「反日」化する韓国司法 ―― なぜ「解決済み」の問題が蒸し返されるのか

「反日」がビルトインされている韓国憲法

 

そもそも、「反日」は韓国の憲法そのものにビルトインされているため、それに基づく司法が「反日」化するのは、遅かれ早かれ、ある意味、論理的帰結にすぎない。

 

高裁に差し戻した2012年5月24日の大法院判決(ソウル高裁に差し戻した判決文(PDF)と釜山高裁に差し戻した判決文(PDF))を精査してみよう。

 

まず、「『強制徴用』以前に、そもそも『日帝強占(引用註:日本による韓国統治は帝国主義によって強制的に占領されたものであるという意味)』自体が大韓民国憲法の核心的価値と全面的に衝突」(括弧による強調は引用者)するという。そのため、1910年の韓国併合条約は「強占」ではなく双方の合意に拠るものであるという日本の法的立場をそのまま承認したことになる下級審の判断には、法的瑕疵があると断じた。その上で、「日本の国家権力が関与した反人道的不法行為や、植民地支配と直結する不法行為による損害」に対する個人請求権は、日韓請求権協定によって消滅していないだけでなく、韓国政府による外交保護権も放棄されていないという判断を示した。

 

憲法自ら、「3・1運動によって建立された大韓民国臨時政府の法統」を「継承」(大韓民国憲法前文)しているとうたっている以上、1919年に起きた「3・1運動」が抗った「日帝強占」はそもそも不当かつ不法であり、それ以降の国家総動員や戦時徴用も当然、「日本の国家権力が関与した反人道的不法行為」、あるいは「植民地支配と直結する不法行為」となる。つまり、問題は、「戦時」徴用ではなく、それ以前からの「日帝強占」そのものにあるというのである。

 

 

「もはや無効」という賢慮は「もはや無効」なのか

 

一連の「反日」判決は「反日」がビルトインされている韓国憲法に由来し、この点にこそ、日韓の歴史認識が正面から食い違っているため、日韓関係への波及は甚大である。

 

日本とすれば、「両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題」は、日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」(同協定第2条第1項)として、「法的には解決済み」という立場を政府も司法も一貫して堅持してきた。「両締約国及びその国民(法人を含む。)」と規定されている以上、個人請求権も消滅しているとみなしているのは当然である。

 

その個人請求権について、今回、慰安婦だけでなく徴用工についても、消滅していないと韓国の司法が認めたわけである。韓国政府は今のところ公式見解を示していないが、高裁判決が大法院でこのまま確定すると、慰安婦の場合と同じように法的立場を変更する蓋然性が高い。

 

「この協定の解釈及び実施に関する両締約国の紛争」(同協定第3条第1項)が存在することは、もはや明白である。だとすると、いみじくも慰安婦問題について韓国の憲法裁判所が指摘したように、「まず、外交上の経路を通じて解決」(同上)を図り、当事者同士で解決できない場合は、第三者の「仲裁委員会」(同協定第3条第2項)に付託するシナリオがいよいよ現実味を増してくる。

 

1965年に、日韓国交正常化を成立させ、今日までおよそ半世紀の間、日韓関係を安定させてきたのは、日韓基本条約と日韓請求権協定など付随する諸協定、そして日韓紛争解決交換公文という法的枠組み自体である。それが、今、日韓関係をむしろ不安定化させているのである。

 

日韓請求権協定はそもそも「サンフランシスコ講和条約第4条(a)」(同協定第2条第1項)に基づく「特別取極」(同条約第4条(a))である。サンフランシスコ「講和」条約は、敗戦国として、戦勝国である連合国との「戦後」処理の法的枠組みであり、その締結をもって日本は「主権回復・国際社会復帰」(首相官邸ウェブサイト「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」2013年4月28日)を果たした。同時に、「朝鮮の独立を承認」(同条約第2条(a))し、「台湾及び澎湖諸島」(第2条(b))、「千島列島並びに(略)樺太の一部」(第2条(c))、「国際連盟の委任統治制度」(第2条(d))などに関する「すべての権利、権原及び請求権を放棄」(同条(a)~(d))した。

 

その「独立」以前の「朝鮮」の法的性格をめぐって、日韓は、国交正常化交渉で熾烈に争った。日本は、韓国併合条約は合法で、敗戦とともに失効したとみなしていた反面、韓国は、「日帝強占」はそもそも不法であると主張していた。韓国とすれば、日本との国交正常化にあたって、焦点は「戦後」処理ではなく、あくまでもポスト「日帝」、つまり日本による植民地支配の謝罪と清算にあった。そもそも、韓国は日本と戦争したわけではなく、当然、連合国でもなければ戦勝国でもない。

 

この韓国併合条約の法的効力の解釈に関する日韓間の紛争は、当時は、両国の政治リーダーによる「賢慮(prudence)」で解決された。当時の佐藤栄作総理と朴正煕大統領は、韓国併合条約は日韓基本条約でもって「もはや無効である(이미 무효)(already null and void)」(同条約第2条)とした。これは「合意できないということに合意する(agree to disagree)」の典型で、双方それぞれ都合よく解釈し自国民向けに異なる説明をしても、相互に干渉せず、外交問題にもしなかった。言うまでもなく、佐藤元総理は安倍晋三総理の大叔父で、朴元大統領は朴槿恵大統領の父である。

 

このメタレベルの「合意」は、2013年の今、それこそ「もはや無効」なのか。韓国の司法は、「日帝強占」が「そもそも不法かつ無効(ab initio null and void)」という立場であることはもはや明白である。韓国政府は、当然、その法的制約を受けていて、朴槿恵大統領がとりうる政策空間の幅も限定されている。こうした中、安倍総理は、一体、どのようなリーダーシップを示すことができるのか。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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