パートナーに求めるものは財産、若さ、知能、それとも家事能力?――男女同権がパートナー選びや社会にもたらす影響

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みなさんがパートナー選びで重視するのはどんなことでしょう。財産、若さ、知能、容姿、それとも家事能力でしょうか。

 

近年、ドイツ語圏では、パートナー選びを社会の男女同権の進展と関連づけて説明する見解が、たびたびメディアで取り上げられます。男女同権は社会的な権利や枠組みですが、それがパートナー選びというきわめて個人的な問題、異性のどこに魅力を感じるかという生理的な問題に、本当に関係しているのでしょうか。

 

今回は、この見解が広く注目されるきっかけとなった2015年に発表された論文(Zentner /Eagly, 2015)をもとに、パートナー選びの新しい傾向をご紹介してみたいと思います。

 

男女同権の進展度は国によって大きなばらつきがあり、男女同権がパートナー選びに与える影響は、現在、いたるところで鮮明になっているというわけではありません。他方、速度は別にしても、世界的に女性の社会進出や男女同権は、今後、着実に進展すると考えられます。このため、男女同権によって進むパートナー選びの変化によって、世界的に社会が今後どう変化していくのかについて、新しい見解にもとづき時代を少し先取りして一望できたらと思います。

 

レポートの後半では、このようなパートナー選びの変化が、逆に社会に対してはどんな影響を与えるのか。憂慮される三つのパターンをみていきながら考察してみます。

 

※論文では、データがまだ不十分である同性のパートナー選びについては触れず、異性のパートナー選びについてのみを扱っています。このため、以下、パートナーやパートナー選びと表現する際も、異性や異性のパートナー選びのみを指します。ちなみに著者は、同性パートナーの選び方は、「これまで未解明だったパートナー選びの多様な問題を明らかにする鍵になるかもしれない」として、今後研究が進展することを期待しています(Zentner, 2015, p.330)。

 

 

 

 

進化心理学的な解釈

 

人が生涯のパートナーを選ぶ時、どんな点が優先されるのか。そして、それはなぜか。これらを説明するのに心理学者たちは、ここ数十年間、進化心理学的な見解を重視してきました。

 

進化心理学は進化生物学的な解釈やメカニズムにもとづき、人間の行動や心理を明らかにしようとする学問分野です。人類の歴史で広範にみられる傾向から、パートナー選びの傾向を、人間が過酷な環境で生き延びるための手段や知恵と結びつけて解釈し、時代や地域に関係のない普遍的なパターンとして位置づけます。

 

それによると、パートナー選びの傾向は次のように要約されます。男性は、女性に若さやそれが象徴される肌がきれいなことなど健康的な特徴を好む。なぜかというと、子孫をなるべく産むことができる健康な女性をパートナーとしたいから。一方、女性は男性に財産や経済力を重視する。なぜなら、子どもを一人前に育てるために有利な条件や安定した環境を確保したいと望むから。双方がそれらを最優先にすることで、多くの子孫を残すという目標に限りなく近づくことができる。

 

しかし近年、人々のパートナー選びやパートナー関係では、こどもをもたないパートナー関係や離婚率の増加など、生殖に関するロジックから説明しようとする進化心理学的な見解では十分カバーできないケースが増えてきました。

 

それは現代において、人々がより自由に、主観的な判断や感情でパートナーを選ぶようになったということであり、社会環境や文化などの外的な要素の及ぼす影響が減ったことを意味するのでしょうか。

 

 

男女同権という社会システム

 

そういうわけではない、とオーストリアの心理学者ツェントナーMarcel Zentnerとアメリカの心理学者イーグリーAlice Eaglyは共著の論文で言います(この論文は100件以上の関連する論文を検証し、そこにあらわれた共通したものを、新しいパートナー志向の傾向としてまとめたものです)。

 

二人はそうではなく、進化心理学的見解で重視するものとは異なる別の要素が、パートナー選びに影響を与えているためと考えます。それは、男女同権という制度やそれによって構築される新たな社会のシステムです(ただし二人は、男女同権を重要な要素として注目しているとはいえ、進化心理学的な解釈がまったく通用しなくなったといっているわけではありません)。

 

