未完のプロジェクトとしてのフェアトレード――現場から見る可能性と限界

即金主義の仲買人

 

加盟世帯数減少の理由を理解するためには、まずラオスにおいて仲買人が、どのようにコーヒーを買い取っているのかを説明しなくてはならない。仲買人は一般的にコーヒーの産地で生まれ育った人々が多く、輸出業者や銀行から融資を受けて、その資金を元手として農家からコーヒーを買い取り、輸出業者に売却することによって利益を上げている。利益は1キログラムあたり100キープ(1円)程度であるが、なかには年間に1億キープ(100万円)程度の利益を得る者もいる。

 

この仲買人の取引の特徴は、収穫期に毎日、トラックで村々を回って農家を訪問し、コーヒーを即金で買い付けていることにある。仲買人は毎日輸出業者が提示する買取価格を参考にして、100キープ程度の利益が出るように調整して、農家から買い付けをしているのである。

 

仲買人は決して支払いを遅延することはなく、必ずその場で取引が完了する。それは農家が仲買人を信頼していないためであり、いくら顔見知りであったとしても、一般的に金持ちだとされる仲買人は、農家から「何かずるをして金儲けをしているのではないか」という疑念を向けられている。

 

ある農家は「私たち農民は計算が得意ではないので、仲買人のいうままにコーヒーを売却していた。でも、あるとき仲買人が計量機を細工しているという噂を聞き、仲買人の言っていることが信じられなくなった」と愚痴をこぼす。このため農家はその場で計量機を前にして仲買人と一緒にコーヒーの重量を計り、仲買人がずるをしていないかどうかチェックしているのである。こういった疑念が払しょくされない以上、仲買人の「後で支払う」という申し出に、農家が承諾することはなく、即金での支払いが原則となる。

 

一方、AGPCの買い取り方は、仲買人のものとは異なる。AGPC傘下の各単協[*5]の組合員は、収穫したコーヒーをその日のうちに各々の住む村落内にある加工場に持っていかねばならない。そこでコーヒーの重量を計ったうえで、単協幹部がまとめて本部に情報を伝え、コーヒーを加工場に預けて1週間ほどして報酬全体の8割ほどがもらえる。その後、収穫期から半年ほどたって残りの報酬が手渡される仕組みになっている。

 

 

写真3:収穫されるコーヒーの実(筆者撮影)

写真3:収穫されるコーヒーの実(筆者撮影)

 

 

フェアトレード団体との取引を制約する要因

 

AGPC設立後数年の間は、農家も様子見の状態で、積極的にAGPCにコーヒーを売るというよりも、政府の指示があるから売却していたようだ。設立から数年たって、2013年の段階では、一般の仲買人よりも買取額が少しは高いことを誰でも知るようになったものの、加工場に豆を集めて一括管理するというルールを守らず、世帯ごとに加工している単協があったり、報酬を規定通り組合員に渡さない単協があったりして、AGPC側が幾度かの改善要求を提示したにもかかわらず、改善されない村がAGPCから脱退するといった事態も起きていた。

 

もっとも、2013年には53の単協のうち脱退した村がある一方で、新たに加盟した村もあり56単協が加盟しており、それなりに金銭的な恩恵を得ているとはいえる。したがって、AGPCが1980年代の官制協同組合のように機能不全に陥り、消滅するというほどの事態には至っていない。組織の根本を揺るがすような、大問題は今のところ発生していな

 

とはいえ、その活動を制約する要因があることも見逃せない。

 

組合に売るのを止め、仲買人に売るようになったミーさんは、その理由について次のように述べる。「組合はなかなか報酬をくれない。一部は半年後だ。それでは組合に借金をしているみたいで好きではない。仲買人はすぐに報酬をくれるので楽だ」。こういった発言は、決して珍しいものではなく頻繁に聞くことができる。

 

 

写真4:収穫されたコーヒーの実(筆者撮影)

写真4:収穫されたコーヒーの実(筆者撮影)

 

[*5] 単協とは各村落内にある農業組合のことを指し、AGPCはこの単協が集まった上位組織を指す。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.270 

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