アメリカはなぜイラクの民主化に失敗したのか

奇妙な問い

 

アメリカがイラクの民主化に失敗したのはなぜか。まさにアメリカがシリアに軍事攻撃を仕掛けようとしている現在(※編集部註:本記事は9月13日に脱稿されました)、この問いかけは非常にアクチュアルで、示唆に富んだ問題にみえる。

 

だが、もう少し大局的に考えてみると、この問いは非常に奇妙でもある。武力をともなった外部からの侵攻によって、民主化が実現すると想定するほうが、理にかなっていないからである。

 

そもそも、世界史的視点でみると、民主主義は珍しい政治体制である。手元にある話題の新刊本を紐解いてみると、その理由が良くわかる。曰く、包括的な政治制度(自由で民主的な政治)と、包括的な経済制度(開放的で自由な市場経済)が組み合わさったとき、持続的な経済発展が可能となるが、こうした好条件は様々な偶然が重なり合ってはじめて可能となる。通常は、その反対の収奪的な政治制度(権威主義体制など)と収奪的な経済制度の組み合わせに陥る(ダロン・アセモグル、ジェイムズ・ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか――権力・繁栄・貧困の起源 上・下』(鬼澤忍訳)早川書房、2013年)。

 

言い換えるなら、包括的な政治と経済の制度を作り上げる諸条件が偶然に重なり合わなければ、政治体制は権威主義的になり、民主化は起こらない、ということである。民主主義体制を作るのは、それほどまでに難しい。様々な条件が邂逅した結果なのである。

 

イラクについて考えると、さらに厄介な問題が首をもたげてくる。それは、民主化がアメリカを中心とする外部アクターによって持ち込まれたという点である。民主化支援は、ポスト冷戦期に注目を集めるようになった。無論、軍事攻撃だけではなく様々なアジェンダを含んでいる。ところが、これまで外部から民主主義を押し付ける民主化支援の試みは、ほぼ全て失敗してきたと言ってよい――ミャンマー、ルワンダ、カンボジアなど、その例は枚挙に暇がない。

 

イラクのように軍事侵攻によって民主化しようとしたり、西洋的基準に則った政治的・経済的コンディショナリティを強制したりと、民主化支援それ自体が非常に非民主的であるというジレンマもある。民主化支援を受ける当事国の指導者も、フリーダムハウスやポリティIVなどのアメリカの基準で民主主義の程度を測られることに、強い不快感を持っているだろうし、理不尽だと考えていることは間違いない。前述のように、当事者たちが時間をかけて徐々に民主主義体制を作りあげること自体、非常に困難であるのに、それを外部介入によって短期間で成し遂げようとすると、さらに難易度が上がってしまう。

 

このように、アメリカがイラクの民主化に失敗したのはなぜか、という問いかけに対する答えは、「はじめから成功する見込みはほとんどなく、失敗したのは当然の帰結だ」となる。

 

とはいえ、アメリカの覇権が続く限り、西洋的な民主主義は今後も政治体制の基準になるだろうし、民主化支援で民主化が成功するはずがない、と主張して思考停止に陥るのはあまりよろしくない。なぜ失敗したのか、イラク固有の事情を浮き彫りにしつつ、そのメカニズムを解明することは、イラクだけではなくシリアをはじめアメリカのターゲットになっている国々の今後を考えるうえで必要な作業となるだろう。

 

端的に言えば、アメリカによるイラクの民主化が失敗した根本的な要因は、「民主化を国家機構の建設と同時に進めたこと」に求められると筆者は考えている。詳しくは、今年の初めに上梓した拙著『紛争と国家建設――戦後イラクの再建をめぐるポリティクス』(明石書店、2013年)で論じたので、ぜひ手に取って読んでいただきたい。以下では、同書の内容をもとに、民主化の失敗要因をなるべく分かりやすく説明してみたい。

 

 

 

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