ウォーク・アウェイ運動――アメリカのリベラル派はなぜ嫌われるのか

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第二に、アイデンティティ・ポリティクスを重視する論者は、差異を強調するあまりにしばしば対話を拒否し、アメリカ国民全体に共通する利益の実現を目指していないとみなされることがある。リベラルの立場からリベラルの再生の道を模索するマーク・リラが指摘するように、アイデンティティ・ポリティクスを重視する人々が自らの立場を絶対視する態度をとり始めると、立場を異にする人々が議論を積み重ねることで互いに歩み寄り、共通の利益の実現を図るという、リベラル・デモクラシーが目指してきたものが達成されなくなってしまう。

 

ニューディールの実現を目指したリベラル派が目指していた社会政策を実施するには、国民の間で何らかの一体性の感覚や連帯感が存在することが不可欠だった。だが、アイデンティティ・ポリティクスの提唱者が異なる立場を尊重するよう他者に要求する一方で、自らとは異なる立場に徹底的に不寛容な態度をとるようになると、対話が成立しなくなり、全体に共通する価値や利益の実現を目指すことができなくなってしまう。

 

第三に、アイデンティティ・ポリティクスを重視する論者の暴力性が、ときおり指摘される。アイデンティティ・ポリティクスの提唱者やリベラル派は、集団の尊厳や人権など、それ自体としては誰も否定しない価値を掲げ、異論を認めず敵対者を非難・攻撃する人と見なされることがある。

 

その非難・攻撃というスタイルはじつは暴力的だが、その暴力性に無自覚な人も多い。仮にその暴力性を認識していたとしても、自らは弱者の味方で、正しい規範に依拠していると考えているため、その暴力性を正当化する人もいる。そして、自らに対する批判をリベラルな規範の否定と捉え、糾弾者をさらに批判する。その際には、批判者の発言内容だけではなく、人格や動機も含めた批判がなされることもある。

 

このような状態は、自らの奉じる価値や規範は絶対視するものの、他者に対する敬意を欠くものと見なされ、非難されている人にはダブルスタンダートに映る。それがリベラルに対する敵意を生み出す要因になっている。

 

このような背景の下、今日のウォーク・アウェイ運動は発生している。

 

第二次世界大戦後のアメリカを、世界でも魅力的な存在としてきたのは、まぎれもなくリベラル派の功績である。彼らは多くの人々の生活を保障し、尊厳を認め、希望を与えてきた。だが、リベラル派内では、その構成要素が多様化しているにもかかわらず、内部での対話すら十分になされなかった。その結果として、リベラルとリベラル以外の人との距離は一層広がってしまった。

 

リベラル・デモクラシーを意味あるものとするためには、異なる立場の間で対話を成立させ、信頼と合意を形成していくことが不可欠である。だが、今日、アメリカの社会全体で対話が成立しなくなっている。そのような状態の責任は、リベラル派のみにあるわけでは決してない。減税、銃規制反対、中絶禁止などの立場をとる保守派も同様に激しく対話を拒絶している。分極化傾向が強まっている今日のアメリカで、保守とリベラルの人々による対話可能性は一層低くなっている。だが、今日では、自らを保守でもリベラルでもないと位置づける人々がアメリカ国民の最大勢力である。ウォーク・アウェイ運動は、それらの人々とリベラルとの間の対話も不可能になっている事態を示している。

 

2018年の中間選挙で、民主党は下院で議席を増大させた。比較的選挙区が狭い下院の選挙では、同質的な有権者集団に対するメッセージを投げかければ勝利することができるため、多様な観点を踏まえた複雑なメッセージを出す必要はなかった。だが、2020年の大統領選挙で勝利するためには、広範な有権者の支持を獲得することが必要になる。

 

今回の選挙のように、トランプに対する敵意とアイデンティティ・ポリティクスを前面に出すだけではダメである。民主党とリベラル派は多くのアメリカ人によって支持されるビジョンを示すことが必要になるだろう。

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.265 

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