絶望の果てに希望は見出せるか──アフリカ遊牧民の紛争のフィールドワークから

未明の襲撃

 

アフリカでも高地の明け方はかなり冷え込む。

 

未明5時、敵の笛の音があたりに鳴り響いた。襲撃者が自らを勇気づけるために歌う戦闘歌が低く響く。辺りに悪臭が漂う。われわれの民族はシマウマの臭いを嫌うが、敵兵は、防寒のために、シマウマの脂を体に塗りつけているからだ。敵兵は、防寒のために、ジャンパーやプルオーバーを着ているが、われわれに見せかけるために、同じような腕輪、耳飾り、頭巾を身に纏っている。

 

敵の侵入を防ぐために集落を囲っている棘のある樹木がミシミシと破られていく。囲いには銃を持って寝ずの番をしているわれわれの警備がいる。襲撃を知った警備は空砲を撃って知らせる。「早く外に出ろ!」。

 

最初に、家屋の外に出ている人間がつぎつぎに銃殺されていく。そして銃を持った敵兵が家の入り口に1人1人張り付き、威嚇のために空砲を撃つ。もし、家屋から人が出てくると、そのまま即座に銃殺される。家の中を無差別に銃撃する襲撃者もいる。たまたま弾丸が当たれば子どもも老婆も死ぬ。その間に、別の一団が集落の牛群すべて――集落の人々の全財産に等しい――を略奪して、逃走する。

 

 

集落囲い

集落囲い

 

 

紛争報道――流布されるグローバルな綺麗事

 

よく尋ねられる。「どうしてアフリカ遊牧社会で紛争のフィールドワークをしようと思ったのですか?」実は、そう思ったことは一度もない。たんにこれまでフィールドワークしていた遊牧民が紛争に巻き込まれたからそれを追いかけてきただけなのだ。

 

現地の人々ですらこの紛争についてよく知らない。紛争地を訪れたのは、現地の人々から紛争が終わったと聞いたからだった。しかし実際に紛争地に行ってみると、襲撃は続いていた。夜中には銃声が鳴った。夜間には、集落の周囲は棘のある柵で囲われるため、夜通し小便を我慢した。夜に小便に行こうとして敵と間違われて銃撃された人もいた。

 

この紛争は、驚くほど知られていない。ある国際NGOの報告書が唯一と言って良い報告だが、そこにはこれまで無視されてきたことが特筆されている。人道的な危機であったにもかかわらず、赤十字によるわずかな支援を除き、国家からも国際機関からも、ほとんど何の支援も行われなかった。昨年英国で開催されたある国際会議には、名だたる遊牧民研究者が参加していたが、この紛争のことを完全に誤解していた。

 

567人。どこにも統計がないので、わたしが各地をまわって調べたこの紛争による死者数の総計である。わたしは紛争を止められたわけでもないし、死者を蘇らせることができたわけではない。わたしが紛争のフィールドワークでやったのは、せいぜいやるせない「墓標作り」の作業にすぎない。

 

冒頭の話を聞いていて、背筋に戦慄が走った時のことは鮮明に記憶している。フィールドワークが深まると、ちょうど映画の1シーンのように、つぎつぎにリアルなイメージが浮かぶようになった。そのイメージは、これこそが世界の真の姿だとわたしに語りかける。コンビニで、ショッピングモールで、駅のホームで、そのイメージは、突如として、つねにわたしがいる現実を揺るがせ、苦しめる。

 

2009年に24人が殺害された虐殺事件が発生してから、この紛争は突如として、新聞紙面に登場するようになった。

 

記事の多くは、この紛争を、牧畜民の伝統的な家畜略奪や民族衝突として扱っていた。とくに、近年、影響力を持っているのが、資源紛争説である。ある新聞紙面の例を挙げると、「気候変動(俗に言う地球温暖化)」の影響で、乾燥化が進んだために、稀少化した牧草や水などの資源をめぐって、遊牧民が争いを繰り返すという国連の報告書のシナリオが引用されていた。

 

断言するが、この紛争について言えば、これらの説明は間違っている。牧畜民の伝統的な家畜略奪においては、組織的な焼き討ちが行われることはなかった。ふたつの民族の関係はずっと良好で、通婚や贈り物もみられ、お互いの言葉を話せる人もいた。牧草や水の用益権は、両民族の間でゆるやかに共有されていた。雨が降って牧草が生えれば、よその民族が放牧に来ても、誰も文句を言わなかった。「困ったときはお互い様」というわけだ。そもそも、この地域は最も農業開発が成功した地域であり、少なくとも、稀少な資源をめぐる争いの証拠などひとつもなかった。

 

こうして、一度も現場に足を運んだことのない国際機関やメディア関係者の、すべて憶測と仮定に過ぎないことが真実として流布されていく。われわれの現実はこうしたグローバルな綺麗事によってできあがっていくのだ。

 

 

 

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