2019.07.25

パートナーに求めるものは財産、若さ、知能、それとも家事能力?――男女同権がパートナー選びや社会にもたらす影響

穂鷹知美 異文化間コミュニケーション

国際 #「新しいリベラル」を構想するために

みなさんがパートナー選びで重視するのはどんなことでしょう。財産、若さ、知能、容姿、それとも家事能力でしょうか。

近年、ドイツ語圏では、パートナー選びを社会の男女同権の進展と関連づけて説明する見解が、たびたびメディアで取り上げられます。男女同権は社会的な権利や枠組みですが、それがパートナー選びというきわめて個人的な問題、異性のどこに魅力を感じるかという生理的な問題に、本当に関係しているのでしょうか。

今回は、この見解が広く注目されるきっかけとなった2015年に発表された論文(Zentner /Eagly, 2015)をもとに、パートナー選びの新しい傾向をご紹介してみたいと思います。

男女同権の進展度は国によって大きなばらつきがあり、男女同権がパートナー選びに与える影響は、現在、いたるところで鮮明になっているというわけではありません。他方、速度は別にしても、世界的に女性の社会進出や男女同権は、今後、着実に進展すると考えられます。このため、男女同権によって進むパートナー選びの変化によって、世界的に社会が今後どう変化していくのかについて、新しい見解にもとづき時代を少し先取りして一望できたらと思います。

レポートの後半では、このようなパートナー選びの変化が、逆に社会に対してはどんな影響を与えるのか。憂慮される三つのパターンをみていきながら考察してみます。

※論文では、データがまだ不十分である同性のパートナー選びについては触れず、異性のパートナー選びについてのみを扱っています。このため、以下、パートナーやパートナー選びと表現する際も、異性や異性のパートナー選びのみを指します。ちなみに著者は、同性パートナーの選び方は、「これまで未解明だったパートナー選びの多様な問題を明らかにする鍵になるかもしれない」として、今後研究が進展することを期待しています(Zentner, 2015, p.330)。

進化心理学的な解釈

人が生涯のパートナーを選ぶ時、どんな点が優先されるのか。そして、それはなぜか。これらを説明するのに心理学者たちは、ここ数十年間、進化心理学的な見解を重視してきました。

進化心理学は進化生物学的な解釈やメカニズムにもとづき、人間の行動や心理を明らかにしようとする学問分野です。人類の歴史で広範にみられる傾向から、パートナー選びの傾向を、人間が過酷な環境で生き延びるための手段や知恵と結びつけて解釈し、時代や地域に関係のない普遍的なパターンとして位置づけます。

それによると、パートナー選びの傾向は次のように要約されます。男性は、女性に若さやそれが象徴される肌がきれいなことなど健康的な特徴を好む。なぜかというと、子孫をなるべく産むことができる健康な女性をパートナーとしたいから。一方、女性は男性に財産や経済力を重視する。なぜなら、子どもを一人前に育てるために有利な条件や安定した環境を確保したいと望むから。双方がそれらを最優先にすることで、多くの子孫を残すという目標に限りなく近づくことができる。

しかし近年、人々のパートナー選びやパートナー関係では、こどもをもたないパートナー関係や離婚率の増加など、生殖に関するロジックから説明しようとする進化心理学的な見解では十分カバーできないケースが増えてきました。

それは現代において、人々がより自由に、主観的な判断や感情でパートナーを選ぶようになったということであり、社会環境や文化などの外的な要素の及ぼす影響が減ったことを意味するのでしょうか。

男女同権という社会システム

そういうわけではない、とオーストリアの心理学者ツェントナーMarcel Zentnerとアメリカの心理学者イーグリーAlice Eaglyは共著の論文で言います(この論文は100件以上の関連する論文を検証し、そこにあらわれた共通したものを、新しいパートナー志向の傾向としてまとめたものです)。

二人はそうではなく、進化心理学的見解で重視するものとは異なる別の要素が、パートナー選びに影響を与えているためと考えます。それは、男女同権という制度やそれによって構築される新たな社会のシステムです(ただし二人は、男女同権を重要な要素として注目しているとはいえ、進化心理学的な解釈がまったく通用しなくなったといっているわけではありません)。

ここ50年間、地域的な差は大きく、個人や世代によっても差異がありますが、全体として西側諸国を中心に、社会でのパートナー関係や女性の置かれた状況は大きく変化してきました。換言すると、男女同権の方向に大きく進展しました。男女同権が進むことで、社会の制度などとは一見関係なさそうにみえる個々人のパートナー選びの志向にまで変化がでてきた、というのが論文の主旨です(論文で男女同権の進展度を測る際、主として世界男女格差指数(Gender Gap Index: GGI)を用いています)。

