2018年5月9日

カテゴリー新書

ページ数249

ISBN4480071431

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vol.252 日本政治の行方

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