ギリシャ危機が示唆するもの  

ヨーロッパの金融危機は深刻度を増している。最大の綻びはギリシャ経済だ。ギリシャの公的債務残高は150%とEU平均の90%を大きく上回り、自国GDPの3/1をEUとIMFからの貸付で賄わなければならない状況に陥っている。EUは独仏のリーダーシップのもと、昨年につづいて二度目のギリシャ救済を試みた。10月下旬のEU首脳会議の場で、両国は民間金融機関のギリシャ債務の50%削減、さらに各国の財政支援の任に当たるEFSF(欧州金融安定化基金)の強化策をマラソン交渉の末、認めさせた。

 

 

国民投票という袋小路

 

すでにイタリアやスペイン、さらにはフランスへの金融危機の飛び火が噂されるなか、この包括救済策がまとまった矢先に、ギリシャのパパドレウ首相は救済策を国民投票にかけることを、突如議会の前で宣言した。

 

この国民投票案は、閣内はおろか、EU諸国にも知らされないままに表明されたものだったために、大きな批判にさらされることになった。ユーロ圏の信任を得るために大きなコストを払い、リスクを背負ってまとめた救済策を、当の救済対象国の首相の独断でもって国民に負託することは政治的な判断ミスだ、というわけだ。救済策で落ち着いていた各国株式市場は急落した。各国とも主権の問題として公な批判こそ控えたが、自国負担がさらに増え、国民からの批判も根強いドイツは、早速に牽制するコミュニケを出した。

 

ギリシャ社会は疲弊している。増税だけでなく、すでにこの春に公務員給与や年金額の引き下げが決まり、10月にはEU支援の交換条件にされていたさらなる財政再建策が可決されたばかりだった。ギリシャ人の平均給与は3割近く減少、年金も平均で1000ユーロ以下にまで引き下げられていた。増税もあって、モノの値段はほぼ倍近くになり、失業率は16%を記録、若年層に至っては2人に1人が失業者という状況になっている。経済的苦境から自殺者が急増し、治安の悪化が進む。政府の緊縮策に抗議して20万人がゼネストに入り、各省庁を占拠してデモを繰り広げる混乱も生じた。

 

そうしたなか、政府の政策は「トロイカ」と呼ばれるEU、ECB、IMFの三者の責任者が毎週のようにアテネに乗り込み、箸の上げ下げに至るまで、監視下のもとにある。国の主権が完全に取り上げられたままに社会にそのツケが回されていることが、パパドレウ政権への批判とともに、噴出したのである。EUとIMFの財政支援があっても、ギリシャはこの先10年以上、緊縮財政を余儀なくされることを忘れてはならない。

 

それゆえ、国民主権の発露として、それも市場に追従するしかない今の政策を否定する手段として、国民投票を歓迎する声もあった。国民に痛みどころか、社会そのものを破壊させるほどの改革の大ナタを振るうのであれば、国民投票という方法でもって信任を得るのは当然だ、というわけだ。改革が「外部」から押し付けられるのではなく、内的な正当性をもって進めるためには必要な方策だと、正反対の論評もあった。

 

もちろん、国民投票は苦境に立たされているパパンドレウ首相の政治的マヌーバーと解釈することも可能だ。国民投票が実現すれば強硬な態度を崩さない反対派を投票に導くことができ、さらに救済策が了承されれば、改革実施にフリーハンドを得ることができる。反対に、否決されたとしても改革の遅れは野党のせいにすることができる。パパンドレウ首相がそのように考えたとしても、おかしくはない。

 

その後、首相は国民投票を撤回し、緊縮案を渋る野党との挙国一致内閣への道筋を開いた。詳細はつまびらかではないが、国民投票案と自らの辞任を交換条件にしたと考えるのが自然だ。

 

いずれにせよ、国民投票案は、実現していれば政治的には決して悪くない選択肢だったということもできる。逆に、国民投票という回路は、文脈とタイミングによって、きわめて政治的に運用される制度でもあるのだ。

 

他方でここまでパパンドレウ首相が追い込まれたのも、これまで幾たびも財政改革を約束しておきながらも、国民の強固な反対行動によって改革が停滞していた、というお家事情による所が大きい。

 

 

 

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