継続するグルジアとロシアの「冷戦」  

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NATO連絡事務所開設

 

さらに「リセット」により関係を改善しているはずの米国の動きにも、ロシアはまた苛立ちを隠せない。

 

上述の拙稿で論じたように、米国は「リセット」により、東欧へのミサイル防衛システムの配備やNATO(北大西洋条約機構)の東方拡大を取りやめることを表明しつつも、じつは、レベルを引き下げたとはいえ、ポーランドにミサイル防衛システムを配備することを決定し、ウクライナやグルジアにも「NATO加盟の可能性」を含ませた発言を行っている。それに追い打ちをかけたのが、グルジアへのNATO連絡事務所の開設である。

 

10月1日、NATOのラスムセン事務総長はグルジアの首都トビリシで行われたNATO連絡事務所開設式に出席した。NATO加盟の目標を断念しないグルジアにとっては、喜ばしいことであり、サアカシヴィリ大統領も、NATO加盟の意思を強く再表明した。

 

他方、ラスムセン氏は「同事務所はNATOとグルジアとの協力、グルジアの民主主義発展と国防分野の改革に役立つ」と、その意義を称賛し、また、NATOとロシアの関係改善は、ロシアとグルジアとの緊張緩和を促進すると述べた。

 

この発言の背景には、11月5日に予定されているラスムセン氏のロシア訪問や、11月19~20に予定されているNATOのリスボンサミットにロシアのメドヴェージェフ大統領が出席することなど、2008年のグルジア紛争を機に悪化したロシアとNATOの関係が、最近、改善されつつあることがある。

 

NATO側としては、ロシアとの関係改善に対するグルジアの反発を抑えるためにこのような連絡事務所を開設したとみられるが、国際政治的にもロシアとグルジアの問題は大きなネックでありつづけている。

 

 

長期化しそうな「冷戦」的状況

 

グルジアとロシアの間では、一部のチャーター便が運航されるなど若干の「雪解け」もみられたが、現実を見れば、両国間の緊張はむしろ高まっているように思われる。

 

10月29日にも、ロイター通信社が、ロシアのためにスパイ行為を行っていた疑いで、グルジア警察がグルジア人20人を拘束したと報じた。その情報は、グルジアの治安当局によるものとされるが、20人は、旧ソ連諸国で諜報網を構築し、機密情報をロシアに流していたという。詳細はいまだ明らかにされていないが、もし事実であれば、グルジアとロシアの関係にさらなる悪影響を及ぼすことは間違いない。

 

そのような「冷戦」的状況は、ロシア国内の安定にも、地域の安定にも悪影響であり、地域の発展の大きな阻害要因となって行くことは間違いない。

 

サアカシヴィリ大統領は、9月2日に「グルジアの脅威評価文書2010-2013年」に署名をした(大統領令第707号)。その文書では、グルジアの新たな脅威が5つのパートから論じられているが、いうまでもなく、ロシアファクターがとりわけ重要な位置づけとなっている。グルジアの反ロシア的立場はますます強くなっているように思われる。

 

さらに、政府のみならず、グルジア市民の反ロシア感情がきわめて高いなかで、グルジアがロシアに屈するとは到底思えず、ロシアも大国のプライドをかけて、グルジアに対して容赦しない政策をとっていくだろう。

 

このように現状においては「冷戦」状態が長期化するのは間違いなさそうだ。

 

 

推薦図書

 

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本記事で一番分かりにくい内容が、北コーカサス問題をグルジアが利用している点ではなかったかと思われる。本文でも触れたように、南北コーカサスは密接であり、とくにロシアはロシア帝国時代からコーカサスを、南北をつねに切り離すことなく一体的なものとして政策を試みてきたことを忘れるべきではない。そのため、本問題の本質を理解するためには、南北コーカサスを理解する目が必要だ。

残念ながら日本には南北コーカサスを共に理解できる書籍は少ないが、本日紹介する書は南北コーカサスをあらゆる側面から論じており、一般の方々でも気軽に南北コーカサスを身近に感じることができるようになるのではないかと思う。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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