トルコのEU加盟問題 ―― 加盟交渉、キプロス問題、国内世論

2013年7月1日、クロアチアがEU(欧州連合)に28番目の加盟国として正式加盟した。旧ユーゴスラビアからの独立を巡り、死者2万人を出した激しい内戦(1991年―1995年)を経験したクロアチアにとって、EU加盟は平和の保証を意味する。

 

クロアチアは2003年にEU加盟を申請し、EUとの加盟交渉は2005年にスタートした。その後、ユーゴ内戦の戦争犯罪者の処分や人権保護、財政健全化といった加盟条件を満たし、交渉開始からおよそ9年で正式加盟を実現させた。

 

2005年にはクロアチアと並んでトルコもEUとの加盟交渉を開始している。しかしトルコのEU加盟交渉は進んでおらず、さまざまな課題が残されている。トルコの「欧州の仲間入り」に向けた歴史は古く、1963年にはEUの前身であるEEC(欧州経済共同体)へ加盟を申請している。1987年にはEC(欧州共同体)へ加盟申請し、12年後の1999年にようやく正式加盟国として承認された。加盟交渉は2005年にスタートしたものの、今のところ交渉は停滞しており加盟の見通しは立っていない。実にトルコは50年もの間EU加盟を待ち続けているのである。

 

クロアチアと比較すると、トルコの加盟がEUにもたらすインパクトの大きさがわかるだろう。クロアチアの人口はわずか440万人、EU全体の人口の1パーセント以下である。国土はわずか5万6,000平方キロメートルだ。経済水準は比較的高く、一人当たりのGDPは約1万3,000ドルと既存加盟国であるハンガリーやポーランドを上回っている。

 

一方、トルコの人口はおよそ7,500万人で、EU加盟国と比較すると最大の人口を誇るドイツに次ぐ大国であり、フランスやイギリスを凌駕する。トルコの面積は78万3,600平方キロメートル(日本の約2倍)で、EUの中で最大の面積を誇るフランス(55万平方キロメートル)よりも大きい。

 

トルコの一人当たりのGDPは1万ドルの大台に乗ったものの、トルコがEUに加盟した場合、EU圏内へトルコから大量の労働者が流入すると見られている。このため、クロアチアに比べてトルコの加盟はEUの既存加盟国に大きな経済的負荷がかかると考えられる。

 

また、シリア、イラン、イラクなどに接するトルコがEUに加盟した場合、EUは安全保障上の問題を抱えるこうした中東諸国と直接向かい合うことになる。

 

これまでトルコのEU加盟交渉については、トルコの加盟に否定的なEU諸国に対してトルコ側は一途にEU加盟を熱望してきたといわれてきた。しかし、南北に分断されるキプロス問題を原因にEU加盟交渉が停滞し、欧州でイスラムに対する偏見やトルコ人への排斥運動が高まる中、トルコ国内ではEU加盟に反対する声も強まっている。

 

そこで本稿では、トルコのEU加盟プロセスの現状を整理し、加盟に向けた課題、特にキプロス問題について概説する。さらに近年のトルコ国内におけるEU加盟に対する世論を検討することとする。

 

 

これまでの加盟交渉の経緯とトルコ国内政治

 

トルコは1987年にEC(欧州共同体)に正式に加盟申請をおこない、1995年にはトルコとEUとの間で関税同盟が締結された。これにより経済面におけるEUとトルコの統合が前進した。1999年にはEUがトルコを正式加盟候補国として認定し、2001年になるとEUと加盟準備協定を結んでいる。この協定に基づき、トルコはEU加盟交渉開始に向けた諸改革を進め、民主制と法の支配の確立、人権およびマイノリティーの権利保護及び拡大といった領域で法改正および部分的改憲を実現させた。

 

たとえば、トルコでは市民社会組織や労働組合の活動が自由化され、基本的人権の保護・拡充が進められた。死刑制度も廃止され、1999年に逮捕されたPKKのオジャラン指導者に課せられていた死刑は終身刑へと減刑された。さらに軍部の影響力を削ぎ、文民統制を強化するために、軍部の政治的関与を維持するための国家機関である「国家安全保障会議」についてもメスを入れ、文民政治家の発言力が高まることになった。経済的分野においても市場経済メカニズムを向上させるための諸改革が実施された。

 

こうしたトルコの民主化改革の原動力がEU加盟交渉という外圧であったことは明らかである。EUへの接近が経済成長を後押しすると産業界は国内改革を強く支持したし、クルド語放送の解禁などを求めるクルド系組織もEU加盟に賛同した。2002年から政権の座にある公正発展党(AKP)は、そもそもはイスラム系政党であるが、EU加盟に向けた法改正を積極的に行った。EU加盟に向けた民主化要求と、これまでイスラム系政党を敵視してきた軍部の政治的発言力を削ぎたいというAKPの思惑が一致したからだ。

 

トルコの地道な努力はようやく実を結び、EUは2005年にトルコとの加盟交渉をスタートさせた。しかしながら、加盟交渉の行方は極めて不確かである。EUに加盟するためには35もの政治経済に関する交渉分野が存在し、それぞれの分野においてEU法とトルコの国内法を一致させる作業が行われる。

 

しかしこれまでに交渉が終了した分野は「科学・調査」の一分野に過ぎない。2012年10月に欧州委員会が発表した、EU加盟に向けたトルコの改革状況に関する年次報告書(Progress Report)では、言論の自由、司法制度、汚職、宗教的マイノリティーの権利保護など、さまざまな政治的分野で改善の余地が多々あると指摘されている。

 

トルコのエルドアン首相は昨年、共和国建国100週年となる2023年までには遅くとも加盟できるとの見方を示したが、すべての交渉を終えるためにどれだけの時間が必要か、だれにもわからないのだ。

 

 

 

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