ここ50年間、地域的な差は大きく、個人や世代によっても差異がありますが、全体として西側諸国を中心に、社会でのパートナー関係や女性の置かれた状況は大きく変化してきました。換言すると、男女同権の方向に大きく進展しました。男女同権が進むことで、社会の制度などとは一見関係なさそうにみえる個々人のパートナー選びの志向にまで変化がでてきた、というのが論文の主旨です(論文で男女同権の進展度を測る際、主として世界男女格差指数(Gender Gap Index: GGI)を用いています)。

 

 

 

 

男女同権社会でのパートナー選びの特徴

 

男女同権が進むことで、具体的にパートナー選びにどんな変化がみられるのでしょう。

 

まず、女性が男性に求めるものと、男性が女性にもとめるものの差がなくなり、似通ってくるという変化がみられます。たとえば、男女同権先進国のフィンランドで、男女ともに同じような学歴や生活背景の人を選ぶことも増えてきました。

 

以下の表は、男女同権と新しいパートナー志向の強い相関性をまとめたものです。X軸が男女同権の進行度(Gender Gap Index, 2010右側にいくほど進んでいる)、Y軸が男女のパートナー選びの際の差異の大きさ(上にいくほど差異が大きい)を示しています。男女同権が進んでいるフィンランドで差異が最少である一方、男女同権が進んでないトルコでは差異が大きくなっています。

 

 

男女同権とパートナーの好みの性別による違いの相関関係を示したグラフ(男女同権(X軸)が進んでいるほどパートナーを選び志向の違い(Y軸)が小さくなっていることを示している)

出典: Zentner, M., & Mitura, K. (2012). Stepping out of the caveman’s shadow nations’ gender gap predicts degree of sex differentiation in mate preferences. Psychological Science, 23, p.1181.

 

 

同時に、10カ国3177人と、31カ国8952人を対象に2回行なった調査では、男女同権の強い国では、伝統的なパートナーに求める一定の型(傾向)がなくなる、あるいは弱くなり、男女同権が弱い社会ほど、経済力のある男性、若い女性という均一的な好み(一定の型)が強くなるという傾向が世界的に共通してみられました(Zentner, 2012)。

 

これらの傾向は、ひとつの社会だけみていると変化がみえにくく、認識されにくいですが、男女同権が進んでいない国と比較するととらえやすくなります。例えば、男女同権が進んでいない国では、女性は男性に経済力や資金力があるかを重要な項目とし、男性は女性の若さを重視するという(従来の進化心理学的な解釈で説明できる)傾向が今でも強くみられます。トルコでは、パートナーの収入が重要と思う女性の割合が、フィンランドに比べ2倍多くいました。

 

ほかにも男女同権が進んでいる国では、以下のような傾向がみられます。

 

・女性よりも男性のほうが、パートナーの知能や学歴(修了課程)を重視する人の割合が高い(フィンランド)

 

・男性よりも女性のほうが、パートナーの家事能力を重視する(フィンランド、ドイツ)

 

・女性は外見を重視する人の割合が以前より増える(相対的に財産や経済力以外のファクターが、女性でむしろ重視されるようになったと解釈されます)。

 

しかし、まだなにか釈然としない人がいるかもしれません。フィンランドは現在、男女同権で進んでいるにせよ、もともと女性や男性のパートナーの好みに特異性があったのかもしれないではないか。つまり、フィンランドのパートナー選びの特徴は、必ずしも男女同権が直接関係しているとはいえないのか、という疑念です。

 

しかし、世界的な傾向として、男女同権が明らかにパートナー選びに関連していることを認めるのなら、フィンランドのケースを地域の特殊性からとらえるよりも、世界的な傾向が現れた一端として解釈するほうが自然で妥当だと思われます。

 

この新しくでてきたパートナー選びの傾向を一歩進めてとらえなおすと、こんなこともいえるかもしれません。社会において男女同権とパートナー選びの関係において一定の法則性が認められるということは、逆に社会でどんなパートナーが好まれるかをみると、その社会の男女同権の程度がわかる。つまり、パートナーの好みが、男女同権の程度を示す一種のバロメーターにもなっていると。【次ページにつづく】

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.266 

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