おばあちゃんのスタバ通い ―― 障害者向けシャトル・サービスによる社会参加  

「パラトランジット」とは?

 

今月発売された『アシュリー事件 メディカル・コントロールと新・優生思想の時代』(生活書院) の著者であり、自身も知的・身体的に重い障害のある娘を持つ翻訳者・著述家の児玉真美さんが、8月にブログに掲載した記事において、 米国での「障害者向けシャトル・サービス」について驚きとともに紹介している。

 

そのブログ記事をきっかけとして、障害学研究ネットワークではこのシャトル・サービスについての議論が起こった。じつはわたしもそのシャトル・サービスの一利用者かつ障害学関係者であり、議論を通していくつか考えをまとめることができたので、ここで報告したい。

 

このシャトル・サービスは、通常パラトランジットと呼ばれるものだ。もっとも厳密にはパラトランジットとは公共交通機関を補完するものという意味であり、児玉さんが紹介しているものはそのうち米国障害者法(ADA)にもとづいて設置されているADAパラトランジットと呼ばれるものだが、パラトランジットと言えばADAパラトランジットのことを指すのが普通であるので、この記事でもパラトランジットと記述する。

 

パラトランジットは、障害のために公共交通機関を利用できない人のために、小型バスなどに乗り合わせるかたちで自宅から目的地まで送迎するサービスだ。前述のとおり、1990年米国障害者法によってバスや電車を運営する公共交通機関には、その沿線3/4マイル(1.2km)の範囲において設置が義務づけられている。

 

 

アメリカ全土で通用する「資格」

 

すなわち、全国どこでもバスや電車がある地域には必ずパラトランジットが存在する。障害があるために、バス停や駅までの行き来や乗り換えが困難な人や、目的地までの行き方やどの駅で降りたらいいかが分からない人がその対象であり、事前に(ほとんどの場合前日までには)旅程を申請しなければいけなかったり、乗り合いであるために遠回りをして時間がかかったりする不便はあるものの、一般のバスや電車を使えない人にとっては通学・通勤や日々の買い物、通院や娯楽まで、社会参加のためにはなくてはならない道具だ。

 

わたしの場合、基本的には通常のバスや電車を使うこともできるのだが、椎間板ヘルニアのために長距離を歩くことができず、また重い荷物を運ぶこともできないため、(最寄りのバス停から距離があるなど)行き先やその日の天候・体調によっては、どこかに行く予定を変更せざるを得ないことが頻繁にあったので、パラトランジット利用を申請した。

 

わたしが認められたのは「条件付き利用許可」という資格だが、この「条件付き」というのは「つねにパラトランジットが必要なわけではない」という意味であり、実質的にいつでもどこでも利用することはできる。そもそも、利用するためには前日までに予約を入れる必要があり、しかし当日の体調なんてその日にならなければ分からないのだから、いつどういうときに利用するかは当人の判断に任せるほかない。

 

パラトランジットは全国的に提供されており、またその運用ルールも連邦政府が定めているので、細かい違いはあるものの、だいたい全国どこでも同じ仕組みになっている。素晴らしいのは、自分の住んでいる街でパラトランジット利用資格を認められた人は、他の街に旅行したときも(それぞれの街において年間21日までという制限はあるものの)旅行先のパラトランジットを利用することができる。

 

わたしは講演などで全国各地に出向くことが多いのだが、勝手の分からない旅先で――1日に歩くことができる距離が限られているわたしにとって、見知らぬ土地で道に迷うことは、かなりの恐怖だ――パラトランジットを使えることにはとても助かっている。

 

 

 

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