歴史問題と和解への道――安倍政権への提言

はじめに――安倍政権への提言

 

歴史問題をめぐって、国内的にも対外的にも混迷が続いています。どう考えても、日本にとっても、近隣諸国にとっても、国際社会にとってもよいことであると思えません。この論稿では、第二次世界大戦の終結から68年を経た「8月15日」を迎えるにあたって、あらためて歴史問題の解決と和解への道について模索しつつ、安倍政権に提言をしたいと思います。

 

 

「安倍談話」と「安倍構想」を――新たな「平和友好交流計画」展開の提言

 

最も重要なことから書きます。安倍政権への具体的な提言です。「安倍談話」を発表し、同時に「安倍構想」を立てることです。

 

私は、この提案を、『自由思想』(石橋湛山記念財団刊行、第129号・2013年4月)に収載された「特別座談会 石橋湛山賞受賞者による時局清談」と、『毎日新聞』(2013年7月3日夕刊)に掲載された「歴史認識一致へ具体的提案を」と題する栗原俊雄記者によるインタビュー記事のなかでふれています。

 

「安倍談話」はともかく、「安倍構想」とは何でしょう。それは、1994(平成6)年8月31日の村山富市内閣総理大臣(当時)の「談話」にもとづき、戦後50周年に当たる1995(平成7)年度を初年度とする日本政府の10か年計画として発足した「平和友好交流計画」の新バージョンです。

 

「村山構想」としての「平和友好交流計画」は、1994年8月31日の「村山談話」における以下のような基本的な考えにもとづいて遂行されました。

 

 

我が国が過去の一時期に行った行為は、国民に多くの犠牲をもたらしたばかりでなく、アジアの近隣諸国等の人々に、いまなお癒し難い傷跡を残しています。私は、我が国の侵略行為や植民地支配などが多くの人々に耐え難い苦しみと悲しみをもたらしたことに対し、深い反省の気持ちに立って、不戦の決意の下、世界平和の創造に向かって力を尽くしていくことが、これから日本の歩むべき進路であると考えます。

 

我が国は、アジアの近隣諸国等との関係の歴史を直視しなければなりません。日本国民と近隣諸国民が手を携えてアジア・太平洋の未来を開くには、お互いの痛みを克服して構築される相互理解と相互信頼という不動の土台が不可欠です。

 

戦後五十周年という節目の年を控え、このような認識を揺るぎなきものとして、平和への努力を倍加する必要があると思います。

 

 

「平和友好交流計画」とはどんなものだったか

 

「平和友好交流計画」の累積の事業費は、10年間でおおむね900億円で、延べ約60の事業が実施されました。2005(平成17)年4月に発行された内閣官房副長官補室(外政担当)『「平和友好交流計画」――一〇年間の活動報告』 (www.cas.go.jp/jp/siryou/050412heiwa.pdf )によれば、その事業概要は、「過去の歴史を直視するための歴史研究支援事業とアジア近隣諸国等との各界各層における対話と相互理解を促進する交流事業を二本柱」としていました。

 

各事業は、内閣官房副長官補室の取りまとめのもと、内閣府、防衛庁、外務省、文部科学省、文化庁の関係5府省庁及び関係法人を実施機関として具体的な事業が推進されました(2001年1月の省庁再編により、内閣官房内閣外政審議室・国際文化交流担当室が内閣官房副長官補室・外政担当に、総理府及び総務庁の一部が内閣府に、文部省が文部科学省にそれぞれ再編)。事業と事業予算の詳細は以下の表の通りです(※クリックで拡大)。

 

 

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(※クリックで拡大)

 

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(※クリックで拡大)

 

 

累積予算額約900億円のうち、758億円(全体の約86.5%)が交流事業に、約82億円(9.4%)が歴史研究支援事業に、約35億円(4%)が「アジア歴史資料センター」関連事業にあてられました。

 

より詳しく紹介しますと、計画全体としては、10年間で延べ約60の事業が実施され、累積予算額は約876億円となっています。ただし、累積予算額については、文化財研究所(2001年度から)および国際交流基金(2003年度から)が独立行政法人化され、個別事業の予算額が運営費交付金の内数となってしまい、特定できないことから、これらの未特定分を考慮すると計画の10年間の実質的な累積予算額は概ね900億円相当と推計されています(『「平和友好交流計画」――一〇年間の活動報告』4ページ)。

 

この計画の対象となったのはアジア近隣諸国等として韓国、中国、台湾、モンゴル、東南アジア諸国、アジア太平洋諸国、さらには、オランダ、英国、カナダ、米国等でした。形態別にみると、歴史研究分野の研究者交流、知的交流、留学生交流、青少年交流、草の根・地域交流等の各界各層の交流関連事業、あるいは関係法人における歴史資料の収集、目録の作成、アジア歴史資料センターにおけるデータベース構築等の文献関連事業があげられます。

 

20世紀の終わり、1990代の半ばの日本政府は、「平和」と「友好」のために何よりもまず、「過去の歴史を直視する」必要があったことをここで再確認しなければなりません。「平和友好交流計画」とは、歴史研究と交流を国家予算で促進する壮大な計画に他なりませんでした。

 

より具体的に説明いたしましょう。私は、さまざまな歴史問題群のうち、とくに、日本軍による敵国捕虜・抑留者の処遇問題を中心に考察をしてきました。現在とくに政治問題化している「慰安婦問題」にアプローチしていくさいにも、単純な比較は決してできませんが、すくなくとも参考例にはなります。

 

たとえば、日英間では、オランダやオーストラリアさらにはニュージーランド等と同様に、第2次世界大戦中の日本軍による捕虜処遇問題が「平和友好交流計画」では焦点となりました。

 

 

 

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