冷戦終結後のアメリカ一極の時代は終わった。中国やインドなど新興経済の台頭著しい現在、ポスト・アメリカの世界が模索されている。
欧米各国はウクライナの紛争に関して、総論としてウクライナ暫定政権を支持しロシアを非難しているが、具体的な制裁となると、一致した立場をとることは今後とも難しいだろう。あるいは依然として紛争が継続するアフガニスタンやパキスタンをとりまく南アジアの国際関係をみても、大国を軸にして割り切れる状況にはない。ポスト・アメリカの世界は、まさに多極化の時代に入りつつあるように見える。
本稿では、多極化する南アジアをとりあげ、パキスタンを中心に対テロ戦争以降の国際関係をめぐる論点を整理しておこうと思う。そこで明らかになる地域の現状は、より広いポスト・アメリカの世界を展望するためにも意味があると思われるからである。
多極化する国際地域関係
パキスタンは、中国・アメリカ双方と歴史的にきわめて深い関係をもってきた。
1949年の中華人民共和国成立後、パキスタンはいち早くこれを承認し、以来、一貫して中国との緊密な関係を維持している。それは、1960年代から70年代初頭にかけて中国が国際的に孤立傾向にあった時代も例外ではない。
中国もまたパキスタンを重要なパートナーとみなし、核技術を含む軍事技術や科学技術の移転、経済援助をおこなってきた。国際情勢がどうあろうと友好関係が揺るがないという意味で、パキスタン・中国関係は「全天候型友好関係」などと呼ばれている。
他方パキスタンとアメリカの関係は、冷戦の影響を強く受け、親疎相半ばしながら、その時々で互いを必要とする深いかかわりを結んできた。それはソ連のアフガニスタン侵攻の時代や、アメリカ中枢同時多発テロ後の状況に顕著である。
今日パキスタンの立場に立ってみると、中国とアメリカが重要な国であることに間違いはない。しかし、アフガニスタンにおける対テロ戦略をめぐって、アメリカとの関係が悪化し、また中国のパキスタン政策は、より広い世界戦略の中に位置づけられ、相対的な部分も出てきているといった変化もまたみられる。
あるいはパキスタンと敵対してきたインドや、イスラーム国同士でありながら複雑なかかわりをもってきたイラン、アフガニスタン、そしてロシアやヨーロッパとの関係も、固定的な敵対と友好では説明できない。
たとえばターリバーンの問題をめぐってアフガニスタンのパキスタンに対する不信が根強い一方で、上海協力機構では、パキスタンとアフガニスタンはイラン、インド等とともにオブザーバー参加し、将来正式加盟が許されることを期待している。またパキスタン、アフガニスタン、タジキスタン、イランは、四カ国を経由するパイプライン計画をすすめることに合意している。こうした状況は、固定的な対立の構図を離れ、地域の国際関係が多極化していることを示している。