DACA――不法移民とトランプの闘い

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教師の夢

 

ドリーマーズ

 

DACAの資格取得者は、「ドリーマーズ」と呼ばれることが多い。文字通り、米国で「夢を見る人たち」という意味として受け止められているが、正確な英語の表記は「DREAMers」。不法滞在の若者に合法的な滞在資格を与える「ドリーム法案(Development Relief and Education for Alien Minors Act)」の対象者、というのが由来だ。

法案は2001年に超党派で議会に提案されたが、これまで日の目を見たことがない。その代わりとして、オバマ前政権時代に発令されたのがDACAだ。

 

DACAは就労を認めており、DACA資格保持者の中には社会の様々な場面で活躍している人が少なくない。中でも注目されているのが、教職だ。約9000人が働いているという。公立学校は賃金が低いため、米国人のなり手が少なく、その空白をDACA資格取得者が埋めているという現実があるのだ。

 

「教師になるという夢をかなえたDACA資格保持者」を探した。夢をかなえたドリーマーズだ。南部テキサス州サンアントニオの女性教師が「授業を見に来てください」とメールをくれた。偶然だが、同じサンアントニオの別の女性教師からも、「学校に来てもらえれば、話したい」と連絡があった。いずれも公立の学校だが、ひとつは寄付で運営されているチャータースクール、もうひとつは貧困層の多い昔ながらの公立学校だ。

 

DACAに強い関心を持つ米国人スタッフのキオと早速、サンアントニオに向かった。

 

 

活気ある授業

 

2月20日午前8時過ぎ。サンアントニオ郊外にあるチャータースクールのエスペランザ小学校は、登校したばかりの子供たちでごった返していた。受付の事務員に取材に来たことを告げたが、次から次へと入ってくる子供たちへの対応が優先され、しばらく待たされた。聞こえる言葉は英語よりスペイン語のほうが多かった。

 

女性事務員の案内で別棟の1階にある小学3年生の教室に向かった。ドアを開けると、すでに授業が始まっており、邪魔にならないよう後方のイスに座った。生徒は26人で、ヒスパニック(中南米)系が9割を占める。教師は2人いた。英語を担当する白人女性と、理科を担当するDACA資格保持者のメキシコ人、マリア・ロチャ(30)だ。

 

今は英語の授業が行われており、白人女性が単語の意味を説明していた。マリアは、4〜5人のグループで座っている子供たちの間を移動しながら、英語とスペイン語で生徒に話しかけていた。「ほら、先生が持っている単語カード、何て書いている?」「先生が今、言ったこと、メモした?」生徒らが授業に集中できるようサポート役を務めているようだ。

 

30分ほどして英語の授業が終わり、理科に切り替わった。面白い授業のやり方だ。教壇に立ったマリアは、言った。

「さあ、こっちを見て!」

 

小柄な体から想像できないほどの大声だ。思わず、子供たちと一緒に背筋を伸ばした。この日の授業テーマは、「最近の天気」。サンアントニオと、降雪や洪水被害があった別の町の天候を比較しながら、天気や気温のデータをどう理解するかを説明するのだ。大人にとっても結構面白い内容だ。

 

テンポよく質問と回答が繰り返された後、マリアは「今の天気がどうなっているか、外に出て確かめてみましょう!」と生徒を外に連れ出した。ちょうど雨がポツポツと降り始めた。

 

「今の天気は?」「雨!」「気温はどうなりそう?」「下がる!」

 

生徒らも楽しそうだ。教室に戻る際、マリアが近づいてきて言った。「授業、どうでしたか? 私はまだ授業があるので、放課後にまた来てください。詳しい話はそこで」

 

 

タオルで肌をこする日々

 

午後4時半。学校に戻ると、子供たちの姿はなかった。誰もいない校舎の中を歩き、先ほどの教室に入ると、マリアだけがいた。

 

机の上に写真が数枚あった。「子供の頃の写真です。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領に抱っこされたのもあります。新聞に載ったんですよ」。記事の写真の中には、笑顔のマリアを抱き上げた元大統領がいた。

 

教職をどう思うか。

 

「やりがいがあって、大好きです。教師になって5年になります。だけど、DACAが撤廃されちゃったら、続けるのは無理かな……」マリアは泣き笑いのような表情を見せた。

 

マリアは3歳の時、メキシコから両親に連れられ、南部テキサス州に不法入国した。両親は農園で働いた。マリアは白人ばかりの学校で英語がうまく話せず、いじめられた。「自宅に帰ると、肌の色を白くしようとタオルで必死に皮膚をこすったわ。つらかった」

 

そんなマリアは、英語やサッカーを教えてくれるメキシコ出身の教師やコーチの存在に救われたという。「私も人に何かを教える仕事がしたい」。将来の夢は早くに固まっていた。

 

 

最高の誕生日プレゼント

 

運転免許証を取得する際、身分を証明する書類がなく、自身が不法移民であることを知った。不法移民では教師になれない──そう思ったが、夢をあきらめる気にはなれなかった。

