深まる社会民主主義政党のジレンマ

2018年10月に行われたドイツの2つの州議会選挙の結果は、日本でも大きく報じられた。それらの選挙でドイツのメルケル首相を支える保守政党(キリスト教民主同盟および社会同盟:CDU/CSU)が大幅に得票率を落とし、これまで18年にわたりCDUの党首を務めてきたメルケルが辞任を発表したからである。

 

しかし、その陰に隠れるかたちとはなったが、じつはそれらの選挙でCDU/CSUと同程度に得票率を落とした政党があった。戦後、ヨーロッパを代表する社会民主主義政党とみなされ、またCDU/CSUとともにドイツの二大政党勢力の一角を占めてきた社会民主党(SPD)である。

 

このバイエルン州議会選挙でのSPDの得票率は9.7%で、前回より10%以上落としている。その結果、保守政党であるCSUはもちろん、緑の党や、新興の右派ポピュリスト政党である「ドイツのための選択肢(AfD)」の後塵をも拝し、第5党となった。その後のヘッセン州議会選挙でも得票率19.8%と、やはり前回から10%以上も落としている。そもそもSPDは、2017年に行われた連邦議会選挙(国政選挙)でも得票率20.5%で、戦後最低の値であった。もはやドイツで社会民主党は、二大政党勢力の一角とは言いづらい領域に入りつつある。

 

このような社会民主主義政党の低落は、ドイツに限ったことではない。やはり2017年に行われたフランスの総選挙では、社会民主主義政党としてフランスの二大政党の一角を占めてきた社会党が、得票率7.4%と、壊滅的な結果に終わった。前回選挙から20%以上も得票率を減らすという、歴史的な惨敗である。また、かつては40年以上も政権を維持したスウェーデンの社会民主労働党も、2018年の総選挙での得票率は28.4%と、やはり戦後最低の値を記録している。

 

このように、近年における社会民主主義政党の低落は、ヨーロッパでは共通の傾向とみなすことができるだろう。それに代わって台頭しているのが、反移民・反難民などナショナリズム的主張を軸に据える右派ポピュリズム政党である。ドイツでは前出のAfD、スウェーデンでは民主党、そしてフランスではルペン率いる国民連合(かつての国民戦線)がそれにあたる。

 

これらの右派ポピュリスト政党の台頭は、社会民主主義政党の低落と表裏一体をなす。なぜならこれらの政党は、かつて社会民主主義政党が強固な支持基盤としてきた労働者層の支持を奪うかたちで、台頭しているからである。

 

その背景には、よく「グローバル化から置き去りにされた」と表現されるような、グローバル化の負の影響を受けた労働者層がある。その層が、反移民などグローバル化に対抗する主張を前面に打ち出す右派ポピュリスト政党へと、その支持を転換させているのである。これらの政党に政党システムの一角を奪われる可能性すらある点で、社会民主主義政党はかつてない危機にあると言えよう。

 

 

社会民主主義のジレンマ

 

ただし、社会民主主義政党が「危機に陥った」と言われたのはこれが初めてではない。戦後に限っても、現在ほどの水準ではないとはいえ、やはり社会民主主義政党の得票率が減少し、「社会民主主義政党の危機」が囁かれた時期がある。とくに1970年代から80年代にかけての時期はそれにあたる。では、これまでの「危機」と、現在の「危機」はどのように異なるのだろうか。

 

もともと社会民主主義政党は、工場で働く貧困な肉体労働者をおもな支持基盤とし、それらの層の経済状況の改善や、ざまざまな権利の保障を掲げて、1900年前後にヨーロッパ各国で相次いで登場した政党である。その後、戦後の高度成長期にかけてその勢力を伸長させ、福祉国家というかたちでさまざまな社会保障制度を確立するのに貢献してきた。しかし、経済成長や産業構造の変化が進むと、従来の工場労働者の支持に依存するかたちでは、社会民主主義政党の得票率が維持できない状況が生まれてきた。

 

1970年頃を境として、サービス業など第三次産業人口は、工業など第二次産業人口を上回るようになった。また戦後の高度成長の結果、経済的に豊かな新中間層と呼ばれる人々も増加していった。これらの層が増えることによって、従来の工場労働者だけの支持では、多数派獲得がままならなくなったのである。

 

こうした状況に直面した社会民主主義政党は、たとえばイギリス労働党を典型として、中間層の支持獲得に失敗し続けた政党を中心に低落していった。比較政治学者のアダム・プシェボスキらは、この時期に発表した社会民主主義政党の研究において、「左翼政党は長期的衰退の脅威に直面している」と表現している。

 

そもそも、とくに選挙での支持獲得という面からすれば、社会民主主義政党は原理的にジレンマを抱えた存在である。社会民主主義政党のコアとなる支持層は労働者であるが、その支持だけでは多数派を占めることができない。したがって、中間層や農民など、他の支持層を開拓する必要性に迫られるが、これらの階層から支持を得られるような主張へとシフトすれば、今度は従来のコアの支持層である労働者層が、自分たちがないがしろにされていると不満を感じ、支持を止めてしまう可能性もある。1970年代から80年代の社会民主主義政党は、産業構造の変化や中間層の増加に伴って、このジレンマに直面したのである。【次ページにつづく】

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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