せめぎ合いのなか友好的敵対に軟着陸したシリア和平会議

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化学兵器攻撃がもたらしたアサド政権の正統性

 

ジュネーブ2会議は、シリア国内での武力紛争が激化する直前の2012年6月30日にスイスのジュネーブで開かれた「シリア作業グループ会合」(ジュネーブ1会議)にその起源を持つ。

 

この会合には、「人道」的立場からアサド政権打倒を主張する「シリアの友」の米英仏、カタール、クウェート、トルコと、主権尊重の立場からシリア人どうしによる紛争解決を支持し、アサド政権の存続を認める露中、イラクが出席し、シリア国内での暴力停止に向けて協議し、「ジュネーブ合意」を採択した。ジュネーブ2会議の基本原則となるこの合意の要点をまとめると以下の通りである[*4]。

 

 

1.  現下の紛争を平和的対話と交渉のみを通じて解決する。

2.  すべての当事者は、あらゆる形態の武力行使の停止、逮捕者釈放、国際機関および報道機関の活動の自由の保障などを骨子とするコフィ・アナン国連・アラブ連盟合同特使(アフダル・ブラーヒーミー国連アラブ連盟共同特別代表の前任者)の6項目停戦案(2012年3月)を遵守する。

3.  現政権、反体制組織、それ以外の組織のメンバーから構成され、完全なる行政権を有する移行期統治機関(移行期政府)を当事者の総意のもとに発足させる。

4.  シリア社会のすべての成員が国民対話プロセスに参加し、憲法改正および法改革を再検討、その結果を信任投票に諮る。新憲法制定後、自由選挙を準備、実施する。

5.  国際社会(シリア作業グループ)は、シリアの独立、主権、領土を尊重しつつ、暴力停止と移行プロセス開始に向けて行動し、紛争のさらなる軍事化に反対する。

 

 

ジュネーブ2会議に関して、欧米メディアでは、アサド政権退陣の是非をめぐる当事者間の解釈の違いを指摘しつつも、「アサド政権に代わる」移行期政府の樹立が目的とされているとの報道が目立った。

 

だが、上記の3.に「現政権、反体制組織……から構成され……当事者の総意のもとに発足させる」と記されていることに着目すると、アサド政権が同意しない政治解決はそもそも想定されておらず、その存続が含意されていることは明らかである。実は、この文言は、アサド政権存続を認める露中、イラクの強い意向を受けて盛り込まれたもので、米英仏などは2012年半ばの段階でアサド政権の存続を認めさせられていたのである。

 

「シリアの友」はその後、ジュネーブ合意を実現するには「現地のパワー・バランス」を変え、アサド政権を退陣に追い込む必要があると主張し、サウジアラビア、トルコ、カタールが外国人サラフィー・ジハード主義者の潜入支援、武器兵站支援、資金供与を加速させ、ダーイシュやヌスラ戦線の台頭を誘発した。

 

一方、欧米諸国は、事態に対処するため、シリア国民連合や自由シリア軍参謀委員会といった世俗的な「穏健な反体制派」の強化を試みたが奏功せず、泥沼化する混乱のなかでなす術を失っていった。

 

こうしたなかで2013年8月21日にダマスカス郊外県グータ地方で発生したのが化学兵器攻撃だった。2012年半ば頃からシリア国内でシリア軍、反体制武装集団双方による使用がとりざたされていた化学兵器をめぐる国際社会の対応については、紙面の制約上本稿では割愛するが、米露は事件に対処するなかで化学兵器の全廃をアサド政権に求めることで合意し、米英仏は計画していたシリアへの限定的な軍事攻撃を見送った[*5]。

 

「シリアの友」はこの経緯を政治的勝利だと鼓舞したが、介入の根拠を「人道」から安全保障へとパラダイム転換させる契機となったこの米露合意によって、アサド政権は化学兵器廃棄プロセスを実施する「正統な代表」としての存在と、同プロセスを安全かつ円滑に進めるための措置、すなわち反体制勢力の掃討を認められた。

 

[*4]2012年6月のジュネーブ合意全文(英語)は「シリア・アラブの春顛末記」2012年7月1日を参照。

 

[*5]詳細な経緯については拙稿「シリア 武力紛争の二年半は何だったのか――欧米の思惑と跋扈するジハーディスト――」(『世界』第849号、2013年11月、236~242ページ)を参照されたい。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.266 

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