パートナーに求めるものは財産、若さ、知能、それとも家事能力?――男女同権がパートナー選びや社会にもたらす影響

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男女同権の社会が抱え込んだ深刻でリアルな問題

 

男女同権社会化がすすみ、パートナー選びに影響がでるという新説がわかったところで、ここからは論文を離れて、このような新しいパートナー選びの傾向が、社会にどのような影響を与えるのかを考えていきたいと思います。

 

論文では、男女同権社会では、同じような学歴や類似した社会環境の人を選ぶことが増えていくということが指摘されていました。同質的な社会背景や学歴をもつ二人がパートナーとなること、これはパートナーとなった二人にとってはいたって自然ななりゆきで、なんの問題もないでしょうが、他方、この現象が社会全体に広がっていくと、社会に少なからぬネガティブな影響がでてくると危惧されます。その三つのパターンを以下あげてみます。

 

 

1.ダブル・キャリアとノン・キャリア

 

歴史家マイセンThomas Maisenは、家族やパートナー関係の二人がどちらも高いポジションを占める「ダブル・キャリア」組と、そうでない組ができるといいます。

 

当然ですが、管理職や教授職など地位の高いポジションの数は、どのような組織や企業でも非常に限られています。このため、二つの高いポジションを一つの家族(あるいはパートナー関係の人たち)がとってしまうと、逆にパートナーの両者が高いポジションにつけない家族がでてくることになります。

 

このような現象は社会格差に拍車をかけるという点で、「社会全体からみると問題だ」とマイセン(Maisen, 2018)は警鐘を鳴らします。

 

近年、パートナー選びがオンライン上でされることが多いことも、このような傾向を強めるかもしれません。現実の出会いからパートナー選びをはじめる場合は、偶然の要素がカップリングに影響を与える可能性がありますが、オンラインのパートナー選びのアルゴリズムでは、収入や学歴、出身など、事前に希望した条件があれば、それに合わない人に会うことはまずありません。

 

事前にこれらの条件でふるいにかけてマッチした候補者だけにしか出会えないこのシステムでは、同質のクオリティの人同士がカップルになる可能性がきわめて高くなります。ちなみに、アメリカではすでに結婚する人の三人に一人が、この方法でパートナーをみつけています(Fuster, 2019)。

 

 

2.社会が階層化し、それが固定化

 

富める人どうしがパートナーとなることで、その人たちはさらに富みを増やしますが、その一方、貧困層はさらに貧困になります。結果として、社会格差が広がり、それが常態化し、固定化していきます。

 

社会動態が著しく停滞するという意味では、さながら、社会が階層化していた前近代の時代にまいもどったかのような状況になることが危惧されます。

 

 

3.パートナーをもたない人、結婚しない人が増える

 

今日、教育だけに限ってみると、男女同権のレベルをすぎ、女性の学歴が男性の学歴と逆転し、高くなる傾向がつづいています。

 

例えば、スウェーデンでは、昨年大学入学登録した人の割合は女性が57%(男性は43%)でしたし、スイスで大学入学資格を取得した人の割合は女性が56%でした。アメリカとフランスではすでに女性のほうが、大学卒業者の割合が10%高く、スロベニアやエストランドでは20%にまでなります。世界全般にそこのような女性のほうの学歴が高くなる傾向があることが、世界銀行の最新のレポートでも報告されています(Rost, 2019)。

 

このような教育上の傾向が続く、あるいは維持され、同時に、同等あるいはそれ以上の学歴の異性を求める志向もまた続くのであれば、結果はどうなるでしょう。男女ともにパートナーをみつけにくくなります。

 

つまり、社会全体としてみると、パートナーをもたない、もてない人たちが増えることになり、家族やこどもをもたない人も増えることになります。男女の学歴の差が、パートナーをみつけるのに支障になった事例はドイツですでにみられます。旧東ドイツの出生率が統一後、一時期0.8まで落ち込んだ原因をさかのぼってみてみると、男女で学歴に大差があったことが重要な要因のひとつであったと考えられます(穂鷹「出生率0.8 〜東西統一後の四半世紀の間に東ドイツが体験してきたこと、そしてそれが示唆するものhttps://jneia.org/181216-2/」)。

 

 

それへの解決方法は?

