ロシア下院選挙 ―― プーチンに国民がつきつけた「ノー」 

ロシア下院選挙

 

2011年12月4日、ロシアで下院選挙(全議席数450を比例代表制選挙で選出)が行われた。本選挙は、2012年3月に予定されている大統領選挙の前哨戦として、きわめて大きな注目を集めていた。ウラディミル・プーチン首相は、その大統領選挙の筆頭候補者であり、当選は確実視されているが、大統領選挙を良いムードで迎えるためにも、下院選挙で結果を残しておきたいところであった。

 

最近の与党・統一ロシアの人気低迷は顕著であり、今回の選挙では、獲得議席の大幅な減少が予想されていた。具体的には、前回の獲得議席は約7割であったが、今回は憲法改正に必要な3分の2の議席を割り込むのではないかと見られていたのである。

 

カリスマとして揺るぎない支持を獲得しているかに思われてきたプーチン首相の人気にも陰りが見えてきている。たとえば、11月20日にモスクワで開かれた総合格闘技の大会でプーチンが挨拶をするために登場すると、2万人の観客から激しい怒号の口笛と野次が起こり、収拾がつかないほどの大騒ぎとなった。

 

ロシアではこのようなことは稀で、ましてやプーチンにとっては前代未聞であった。テレビで全国放送されていたこともあり、面目丸つぶれとなったかたちだ。11月初旬に行われた社会調査によれば、プーチン首相の支持率が前回調査(10月末)の66%から61%に低下し、2000年8月以来の低水準となるなど、その人気低迷は数字にもはっきり出ていた(なお、下院選挙後、支持率は30%程度にまで落ちたという話もある)。

 

 

なりふり構わぬ選挙戦

 

こうしたなか、統一ロシアやプーチンの取り巻きなどは、なりふり構わぬ選挙戦を繰り広げていった。たとえば、メドヴェージェフ大統領とプーチン首相の両首脳は、各地での集会に積極的に参加し、軍人や教員の給与や年金の引き上げなど、バラマキによる生活水準向上を約束したほか、躍進が伝えられる共産党に対し「ソ連を解体に導いた」と激しく攻撃した。

 

また、地方行政機関が予算増額の条件として集票アップを求めたことなどの不正が報じられたり、ロシア正教会の地方幹部に信者への投票を働きかけるよう求めて野党から批判されたりしていた。加えて、モスクワ大学で起きた学生運動は暴力的に鎮圧され、学生が拘束されたほか、反政府的な運動を起こした人びとのみならず、反政府的な運動を「起こしそうな人」を予防的に逮捕、拘束するという事件も多々起きていたという。

 

さらに、反政府系の野党の政府公認を拒否したり、統一ロシアのやり方に批判的だった独立系の選挙監視団体「ゴラス」に強制捜査が入ったり、政府に批判的なインターネットサイト、ブログ、ツイッターを閉鎖するなど厳しいメディア統制を行ったりと、必死の対応が見て取れた。しかし、インターネットサイトの制限には手が回りきらず、選挙前日の3日には、中部エカテリンブルクの学校内で数人の女性が多量の書類に何かを書き込む姿が動画サイトユーチューブで投稿され、多くの人びとに視聴されてしまった。それは投票用紙の与党欄に丸をつける光景であり、投票箱に事前に入れる準備であったため、多くの批判が書き込まれた。

 

あるいは、統一ロシアは、本選挙で議席を大きく伸ばすと見られている野党共産党や極右の自由民主党、左派系の公正ロシアに対し、議席を保証する代わりに「野党を装う」よう依頼し、3党から合意を得たという報道までなされている。このように、あってはならない非民主的な動きが今回の選挙では多々見られ、選挙前から内外で「ロシアに本当の選挙はない」と厳しく批判をされてきたのだ。

 

 

選挙当日にも多くの違反

 

そして、12月4日、投票がはじまると、各地で統一ロシアの苦戦が報じられた。

 

選挙当日にも、野党支持者がモスクワで190人、サンクトペテルブルグで70人拘束された。拘束者はもっと多いという報道も多数なされている。また、当局者が違法に投票箱に投票用紙を放り込む様子や、野党の選挙監視人が不当に追い出される様子など、統一ロシアの違反を証明する動画がたくさん投稿されたという。

 

このような動画は、選挙当日も、選挙後も次々と投稿されており、もはや当局も制御しきれない状況だ。さらに、与党が有権者を複数の投票所に連れて行って投票させていた、野党の選挙監視人が投票箱に封印するのを見届けるのを禁じられた、選挙監視人が確認していた票数や出口調査で推定される票数の2~3倍の票が統一ロシアにカウントされていたなど、伝えられる不正は枚挙にいとまがなく、ロシア全土で1100件以上の選挙違反があったと伝えられている。

 

 

 

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