NATOとロシアの和解? 

NATOとロシアの紆余曲折

 

NATO(北大西洋条約機構)は、共産主義の脅威に対抗するために1949年4月、米国を盟主としてカナダと西欧諸国10カ国が参加して創設された。他方、ソ連はNATOに対抗するかたちで1955年、東欧諸国とともにソ連を盟主とする軍事同盟であるワルシャワ条約機構(WTO)を結成し、NATOとWTOが冷戦時代の軍事的な二極を形成することになった。

 

このようにNATOは冷戦の産物なのであるが、WTOが1991年に解散されたのに対し、NATOは冷戦が終結したいまも存続している。そのため、ロシアはNATOがロシアを仮想敵国とみなしていると考え(実際、そのような側面があることは否定できない)、基本的にNATOを強く警戒しており、NATO拡大の動きにもきわめて敏感である。NATOの拡大が旧ソ連のウクライナやグルジアにも及ぼうとしていたことが、2008年のグルジア紛争の背景のひとつにあったことも、筆者はたびたび主張してきた。

 

このように、冷戦終結後もNATOとロシアの関係は緊張に満ちたものであったが、とくに、NATOが1994年にボスニア内戦でセルビア人勢力に初空爆を行ったことや、99年にコソヴォ紛争に関する制裁としてユーゴスラヴィア連邦(当時)を空爆したこと、さらに中東欧地域へのNATOの拡大と2008年のグルジア紛争は、とりわけ両者間の関係を悪化させた。

 

それでも、冷戦終結後、NATOとロシアのあいだに短い蜜月期はあった。2001年の米国同時多発テロ後には、「テロとの戦い」で両者の利害が一致し、2002年には「NATOロシア理事会」という仕組みをつくって、ロシアはNATOの準加盟国的な扱いとなったのである。しかし、上述のようにNATO拡大が進んだことを、ロシアは自らに対する封じ込め政策と感じ、関係が冷え込んでいったなかで、グルジア紛争が「とどめ」となり、一時は「新冷戦」の到来が懸念される程の厳しい関係となった。

 

しかし、米国・オバマ政権の「リセット」は、NATOとロシアの関係改善にもつながっていき、ラスムセンNATO事務総長が今年の11月5日、ロシアを訪問して「ロシアはNATOの戦略的パートナー」であると発言したり、ロシアのメドヴェージェフ大統領も「ロシアとNATOは内実の伴った関係」と述べたりするなど、関係はかなり改善していた。

 

そして、ドイツとフランスの両首脳の導きもあって、11月20日のNATOリスボンサミットにメドヴェージェフ大統領が参加し、新たな協力関係が生まれるという歴史的な動きがあった。本稿では、そのリスボンサミットに対する相互の思惑と新たな協力関係、今後の問題点について考えてゆきたい。

 

 

相互の思惑

 

今回のロシアとNATOの協力関係樹立の背景には、双方の思惑が一致したということがある。

 

まず、NATO側はアフガニスタン政策やミサイル防衛(MD)計画でロシアの協力を必要としていた。現状では、アフガニスタンへの必要物資の供給なども難しくなっており、ロシアの協力なくしては、泥沼化するアフガニスタンの軍事政策をうまく遂行することができない状態になっていた。また、MD計画などでも協力して、グルジア紛争後のような厳しい対立関係を解消したいという強い希望があった。

 

他方、ロシアは米国が「リセット」後に、ブッシュ政権が東欧に展開しようとしていたMD計画を修正することと、当面のNATO拡大を行わないことを約束したことで、NATOとの関係の障害がなくなったと感じる一方、ロシアも近年の金融危機などで以前と比して国力が落ちているなか、むしろ中国などの脅威に欧米と協力して対抗していく必要も感じるようになっていたことがある。

 

「上海協力機構」などでの協力に象徴されるように、近年、ロシアと中国の接近は目覚ましく、ロシアはアジアでの経済パートナーとしても中国を選んだのだが、その一方で、中国の中央アジア、つまりロシアにとっては自国の勢力圏と考える「近い外国」への進出が目立つようになっており、ロシアは中国を牽制する必要を強く感じていた。

 

しかも、アフガニスタンの情勢悪化は、隣接する中央アジア諸国にも波及する可能性が高く、そうなれば、当然ロシアやCISの安全保障にも悪影響となる。そのため、ロシアにとってもアフガニスタン政策への協力は国益にかなっている。

 

つまり、今回の協力関係は、お互いの打算にもとづいているのである。

 

 

合意内容は?

 

このサミットで、ロシア側はかなりの柔軟姿勢をみせ、後述するように、欧州版MD計画とアフガン政策での協力が合意された。共同声明では「真の戦略パートナーに向けた協力」が掲げられ、ラスムセン事務総長が「今日、NATOとロシアは再出発する。まさに転機だ」と発言し、メドヴェージェフ大統領も「冷却化の時期は終わった」と述べるなど、新たな信頼関係構築の一歩が印象づけられた。

 

それでは、具体的にどのような合意がなされたのだろうか。

 

 

 

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