男女同権社会でのパートナー選びの特徴

男女同権が進むことで、具体的にパートナー選びにどんな変化がみられるのでしょう。

まず、女性が男性に求めるものと、男性が女性にもとめるものの差がなくなり、似通ってくるという変化がみられます。たとえば、男女同権先進国のフィンランドで、男女ともに同じような学歴や生活背景の人を選ぶことも増えてきました。

以下の表は、男女同権と新しいパートナー志向の強い相関性をまとめたものです。X軸が男女同権の進行度(Gender Gap Index, 2010右側にいくほど進んでいる)、Y軸が男女のパートナー選びの際の差異の大きさ(上にいくほど差異が大きい)を示しています。男女同権が進んでいるフィンランドで差異が最少である一方、男女同権が進んでないトルコでは差異が大きくなっています。

男女同権とパートナーの好みの性別による違いの相関関係を示したグラフ(男女同権(X軸)が進んでいるほどパートナーを選び志向の違い(Y軸)が小さくなっていることを示している)

出典: Zentner, M., & Mitura, K. (2012). Stepping out of the caveman’s shadow nations’ gender gap predicts degree of sex differentiation in mate preferences. Psychological Science, 23, p.1181.

同時に、10カ国3177人と、31カ国8952人を対象に2回行なった調査では、男女同権の強い国では、伝統的なパートナーに求める一定の型(傾向)がなくなる、あるいは弱くなり、男女同権が弱い社会ほど、経済力のある男性、若い女性という均一的な好み(一定の型)が強くなるという傾向が世界的に共通してみられました(Zentner, 2012)。

これらの傾向は、ひとつの社会だけみていると変化がみえにくく、認識されにくいですが、男女同権が進んでいない国と比較するととらえやすくなります。例えば、男女同権が進んでいない国では、女性は男性に経済力や資金力があるかを重要な項目とし、男性は女性の若さを重視するという(従来の進化心理学的な解釈で説明できる)傾向が今でも強くみられます。トルコでは、パートナーの収入が重要と思う女性の割合が、フィンランドに比べ2倍多くいました。

ほかにも男女同権が進んでいる国では、以下のような傾向がみられます。

・女性よりも男性のほうが、パートナーの知能や学歴(修了課程)を重視する人の割合が高い(フィンランド)

・男性よりも女性のほうが、パートナーの家事能力を重視する(フィンランド、ドイツ)

・女性は外見を重視する人の割合が以前より増える(相対的に財産や経済力以外のファクターが、女性でむしろ重視されるようになったと解釈されます)。

しかし、まだなにか釈然としない人がいるかもしれません。フィンランドは現在、男女同権で進んでいるにせよ、もともと女性や男性のパートナーの好みに特異性があったのかもしれないではないか。つまり、フィンランドのパートナー選びの特徴は、必ずしも男女同権が直接関係しているとはいえないのか、という疑念です。

しかし、世界的な傾向として、男女同権が明らかにパートナー選びに関連していることを認めるのなら、フィンランドのケースを地域の特殊性からとらえるよりも、世界的な傾向が現れた一端として解釈するほうが自然で妥当だと思われます。

この新しくでてきたパートナー選びの傾向を一歩進めてとらえなおすと、こんなこともいえるかもしれません。社会において男女同権とパートナー選びの関係において一定の法則性が認められるということは、逆に社会でどんなパートナーが好まれるかをみると、その社会の男女同権の程度がわかる。つまり、パートナーの好みが、男女同権の程度を示す一種のバロメーターにもなっていると。

男女同権の社会が抱え込んだ深刻でリアルな問題

男女同権社会化がすすみ、パートナー選びに影響がでるという新説がわかったところで、ここからは論文を離れて、このような新しいパートナー選びの傾向が、社会にどのような影響を与えるのかを考えていきたいと思います。

論文では、男女同権社会では、同じような学歴や類似した社会環境の人を選ぶことが増えていくということが指摘されていました。同質的な社会背景や学歴をもつ二人がパートナーとなること、これはパートナーとなった二人にとってはいたって自然ななりゆきで、なんの問題もないでしょうが、他方、この現象が社会全体に広がっていくと、社会に少なからぬネガティブな影響がでてくると危惧されます。その三つのパターンを以下あげてみます。

1.ダブル・キャリアとノン・キャリア

歴史家マイセンThomas Maisenは、家族やパートナー関係の二人がどちらも高いポジションを占める「ダブル・キャリア」組と、そうでない組ができるといいます。

当然ですが、管理職や教授職など地位の高いポジションの数は、どのような組織や企業でも非常に限られています。このため、二つの高いポジションを一つの家族(あるいはパートナー関係の人たち)がとってしまうと、逆にパートナーの両者が高いポジションにつけない家族がでてくることになります。

