「イラン核開発問題」の諸相 ―― その解決は可能か

イランで穏健派のロウハーニー大統領が誕生し、イラン核開発問題の行方ににわかに注目が集まっている。「イランは決して後退しない」との主張をひたすら繰り返したアフマディーネジャード大統領の時代には、核交渉はすっかり行き詰ってしまっていた。これに対してロウハーニー大統領は、イラン核開発問題の「可能な限り速やかな解決を望む」ということを、世界に向けて宣言している。ロウハーニー大統領はすでに、米国のオバマ大統領との電話会談も実施しており、「問題解決」への期待は否応なく高まっている。

 

しかしイラン核開発問題は、イランへの核不拡散の問題にとどまるものではない。この問題はたとえば、核不拡散体制のあり方そのものに関わる問題であり、また同時に、イスラエルの安全保障の問題でもある。イラン核開発問題はまた、イランが位置する中東地域全体の安全保障枠組みの、行方を左右する問題でもある。さらにイラン核開発問題は、1979年の革命以降「イスラーム共和国」体制を採用するイランという国の、「目指すもの」に関わる問題でもある。

 

そこで本稿においてはイラン核開発問題のさまざまな側面に焦点をあてつつその経緯を振り返り、この問題の「解決」の可能性について考察することを試みる。イラン核開発問題には複数の要素が絡み合っていることにより、「イラン核開発問題とは何か」という問いに対する回答は、回答者の置かれた立場に応じて異なってくる。そしてそのために、この問題の解決とは何を意味するかをめぐっても、多くの見解が存在する。そのようなイラン核開発問題の解決とは、はたしてどのようなものであり得るだろうか。以下、見て行くことにしたい。

 

 

 

イラン核開発問題の発生

 

イラン核開発問題が発生したのは、2002年8月のことである。このときイラン国内に、国際原子力エネルギー機関(IAEA)に未申告の核施設があることが判明し、「イランは秘密裏に核兵器開発を行っているのではないか」という疑惑が一気に高まった。

 

しかしイランは、イランの核技術開発はあくまでも核兵器不拡散条約(NPT)加盟国の「奪い得ない権利」としての、「核の平和利用」のためのものだと主張した。これに対して欧米諸国は、「平和利用なら秘密裏に行う必要はない」としてイランによる核技術開発の停止を求め、その要求に反し核技術開発を続けるイランに対し、これまでさまざまな制裁を科してきた。

 

イランはなぜ、「平和利用目的」と主張する核技術開発を、IAEAに未申告で行っていたのだろうか。その理由の一つとして、79年のイラン革命を挙げることができる。革命により米国と良好な関係を維持していた国王は追放され、イランの革命体制は反米的な性格を強めて行った。そして米国はそのようなイランに対し、核兵器の製造にも転用可能な核技術へのアクセスを認めるわけにはいかなかった。その結果革命前にドイツが建設を開始した原発の完成をイランが80年代に模索したときも、米国の関係各国への圧力が理由で、最終的にロシアの協力を取りつけるまでに長い年月がかかった。

 

他方、革命により核技術の供与を受けることが困難になったイランは、自力での技術開発を目指し、いわゆる「核の闇市場」にもアクセスしたとされる。また、イランが革命により中断していた核技術開発の再開に踏み切った80年代中盤は、イラクとの戦争のまっただなかであった。イランにおける革命の混乱に乗じ、イランを侵攻したサッダーム・フセイン政権のイラクは、戦争中はイランに対して化学兵器まで使用し、欧米諸国はそれを知りつつ沈黙していた。イランの核技術開発はこのようなタイミングで再開され、それにより、その「真の意図」が疑われ続けることになった。

 

 

核交渉の経緯と現状

 

イラン核開発問題が発生すると、この問題を解決するための交渉が開始された。これまで10年以上にわたるその過程において、核交渉は多くの紆余曲折を経てきたが、今日と10年前とを比べると、大きな違いが一つある。それは、イランが当初核技術開発の「完全放棄」を求められていたのに対し、今日ではそのような要求はすでに聞かれないという点である。

 

核開発問題の発生後、イランはまず英、独、仏の3か国(EU3と呼ばれる)との合意に基づき、「信頼醸成のため」にウラン濃縮関連活動を停止した。しかしウラン濃縮の停止から1年半以上を経てイランに突きつけられたのは、「核技術開発完全放棄」の要求であった。EU3からのこの要求を受けて、イランは新たな行動に出る。ウラン濃縮の前段階にあたるウラン転換作業を、IAEAに申告のうえ、おもむろに再開するのである。

 

その後イラン核問題は国連安全保障理事会に付託され、核技術開発の停止を求める安保理決議の採択以降も核関連活動を継続するイランには、これまですでに4次にわたり、安保理制裁が科されている。しかしそれにもかかわらず、イランは核技術開発を続け、これまでに3.5%のみならず「20%未満」(正確には19.75%)のウラン濃縮技術を確立し、濃縮ウランの製造を続けてきたのみならず、「第二の濃縮施設(地下施設)」まで稼働させた。

 

そしてそのような今日のイランに対し求められているのは、「20%未満濃縮の停止」、「地下核施設の閉鎖」、あるいは「(抜き打ち査察を認める)IAEA追加議定書の批准」などであるとされている。つまりかつてのような「核技術開発の完全放棄」という要求は、今日のイランにはもはや突きつけられていないのである。

 

 

シノドスの運営について

 

シノドスは日本の言論をよりよくすることを目指し、共感してくださるみなさまのご支援で運営されています。コンテンツをより充実させるために、みなさまのご協力が必要です。ぜひシノドスのサポーターをご検討ください。

⇒ https://camp-fire.jp/projects/view/14015

98_main_pc (1)

 

 セミナー参加者募集中!「対話/ダイアローグから見た精神医学」植村太郎(12月16日16時~18時)

 

 

無題

 

vol.233 公正な社会を切り開く 

 

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」

 

vol.232 芸術にいざなう 

 

・吉澤弥生氏インタビュー「人をつなぐ芸術――その社会的評価を再考する」

・【現代演劇 Q&A】長瀬千雅(解説)「時代を捕まえるダイナミクス――現代演劇事始め」

・【今月のポジ出し!】橋本努「タックス・ヘイブン改革 香港やシンガポールにも圧力を」

・増田穂「『知見』が有効活用されるために」

 

1 2 3
シノドス国際社会動向研究所

vol.233 特集:公正な社会を切り開く

・ジェームズ・ミニー氏、鈴木啓美氏インタビュー「もっと楽しいお買い物を目指して――フェアトレードの魅力」

・【「民主」と「自由」――リベラルの再生へ向けて――】古川江里子「大正デモクラシーと吉野作造 ―大日本帝国憲法下での民主主義的政治の試みが現代に問うもの」

・【知の巨人たち】重田園江「ミシェル・フーコー――なぜ『絶望系』なのに読んでしまうのか」

・阪井裕一郎「学びなおしの5冊 <家族>」