ポスト・アメリカのパキスタン――多極化する南アジア地域

多元的世界へ

 

2010年、中国の反体制活動家として知られる劉暁波氏がノーベル平和賞を受賞した。これについてパキスタン外務省はすぐに、「国内政治に介入することを目的としてノーベル平和賞を政治化することは、国家間で合意されている原則に反するばかりか、この賞の創設者が賞にこめた趣旨をも否定するものである」との批判声明を出した。

 

もちろんノーベル平和賞が政治的な性格を色濃くもつことは周知のことである。パキスタンがわざわざこのような声明を出したのは、長い中国との友好関係ヘの配慮からだけではないだろう。今日中国の台頭に直面した欧米は、民主化と人権という価値を前面に押し出して中国を牽制しているようでもある。そのような構図に対するパキスタンの嫌悪感があるのではなかろうか。パキスタンは欧米の基準で評価されることへの反発を中国と共有する、という意思表明とみれば、パキスタンとアメリカが単なる良好な同盟国同士である時期はすでに終わったことを印象づけるともいえる。

 

南アジア最大の問題であるパキスタンとインドの対立は、分離独立の経緯にその起源があることから、宿命的なものと捉えられることも多い。緊張と緩和を繰り返してきた両国は、2001年以降の冷えきった時期を経て2010年にインドが態度を軟化させ対話が再開されたことで、雪解け機運がもどってきた。インドが経済的な発展を続けていることや、インドとアメリカとの原子力協力を含めた緊密な関係の進展が良い影響をもたらしているものと見られる。

 

また、中国の「真珠の首飾り」によって包囲されたインドは、イラン、アフガニスタンへの積極的なアプローチによって対抗しようとしているが、それらの国々は別の局面ではパキスタンとの密接な関係にある。

 

もはやパキスタン・インド関係でさえ、単なる二国間対立というだけでは説明できなくなっている。インドやアメリカがそれぞれに中国との交渉を重ね、関係を構築しつつある局面も重要である。またイランとパキスタンのパイプライン計画は、インドを加えた三か国の計画として構想されていたものである。この計画のゆくえは依然不透明ながら、こうした具体的な共通の利益のための協力関係が進展するなら建設的なことといえよう。

 

上海機構のような多国間の協力組織はできても、それが固定的な同盟によるブロックの形成や対抗関係を意味しないのが冷戦後の国際関係の特徴であるとするなら、地域的な必要や利害に応じて各国関係はどのような組み合わせも可能である。したがって、中国のパキスタン支持も今後は固定的にとらえることが難しくなるかもしれない。

 

例えば、グワダル港を建設し、さらに2011年からは港の管理権を引き受けるに至った中国であるが、建設中から中国人労働者へのテロや誘拐が頻発していたこと、グワダルが位置するバローチスターン州における民族運動の活発化をパキスタン政府が鎮圧しきれていないことは、中国のグワダル政策に一定の制約となる可能性がある。

 

地域的な必要や利害に応じて、各国の関係はその都度組み替えられうる。これまでの中国とパキスタンのようなきわめて長期的な安定した全天候型関係はむしろ例外的となっていくのかもしれない。このような流動的な国際関係は、世界を二元的に把握することが適切でないことを、南アジア地域政治の文脈で明示しているといえよう。

 

【参考文献】

 

松田康博、2007、「中国の軍事外交」、川島真(編)『中国の外交―自己認識と課題』、山川出版社、94–114頁

Afridi, Jamal and Bajoria, Jayshree, 2010, China-Pakistan Relations, Council on Foreign Relations, July 6, 2010  (http://www.cfr.org/china/china-pakistan-relations/p10070, 2011年10月10日閲覧)

Sharma, B. L., 1968, The Pakistan-China Axis, London: Asia Publishing House.

 

 

 

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