 

15歳からサンアントニオの雑貨店で働いていた。将来、大学に進学するための足しになればと考えたからだ。白人の客に「メキシコへ帰れ」とののしられることもあったが、我慢した。

 

マリアは高校卒業後、身分を問われずに入学できる大学へ進学した。「教師になれなくても、塾の先生なら、なれるかもしれない」。外国人扱いのため、学費は米国人の数倍もかかった。清掃や子守の仕事を掛け持ちして必死に稼ぎ、学費を払った。

 

25歳の誕生日を迎えた2012年6月15日。子守の仕事から自宅に戻り、テレビをつけると、オバマ大統領がDACA導入を説明していた。「えっ、私、教師になれるんじゃないの? うそ? 信じられない」。うれしくて、テレビを見ながら泣いた。最高の誕生日プレゼントになった。

 

DACAの資格を取得後、別の大学に移って教員資格を取得し、教師になった。サンアントニオの学校で、児童7人の担任として教師のキャリアをスタートさせた。小柄ながら大声を出し、教室内を活発に動き回って生徒に声をかけるマリアは、「学校一元気な教師」として、生徒の間ではもちろん、教師や保護者の間でも人気者になったという。ヒスパニック系が多いテキサス州では、スペイン語を話せる教師としても重宝された。

 

「これまではどちらかというと、日陰者の人生だと感じていましたが、DACAのおかげで胸を張って生きられるようになりました。だから、子供たちにも自信を持って、勉強を教えられるのです」

 

 

中傷メール

 

今の学校に転勤して2年が過ぎた2017年9月、トランプによるDACA終了宣言に耳を疑った。トランプはDACAの資格を得た不法移民が米国人の雇用を奪っているという。「意味がわからない。米国人のなり手がいない仕事を私たちがやっているんじゃない?」

 

とは言っても、状況がすぐに変わる可能性はなさそうだ。教師をしながら大学院にも通ってリーダーシップ論などを学び、スキルアップを目指して充実した日々を過ごしていたが、「突然、迷子になった気分でした」。

 

ショックだったが、「私はプロの教師。子供にはそんな感情を知られたくないし、同情もされたくなかった」。授業ではこれまでどおり気丈に振る舞ったが、精神的なストレスは大きく、自慢の長髪がごっそりと抜け始めた。「それでも、屈託のない子供の笑顔が見られる学校が、一番心が落ち着く場所でした」

 

しかし、その学校にも、不穏な空気が忍び寄ってきた。不法移民の強制送還に取り組む移民・関税執行局(ICE)の摘発で、ある生徒の母親が強制送還され、生徒は学校に来なくなったのだ。マリアと同様にDACAの資格を得て教師をしていた同僚は、「強制送還されるのはイヤ」と自主的にメキシコに帰国してしまった。

 

夜、家に帰ってメールをチェックすると、「あなたの代わりに無職の友人を先生にしたい」という匿名の中傷メールが届いていた。「教師は不足している。私が辞めても、代わりは簡単に見つからない。大統領の発言は、現実を踏まえたものではない」

 

マリアは、DACAの資格を取得した時のことを振り返った。申請した役場で有頂天になり、「私、これから、米国で滞在できる人間になれちゃうのよ」と、目の前にいた職員を抱きしめたという。

 

DACA導入以前は、大学で勉強しつつも、「清掃や子守の仕事をずっと続けるのが現実なんだろうな」と思うことが少なくなかった。そして今、「やっぱりそうだったのか」と思う。子供たちの前から突然消えてしまう自分を想像すると、涙が止まらないという。

 

 

DACAを愛し、支える

 

暗い話題が続く中、バレンタインデーの2月14日を迎えた。子供たち同士でメッセージカードをつくり、盛り上がった。放課後、マリアは教室に飾られた生徒のメッセージカードのひとつに目を止めた。メッセージはこう書かれていた。

 

「Love & Support DACA(DACAを愛し、支える)」

 

胸が熱くなり、涙がこみ上げた。しばらく動けなかった。そして、思った。

 

「教師の私こそ、子供たちを愛し、支えないといけないじゃないの」

 

マリアのDACAの次の更新期限は2019年8月だ。それまでに撤廃が撤回されたり、別の方法で米国での滞在資格が得られたりする道は残されているだろうか──いや、それよりも、どんな状況であれ、自分が教師で有り続けることが大事なのではないか──様々な思いがマリアの頭の中を巡った。

 

教室に夕日が差し込んでいた。マリアが話し出してから2時間近くが過ぎていた。

 

「あのメッセージで前向きになりました。今やること、授業に集中します。米国に滞在できる希望も持ち続けます」。マリアは力強く言った。教師の顔になっていた。

 

マリアとは、学校の駐車場で別れた。マリアのような誠実な人がなぜ、苦しまなくてはならないのか。不法移民だからだ。しかし、そうなったことについて彼女に責任はない。DACAを巡る根本的な問題の大きさを改めて思い知らされた気がした。

 

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