 

多かれ少なかれ同時に起こってくる(一部はすでに起きている)と思われるこの三つのシナリオは、どれも(ポジティブな影響もあるかもしれませんが)格差の広がりや出生率の低下による(労働)人口の減少など、社会で多岐の分野にわたるネガティブな影響を及ぼすものと危惧されます。

 

なにかできる対策はないのでしょうか。歴史家マイセンは、「このジレンマの社会福祉的観点に即した解決策は、女性がふたたび台所に戻ることでもないし、以前のモデルのように医者が女性看護師と結婚することではないだろう」と明記した上で、「しかし、もしかして女性医師が男性看護師というのは?」と問いかけます。

 

女性医師と男性看護師という組み合わせは、高いキャリアや学歴の女性と、そうではない男性のパートナー関係を象徴しています。つまり、男女同権でなかったころの傾向(この例に沿っていえば、男性医師と看護師のカップル)でも、現在増えてきている男女同権の影響がみられるパートナー傾向(男性医師と女性医師のパターンや、男女両方とも看護師のパターン)でもない、新しい時代の新たなパートナー選びのパターンができないか、というオープンな問いかけです。

 

日々の生活では変化に近づかないけれど、ある時、数十年前につくられたドラマや映画、小説などを視聴して、ずいぶん男女の振る舞い方やそれに対する意識が自分でも変わっていたことに改めて気づくことがあります。現代もまた、静かに少しずつ動くベルトコンベアに全員がのっているような状況で、そこからみえている景色は、一見同じにみえても、少しずつ見えているものが変わっていっていると思われます。

 

そう考えると、今後も、パートナーの選び方も今みえている方向にだけ進まず、また新しく変化していくのも可能な気がしてきます。しかしそれはどのようなかたちではじまり、可能になるのでしょうか。

 

たしかなことは、近未来において、社会に目にみえない階級のようなものができあがって、あたかも封建時代にまいもどったかのような特権階級と貧民層に分化するような傾向は、社会全体としては決して好ましくないということです。

 

男女同権という新しい自由を手にいれた人々が、今後パートナーをもちたいと思った時、パートナーとなる人を学歴や収入といった狭い選択肢から選ぶ(あるいは選択肢が狭くなりすぎて選べなくなる人が続出する)のではなく、もっと広い視座から選びたくなる社会、そのようなパートナー選びをする人の背中を後押しし、共感し、応援するようなオープンな社会で、これからの社会はあってほしいと願います。

 

 

 

 

参考文献

 

・Fuster, Thomas, Gegensätze ziehen sich eben doch nicht an – das vertieft die sozialen Gräben. In: NZZ, 25.2.2019, 08:12 Uhr

https://www.nzz.ch/wirtschaft/gegensaetze-ziehen-sich-eben-doch-nicht-an-das-vertieft-die-sozialen-graeben-ld.1460982?mktcid=nled&mktcval=107&kid=_2019-2-26

・Gleichstellung verändert Partnerwahl, Science, ORF.at, Kategorie: Gesellschaft Erstellt am 07.09.2012.

https://sciencev2.orf.at/stories/1704486/index.html

・穂鷹知美「出生率0.8 〜東西統一後の四半世紀の間に東ドイツが体験してきたこと、そしてそれが示唆するもの」、日本ネット輸出入協会、2018年12月16日

https://jneia.org/181216-2/

・IQ vor Schönheit. Worauf achten Männer bei der Wahl ihrer Partnerin? Eine neue Studie stellt ein Klischee auf den Kopf. In: Berner Zeitung, 2016-02-10 14:56

https://www.bernerzeitung.ch/wissen/medizin-und-psychologie/IQ-vor-Schoenheit/story/16653613

・Maissen, Thomas, Strategien gegen den sozialen Abstieg, Gastkolumne. In: NZZ am Sonntag, 2.12.2018, S.18.

・Mehr Frauen mit besserer Bildung. In: Neue Zürcher Zeitung, 14.10.2016, S.15.

・Partnerpräferenzen und Partnerwahl, Universität Innsbruck (2019年3月3日)

https://www.uibk.ac.at/psychologie/fachbereiche/pdd/personality_assessment/research/mating/index.html.de

・Psychologie: Männer wollen kluge Frauen, Medieninformation, Universität Innsbruck, 10.2.2016

https://www.uibk.ac.at/public-relations/presse/archiv/2016/695/

・Rest, Katja, Gebildeten Frauen gehen die Partner aus, Gastkolumne. In: NZZ am Sonntag, 17.2.2019.

・SWR2 Wissen. Das Geheimnis der Partnerwahl -Konvention und EvolutionVon Iska SchreglmannSendung: Donnerstag, 14. Februar 2019, 8:30 Uhr, Redaktion: Charlotte GrieserRegie: Christiane Klenz Produktion:BR 2018

https://www.swr.de/-/id=23152772/property=download/nid=660374/1ge1gjh/swr2-wissen-20190214.pdf

・Zentner, Marcel, & Eagly, Alice H. (2015). A sociocultural framework for understanding partner preferences of women and men: Integration of concepts and evidence. European Review of Social Psychology, 26(1), 328-373.

https://doi.org/10.1080/10463283.2015.1111599

・Zentner, Marcel, This is what dating could look like 100 years in the future, MODERN MATING. In: Quarz, December 26, 2017

https://qz.com/1165620/what-do-men-and-women-want-in-a-partner-how-gender-equality-is-changing-our-mating-preferences/

・Zentner, M., & Mitura, K. (2012). Stepping out of the caveman’s shadow nations’ gender gap predicts degree of sex differentiation in mate preferences. Psychological Science, 23, 1176-1185.

 

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vol.268 

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