空襲の記憶を「つないでいく」ということ――日本とドイツにおける慰霊・記念碑から映像作品まで

本稿では、日本とドイツの空襲記憶に関する前提知識から両国の慰霊・記念・表象のあり方を紹介しながら、それらを比較し、空襲記憶の未来について考えたい。

 

結果として、多岐にわたる事項の羅列になってしまっている。しかし、これらは互いに絡み合う問題であり、また相互に関連付けて接続していくことこそ、将来の戦争記憶についての知恵を生み出すのではないだろうか。

 

いわば、本稿は「今、自分のいる場に引きつける」あるいは「引き受ける」ための材料の整理といった側面を持つものである。

 

まずは「今」に引きつけるために、約70年前という大空襲時からではなく、ほんの数年前に世界が体験した空襲から話をスタートさせたい。

 

 

はじめに――日独の空襲を語る前提

 

2011年のリビア空爆。テレビやネット上で流れた空爆映像が記憶に新しい方もおられるだろう。そのリビア空爆の100年前、1911年に人類は、エンジン動力の有人航空機からの爆弾の投下「空爆」を戦争ではじめて用いた。しかも、これはリビアでの出来事であった。

 

その後、飛行機と爆弾が組み合わされた爆撃テクノロジーは飛躍的な進歩をみた。第一次世界大戦では、主に英独で約2200人の民間人の死者数(*1)だったが、約20年後の第二次世界大戦では少なく見積もっても70~80万人の民間犠牲者を数えている(実数は未だ不明)。そして、先の大戦の空襲犠牲者の大半を占めたのが、ドイツと日本の犠牲者であった。

 

(*1)イギリス側で1414名。ドイツで746名と言われている。

 

これから日独の空襲記憶のあり方について考える前に、まずは歴史的な前提である国家間の関係性を押さえておくことが必要だと思う。

 

第二次大戦中、ドイツはイギリスを空爆し、イギリスはドイツを空爆した対照関係にあった。いわば独英は相互に国土と民間人を爆撃しあう関係にあった。これに対して日本の様相は異なる。後に触れるアニメーション映画『風立ちぬ』(宮崎駿監督、2013年)で映し出されていたように、日本は中国を爆撃したが、中国大陸からは、アメリカの爆撃機が日本に飛来したものの、中国から日本の民間人が爆撃を受けたわけではない。

 

また、アメリカの存在は、ドイツに対しても、日本に対しても同じような加害・被害の関係図式に当てはまるが、イギリス空軍主体であったドイツ空襲に対して、日本空襲はアメリカ軍が主体となっているという違いがある。さらに、冷戦下の国際関係では、ドイツは地理的にもイデオロギー的にも東西に分裂したが、日本の場合、冷戦の境界線が東シナ海と日本海という海上に引かれていたのである。

 

 

yanagihara

 

 

 

日独の空襲犠牲者に対する国家レベルの追悼――忘れられた犠牲者?

 

では、上記の前提を踏まえた上で、日本とドイツの空襲はそれぞれの国でどのように扱われ、いかに記憶(記念)されているのだろうか。まずは、空襲犠牲者の国家的な追悼から見ていきたい。

 

日本では姫路市手柄山中央公園内に「太平洋戦全国戦災都市空爆死没者慰霊塔」が建てられている。詳しくは首相官邸ホームページに記載されているが、この塔が完成したのは1956年10月26日であり、毎年同日には、太平洋戦全国空爆犠牲者追悼平和祈念式が挙行されている。本慰霊碑に刻まれている「死没者数509,734人、罹災人口9,551,006人」は一種の公的な空襲犠牲者数と捉えてよいだろう。

 

ただし問題は、この塔や10月の慰霊式典がどれだけの人に認知されているかということであり、それは数にすれば少数だと思われる。認知度という点では、毎年8月15日に武道館で行われる全国戦没者追悼式の方が高いのではないだろうか。

 

 

太平洋戦全国戦災都市空爆死没者慰霊塔(CC BY 3.0)

太平洋戦全国戦災都市空爆死没者慰霊塔(CC BY 3.0)

 

 

次に、ドイツの空襲犠牲者に対する国家的な追悼・慰霊についてご紹介したい。

 

1993年以降、11月の第3日曜日を国民哀悼の日として、ベルリンの目抜き通りウンター・デン・リンデン沿いの施設「ノイエ・ヴァッヘ」では、空襲犠牲者を含む戦争犠牲者の追悼式典が行われている。同施設は、別名「戦争と暴力支配の犠牲者のための国立中央追悼施設」と称される。このノイエ・ヴァッヘの追悼対象は広く、「戦争により迫害を受けた各民族」「戦争捕虜」「ユダヤ」「シンティやロマ」「同性愛者」「病弱者や障害者」「ナチス体制への抵抗者」などが含まれる。

 

「世界大戦での戦没者たち」という呼称の中に空襲犠牲者が位置するが、同時に兵士も含まれている(*2)。このようにドイツでは、空襲犠牲者が軍人軍属の犠牲者と区別されない場合もある。

 

(*2)世界各国の戦没者追悼についてのデータ: http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tuitou/dai7/7siryou1.pdf

 

後述するように、これは犠牲者への救援・支援(遺族年金など)にも反映されており、同一の扱いを受けている。ただし、ナチ指導部や虐殺に関連しては、国内法で裁かれたり、遺族年金などが支給されなかったりとの特別措置が講じられている。

 

 

ノイエ・ヴァッヘ(パブリック・ドメイン)

ノイエ・ヴァッヘ(パブリック・ドメイン)

 

 

 

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