昆虫食への眼差し ―― ナミビアの昆虫食と資源活用への展望

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虫に対する好き嫌い

 

ナミビアの昆虫食は昔からさまざまな試行錯誤のもとでつづけられてきたようですが、他の食文化と同じく、流行り廃りがあるようです。先に紹介した食用昆虫のなかでも、タマムシや“オマナンパロ”とよばれるイモムシなどは、昔はたくさん食べられていたけれどもいまではほとんど食べなくなっているようです。一方、“オマヘンコエ”は、昔はあまり食べられなかったけれども、いまではたくさん食べられるようになったといわれます。

 

発生する場所が遠方であるため、昔は移動に時間がかかり、あまり採ることができなかったのですが、道路網が整備され、車が行き来するようになり、手に入れやすくなったことから利用量が増えたそうです。また、“オカナンゴレ”は、1980年代にたくさん発生したそうですが、ここ数十年は発生することがほとんどなく、まったく食べられることがありませんでした。しかし、ちょうど今年、まれにみる大発生が起き、懐かしいイモムシを食べる人がたくさん現れました。

 

ナミビアでは昆虫が日常の食材として利用されているわけですが、しかしこれらの昆虫を誰もが大歓迎で食べているわけではありません。面白いのは、肉や魚も同様におかずのひとつなのですが、それらが大部分の人に好まれる傾向がある一方で、昆虫に関しては好き嫌いの差が比較的分かれる傾向がみられます。また、シロアリやタマムシなどの一部の昆虫については、「そんなのを食べるのは●●(別の民族)だ」というような、他の民族を馬鹿にしたような表現がとられることもあります。同じおかずのなかでも、昆虫は少し特別なのかもしれません。

 

 

販売と流通

 

昆虫は自家消費されるのみでなく、ローカル・マーケットなどを中心に販売され、人々の現金収入という意味でも重要な資源となっています。とくに、地方都市の発達やインフラの整備がすすむなかで、ローカル・マーケットには昆虫をはじめ、かつては売買がされなかった自然の産品が並ぶようになっているのです。

 

ナミビアは、長く南アフリカの統治下にあり、人種隔離政策(アパルトヘイト)の影響下で、現地の人々は自由な商業活動を抑制されていました。しかし、1990年に独立をはたすと、急速に民主化が進み、首都や都市部で就労をする人も増加してきました。そうした人々にとっては、マーケットで手に入る昆虫など、田舎からの産物は「懐かしい食材」であり、自分でとりにいけないため、購入して食すのです。

 

もともと、乾燥させた昆虫(とくにイモムシ)は、地域のなかで物々交換をするときの交換材として使用され、袋一杯の乾燥イモムシと同量のササゲ(マメの一種)などが交換されていました。とくに、モパネというマメ科の木を食べるイモムシ、モパネワーム(オマヘンコエもこの一種)は、この地域で物々交換に用いられる代表的なイモムシです。旱魃などで食料に困った世帯のなかには、雨季の終わりに遠方にこのイモムシをとりにいくことで乾季の食料を賄おうとする人もいます。

 

このように利用されていたイモムシは、最近ではむしろ現金に換えられる傾向があります。その販売額は、おかず1食あたりに使用する額で比較すると、肉よりも若干高価な値になっています。乾燥状態で保存できるため、人によっては、テントや食料をロバの車に乗せて、数週間採集の旅にでて数百kgにもおよぶイモムシを集めて帰る人もでてきています。

 

 

町で昆虫を販売する女性

町で昆虫を販売する女性

 

 

おわりに ―― 資源利用に向けて

 

このように、ナミビアをはじめ、アフリカやアジア・南米の多くの国々では、昆虫食は地域の豊かな食文化の一角を占め、現在でも日々の食事のなかに登場しています。ときに、食文化はその地域の外の人には奇異なものとして映り、「食料がないからそんなものを食べているのではないか?」と誤解されることもありますが、味に対して高い評価がされるものもあり、また多様な調理方法がみられるなど、地域の文化として洗練されている様子が見受けられます。

 

しかし同時に、地域の人々のなかでも、「あんなものを食べる人がいる」というような表現がされることもあり、地域の食事のなかで「変わった食材」として扱われる昆虫もあります。これは、食用昆虫と一概にいってもそのなかには多様なものが含まれ、種類によって異なる文化的な意味合いが付与されているとみることができます。一概に「アフリカの人にとっては昆虫が日常の食事だ」と言えないような様子もみてとれ、こうしたところから文化としての昆虫食の深い一面が垣間見られます。

 

昆虫を利用した産業はアフリカではまだまだ発達の途中ではありますが、(ある特定の)昆虫の需要は都市部を中心に増大しており、その昆虫が発生する時期になると、狂喜して採集を行い、マーケットで販売を行う人が現れます。モパネワームについてはナミビアだけでなく、南アフリカ、ボツワナ、ジンバブウェでも同様の傾向があることが確認されており、アフリカでも広範囲でこうした動きがみられるようです。

 

将来的に、産業として昆虫が食用、あるいは家畜の飼料として活用されるポテンシャルは十分にあると思いますが、その際、現地の人々の営み、自然環境と調和したかたちで事業が展開されることが肝要な点です。これまで紹介したように、各地域で独特の文化として築かれてきた昆虫食は、企業などが収奪型の開発を行うことによって大きな影響を受ける可能性もあります。また、利用に関する知識に対する権利、法の整備など、さまざまな課題があることも指摘されています。

 

現在アフリカでは、多国籍企業や“開発”と称する多くのプロジェクトにより、土地や資源の搾取が行われている現状があります。食用昆虫のような、現地の人々の食料源として活用されている資源が、その対象にならないよう注視し、技術的・経済的な議論に終始されることなく、新たな資源活用が進められていくことが重要だと考えます。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.269 

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