このような現象は社会格差に拍車をかけるという点で、「社会全体からみると問題だ」とマイセン(Maisen, 2018)は警鐘を鳴らします。

近年、パートナー選びがオンライン上でされることが多いことも、このような傾向を強めるかもしれません。現実の出会いからパートナー選びをはじめる場合は、偶然の要素がカップリングに影響を与える可能性がありますが、オンラインのパートナー選びのアルゴリズムでは、収入や学歴、出身など、事前に希望した条件があれば、それに合わない人に会うことはまずありません。

事前にこれらの条件でふるいにかけてマッチした候補者だけにしか出会えないこのシステムでは、同質のクオリティの人同士がカップルになる可能性がきわめて高くなります。ちなみに、アメリカではすでに結婚する人の三人に一人が、この方法でパートナーをみつけています(Fuster, 2019)。

2.社会が階層化し、それが固定化

富める人どうしがパートナーとなることで、その人たちはさらに富みを増やしますが、その一方、貧困層はさらに貧困になります。結果として、社会格差が広がり、それが常態化し、固定化していきます。

社会動態が著しく停滞するという意味では、さながら、社会が階層化していた前近代の時代にまいもどったかのような状況になることが危惧されます。

3.パートナーをもたない人、結婚しない人が増える

今日、教育だけに限ってみると、男女同権のレベルをすぎ、女性の学歴が男性の学歴と逆転し、高くなる傾向がつづいています。

例えば、スウェーデンでは、昨年大学入学登録した人の割合は女性が57%(男性は43%)でしたし、スイスで大学入学資格を取得した人の割合は女性が56%でした。アメリカとフランスではすでに女性のほうが、大学卒業者の割合が10%高く、スロベニアやエストランドでは20%にまでなります。世界全般にそこのような女性のほうの学歴が高くなる傾向があることが、世界銀行の最新のレポートでも報告されています(Rost, 2019)。

このような教育上の傾向が続く、あるいは維持され、同時に、同等あるいはそれ以上の学歴の異性を求める志向もまた続くのであれば、結果はどうなるでしょう。男女ともにパートナーをみつけにくくなります。

つまり、社会全体としてみると、パートナーをもたない、もてない人たちが増えることになり、家族やこどもをもたない人も増えることになります。男女の学歴の差が、パートナーをみつけるのに支障になった事例はドイツですでにみられます。旧東ドイツの出生率が統一後、一時期0.8まで落ち込んだ原因をさかのぼってみてみると、男女で学歴に大差があったことが重要な要因のひとつであったと考えられます(穂鷹「出生率0.8 〜東西統一後の四半世紀の間に東ドイツが体験してきたこと、そしてそれが示唆するものhttps://jneia.org/181216-2/」)。

それへの解決方法は?

多かれ少なかれ同時に起こってくる(一部はすでに起きている)と思われるこの三つのシナリオは、どれも(ポジティブな影響もあるかもしれませんが)格差の広がりや出生率の低下による(労働)人口の減少など、社会で多岐の分野にわたるネガティブな影響を及ぼすものと危惧されます。

なにかできる対策はないのでしょうか。歴史家マイセンは、「このジレンマの社会福祉的観点に即した解決策は、女性がふたたび台所に戻ることでもないし、以前のモデルのように医者が女性看護師と結婚することではないだろう」と明記した上で、「しかし、もしかして女性医師が男性看護師というのは?」と問いかけます。

女性医師と男性看護師という組み合わせは、高いキャリアや学歴の女性と、そうではない男性のパートナー関係を象徴しています。つまり、男女同権でなかったころの傾向(この例に沿っていえば、男性医師と看護師のカップル)でも、現在増えてきている男女同権の影響がみられるパートナー傾向(男性医師と女性医師のパターンや、男女両方とも看護師のパターン)でもない、新しい時代の新たなパートナー選びのパターンができないか、というオープンな問いかけです。

日々の生活では変化に近づかないけれど、ある時、数十年前につくられたドラマや映画、小説などを視聴して、ずいぶん男女の振る舞い方やそれに対する意識が自分でも変わっていたことに改めて気づくことがあります。現代もまた、静かに少しずつ動くベルトコンベアに全員がのっているような状況で、そこからみえている景色は、一見同じにみえても、少しずつ見えているものが変わっていっていると思われます。

そう考えると、今後も、パートナーの選び方も今みえている方向にだけ進まず、また新しく変化していくのも可能な気がしてきます。しかしそれはどのようなかたちではじまり、可能になるのでしょうか。

たしかなことは、近未来において、社会に目にみえない階級のようなものができあがって、あたかも封建時代にまいもどったかのような特権階級と貧民層に分化するような傾向は、社会全体としては決して好ましくないということです。

