ウガンダ「反同性愛」法案と、国際的なセクシュアルマイノリティ運動の可能性 

ウガンダ「反同性愛」法案への注目

 

先進国では同性結婚の制度の導入が広がるなか、同性愛者やその他のセクシュアルマイノリティ(性的少数者)の人権をめぐって昨年末ころから国際的に注目されているのが、アフリカ東部の国ウガンダにおいて提案されている「反同性愛」法案だ。

 

ウガンダではすでに同性愛は違法とされており、同性愛行為に及んだとされる人たちに対する法的あるいは私刑的な迫害は行われていたが、昨年提案されたこの法案では同性愛に対する最高刑を死刑と規定するなど、過激な内容が深刻な人権侵害にあたるとして国際的な非難を集め、一時的に成立はまぬがれた。しかし今年の選挙によって新たに招集された国会においても議員の大多数がこの法案を支持しているといわれており、状況は予断を許さない。

 

わたしはウガンダやアフリカの政治についての専門家ではなく、ウガンダで起きていることについては一般の報道をごくたまに読むくらいの知識しかない。けれども、普遍的な「人権」概念が、先進国による植民地主義的あるいは覇権主義的な軍事・外交政策を後押ししかねない、あるいはしてきたこと――たとえばアフガニスタンにおけるタリバンの女性抑圧が「テロ戦争」におけるタリバン攻撃の口実のひとつとなったことや、パレスチナの不当占拠を続けるイスラエルが「中東で唯一性的少数者の権利が保証された国」として人権国家を標榜すること――に対して、女性運動や性的少数者の運動の内部から批判を続けてきた立場として、ウガンダの「反同性愛」法案をめぐる米国内の議論もフォローしてきたし、意見を発してきた。

 

そうしたなか、このたびウガンダの首都カンパラで同国初のユニタリアン(キリスト教から派生した宗教で、キリスト教的な神を含め信徒に自由な神の解釈を認めることを特徴とする)の教会を設立し、また同性愛者の人権についてのシンポジウムを開催したり、エイズによって親を亡くした子どもたちのための孤児院や学校を運営しているマーク・キインバ牧師の講演を聞くことができた。わたし自身のこれまでの取り組みと合わせて、報告したい。

 

 

ゲイ・ストレイト・アライアンス(GSA)

 

わたしが具体的にウガンダの「反同性愛」法案に関わるようになったのは、ほぼ一年近く前にポートランド近郊のビーバートンで開かれた集会に参加したことがきっかけだった。この集会を主催したのはビーバートン市の各高校に設置された「ゲイ・ストレイト・アライアンス」(GSA)。

 

GSAを直訳すると「同性愛者・異性愛者同盟」となるけれども、これはゲイの高校生とその仲間たちのクラブで、学校内におけるいじめや嫌がらせの問題に取り組んだり、イベントを開いたりする。そうした活動を行っている高校生たちが、ウガンダで同性愛者であるというだけで死刑になるというような法案が提案されていると聞いて、声をあげようと思い立ったのだ。

 

実際のところ、集会の参加者の大多数は高校生たちで、五百人くらいの高校生とその十分の一くらいの大人、その多くは親や教師たちであるようにみえた。しかし集会でスピーチした人の大半は高校生でも親でも教師でもなく、地元の性的少数者団体の関係者や、政治家、そして政治家の代理人だった。

 

一番はじめに発言した高校生のスピーチは、ウガンダ人のゲイたちを支援することはウガンダ全体を支持することと同義である、という内容で、そのウガンダ国民の過半数が「反同性愛」法案を支持していることを考えるとそれはどうなのかと思わないでもないけれども、いいたいことは分かる。つまり自分たちはウガンダに反対しているのではなく、ウガンダを応援したいからこそ、ウガンダで迫害されているゲイたちを支援したいのだと。

 

でも残念ながら、その高校生につづいて壇上に登場した政治家やその代理人たちは、高校生よりもメッセージが幼稚だった。たとえばかれらは、法案やウガンダの議員らを指して「野蛮」だの「非文明的」だの、西洋がアフリカに対してこれまで何世紀ものあいだ、植民地主義や奴隷貿易を正当化するために繰り返し使ってきた言葉を何の考えもなしに口にしていたが、もしそうした発言が報道されればウガンダ人の怒りを呼び起こし、逆効果にしかならないことを考えはしなかったのか。あくまで自分たちはウガンダに反対しているわけではない、というスタンスを貫いた高校生のほうが、よっぽど良識と外交感覚をもっていた。

 

さらに困ってしまうのが、政治家たちが次つぎと「法案が成立したらウガンダに経済制裁を行うべきだ」と主張することだ。ここでいう政治家とは、オレゴン州選出の民主党リベラル派のワイデン上院議員、ウー下院議員、ブルーメナウアー下院議員らのことだけれど、そうした勇ましい宣言に大人も高校生も何も考えずに盛大に拍手していた。

 

最悪とされる一部の国ほどひどくはないとはいえ、ウガンダもほかのアフリカ諸国と同じく、国民の数割にまでHIV感染が蔓延している。キインバ牧師は兄弟姉妹が九人いたが、そのうち五人はエイズで亡くなった――そしてそれはウガンダではとくに珍しいことではなく、ごくありふれた経験だ――といっていた。そのような国に対して経済制裁を実施するということが、いったいどれだけの犠牲を生み出すことなのか、考えたうえでのことなのか。同性愛者が死刑になることは許しがたいが、経済制裁による犠牲者はそれをはるかに上回るはず。

 

 

 

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