男女同権という新しい自由を手にいれた人々が、今後パートナーをもちたいと思った時、パートナーとなる人を学歴や収入といった狭い選択肢から選ぶ(あるいは選択肢が狭くなりすぎて選べなくなる人が続出する)のではなく、もっと広い視座から選びたくなる社会、そのようなパートナー選びをする人の背中を後押しし、共感し、応援するようなオープンな社会で、これからの社会はあってほしいと願います。

参考文献

・Fuster, Thomas, Gegensätze ziehen sich eben doch nicht an – das vertieft die sozialen Gräben. In: NZZ, 25.2.2019, 08:12 Uhr

https://www.nzz.ch/wirtschaft/gegensaetze-ziehen-sich-eben-doch-nicht-an-das-vertieft-die-sozialen-graeben-ld.1460982?mktcid=nled&mktcval=107&kid=_2019-2-26

・Gleichstellung verändert Partnerwahl, Science, ORF.at, Kategorie: Gesellschaft Erstellt am 07.09.2012.

https://sciencev2.orf.at/stories/1704486/index.html

・穂鷹知美「出生率0.8 〜東西統一後の四半世紀の間に東ドイツが体験してきたこと、そしてそれが示唆するもの」、日本ネット輸出入協会、2018年12月16日

https://jneia.org/181216-2/

・IQ vor Schönheit. Worauf achten Männer bei der Wahl ihrer Partnerin? Eine neue Studie stellt ein Klischee auf den Kopf. In: Berner Zeitung, 2016-02-10 14:56

https://www.bernerzeitung.ch/wissen/medizin-und-psychologie/IQ-vor-Schoenheit/story/16653613

・Maissen, Thomas, Strategien gegen den sozialen Abstieg, Gastkolumne. In: NZZ am Sonntag, 2.12.2018, S.18.

・Mehr Frauen mit besserer Bildung. In: Neue Zürcher Zeitung, 14.10.2016, S.15.

・Partnerpräferenzen und Partnerwahl, Universität Innsbruck (2019年3月3日)

https://www.uibk.ac.at/psychologie/fachbereiche/pdd/personality_assessment/research/mating/index.html.de

・Psychologie: Männer wollen kluge Frauen, Medieninformation, Universität Innsbruck, 10.2.2016

https://www.uibk.ac.at/public-relations/presse/archiv/2016/695/

・Rest, Katja, Gebildeten Frauen gehen die Partner aus, Gastkolumne. In: NZZ am Sonntag, 17.2.2019.

・SWR2 Wissen. Das Geheimnis der Partnerwahl -Konvention und EvolutionVon Iska SchreglmannSendung: Donnerstag, 14. Februar 2019, 8:30 Uhr, Redaktion: Charlotte GrieserRegie: Christiane Klenz Produktion:BR 2018

https://www.swr.de/-/id=23152772/property=download/nid=660374/1ge1gjh/swr2-wissen-20190214.pdf

・Zentner, Marcel, & Eagly, Alice H. (2015). A sociocultural framework for understanding partner preferences of women and men: Integration of concepts and evidence. European Review of Social Psychology, 26(1), 328-373.

https://doi.org/10.1080/10463283.2015.1111599

・Zentner, Marcel, This is what dating could look like 100 years in the future, MODERN MATING. In: Quarz, December 26, 2017

https://qz.com/1165620/what-do-men-and-women-want-in-a-partner-how-gender-equality-is-changing-our-mating-preferences/

・Zentner, M., & Mitura, K. (2012). Stepping out of the caveman’s shadow nations’ gender gap predicts degree of sex differentiation in mate preferences. Psychological Science, 23, 1176-1185.

プロフィール

穂鷹知美異文化間コミュニケーション

ドイツ学術交流会(DAAD)留学生としてドイツ、ライプツィヒ大学留学。学習院大学人文科学研究科博士後期課程修了、博士(史学)。日本学術振興会特別研究員(環境文化史)を経て、2006年から、スイス、ヴィンタートゥーア市 Winterthur 在住。地域ボランティアとメディア分析をしながら、ヨーロッパ(特にドイツ語圏)をスイスで定点観測中。日本ネット輸出入協会海外コラムニスト。主著『都市と緑:近代ドイツの緑化文化』(2004年、山川出版社)、「ヨーロッパにおけるシェアリングエコノミーのこれまでの展開と今後の展望」『季刊 個人金融』2020年夏号、「「密」回避を目的とするヨーロッパ都市での暫定的なシェアード・ストリートの設定」(ソトノバ sotonoba.place、2020年8月)
メールアドレス: hotaka (at) alpstein.at

この執筆者の記事