EUとウクライナ危機――解決に向けた手探り

EU・ウクライナ・ロシア ――危機の本質と今後――

 

果たしてEUは今後、ウクライナ危機を収束させるにあたり、役割を果たすことができるのだろうか。

 

現在のウクライナにおける最大の問題は、ドネツク州を中心とした親ロシア派と政権側の抗争の長期化である。ポロシェンコ新政権と親ロシア派武装集団は6月下旬、一時停戦を延長しつつ和平協議に向けた調整を進めていた。

 

EUは一時停戦中に実施された6月27日の欧州理事会において、親ロシア派勢力に対する影響力の行使をロシアに対して改めて要求した[*3]。結果的に、この一時停戦は期限切れを迎えたものの、現段階ではドイツとフランスが、長期間の停戦の実現に向けた調停に乗り出している。7月2日にベルリンで実施された独仏ロとウクライナの4カ国による外相会談や、翌3日独仏ロ首脳会談および独仏ウクライナ首脳会談(双方とも電話会談)では、停戦再開の必要性やOSCEによる監視活動の強化などで原則的に合意したと報じられており、対話の機運は途切れてはいない。

 

[*3] なお同欧州理事会では、6月30日までに新政権側と親ロシア派との間で本格的な和平協議が開始されなければ、ロシアに対して一層の制裁措置をとる用意があることを明らかにしていた。しかしEUは翌日の7月1日、親ロシア派勢力に拘束されていたOSCE監視員4名が解放されたこと等を理由に、制裁実施を少なくとも当面は見送ることを決定している。

 

ただしこのように、ドイツやフランスが必ずしもEUの枠組みに依らずに停戦を主導するスタイルは、2008年のグルジア紛争時の停戦プロセスを彷彿とさせるものであり、EUそのものが直接的に役割を果たす余地は相対的には少なくなろう。同国の警察および軍隊の改革を支援するための文民ミッションをEUが派遣する構想が6月23日のEU外相理事会で基本的に合意されているが、これも激しい戦闘状態に直接貢献することが期待されうるものでもない。

 

さらに、ロシア・ウクライナ間で長年の懸念となってきたガス価格交渉についても、EUは新政権発足後も継続的に仲介を行ってきたが、ウクライナがガス料金の滞納分をロシアに対して支払わず、さらにロシアが提示した将来のガス供給価格案を拒否したため、ロシアはついに6月16日、同国に対するガスの供給を停止した。EUはウクライナの債務を肩代わりする意思は持ち合わせておらず、この点に関してもEUが果たしうる役割は限られよう。

 

そうであるとすれば、EUの今後の行動はまず、ウクライナ(およびウクライナを中心としたEUの近隣諸国)の安定化にいかに長期的にかかわっていくか、そしてロシアからの猜疑心をいかに取り除いていくかにつきる。それには、今回の一連の危機の本質を正しく理解したうえで、適切な手段を地道に講じていく以外にない。

 

まず、ウクライナへの対応である。前述のとおり、EUのこれまでの最大の関心は、ヤヌコヴィッチ元大統領によって棚上げされた同国との連合協定署名を推進する(あるいは事実上の実施を進める)ことにあるように見受けられた。この行動の背景には、連合協定の棚上げこそが今回のウクライナの一連の危機を招いた最大の原因であり、この鎮静化のためにはその正式署名と実施を進めることが最も効果的であるという認識が存在していると思われる。

 

しかし、連合協定署名延期やEU・ウクライナ関係をめぐる国内対立は、現在の同国の危機の原因のほんの一部に過ぎないこともまた、各種報道等によって明らかになりつつある。これらはたしかに抗議活動の悪化と政権崩壊を促進するひとつの契機とはなったものの、最大の原因はすでに述べたように、同国の長期にわたる経済的低迷や改革の停滞、汚職や腐敗、ヤヌコヴィッチの失政等に対する不満であった。EUが同国の危機の鎮静化に対して何らかの貢献を行おうとするのであれば、まずは連合協定問題と危機との連関を正しく認識する必要があるであろう。

 

むしろ問題は、今回のウクライナ危機勃発後にポーランドのシコルスキ外務大臣が鋭く指摘しているとおり、「EUは近隣諸国に対する自らのソフト・パワーと魅力をあまりにも過信しすぎていた」、「我々は、対象国の政治的発展も、第三国(注:ロシア)が与える影響も考慮せずに、こういった自由貿易協定(注:DCFTAを含む連合協定)を何年もかけて交渉するといった古臭いやり方がまだまだ通用すると思ってしまっていた」ことにあったといえるだろう。とりわけ、加盟を前提としない場合の連合協定プロセスの改革促進効果については、これまでも疑問視する声があったのであり、この点を今後しっかりと再検証していく必要がある。

 

とはいえ2014年6月27日の欧州理事会で、ウクライナのみならず、モルドヴァおよびグルジアとの連合協定も当初の予定を大幅に前倒しして正式署名がなされ、このことが同会合のひとつのハイライトとして扱われたことからもうかがえる通り、こういった内省がEU近隣諸国政策の刷新に反映されるにはまだ多くの時間を必要とすると思われる。

 

次に、EUによるロシアへの対応である。これも複数の論点が複雑に絡み合っており、現状の正確な把握とそれに基づいた対応を困難にしている。EUはたしかに一貫して、クリミア編入をめぐる一連のロシアの対応を強く非難してきた。

 

しかしこれをもって、EUとロシアがウクライナをめぐって激しい綱引き(tug of war)を繰り広げていると見ることは一面的に過ぎるであろう。EUはウクライナの重要性は十分に認識しており、かつクリミアの違法な編入は容認できないとの立場をとっているものの、ロシアとのあいだでウクライナを奪い合う意思は持ち合わせていないからである。

 

むしろEUはかねてから、ウクライナとの間でENPやEaP、その枠内での連合協定などを推進する際に、それがロシアに対する挑戦と受け取られかねないことに神経を尖らせてきた。欧州委員会のEaP公式文書は明らかにロシアを念頭に置きつつ、同政策が対立的(confrontational)な性質を有するものではまったくないという点を随所で強調してきた。実際、クリミア編入のような武力による現状の変更はEUとしては断固と容認できないことをロシアに対して訴えていくことと、EU・ウクライナ関係の強化がロシアの孤立化を意図したものではない旨をロシアに対して丁寧に説明していくことは、EUにとっては完全に両立可能なのである。

 

仮に今回の危機が、EU・ウクライナ関係の強化に対するロシアの懸念によって悪化したという側面があるのであればなおさら、EUがロシアの「誤解」を地道に解いていくことが極めて重要となる。ポロシェンコ新大統領はEU加盟希望について頻繁に発言してはいるものの、現実的には、EUとウクライナが今後どのように経済関係を強化しようとも、同国のEU加盟が現実味を帯びることは(少なくとも短期的には)想定しにくいし、(本稿の検討の対象外ではあるものの)ウクライナのNATO加盟の可能性も極めて小さくなりつつあるというのがヨーロッパの一般理解である。こうしたEUの認識をいかにロシアに理解してもらうかが重要なカギとなろう。

 

ロシアが5月25日のウクライナ大統領選挙の結果を事実上承認したことにより、クリミア編入後凍結されていたEUとロシアとの対話も再開しつつある。とりわけ、2013年6月のEU・ロシア首脳会議以降行われてきていた、ウクライナとのDCFTAがロシア・ウクライナ経済関係にいかなる影響を与えるのかについての共同検討プロセスは、EUとロシアとの認識の共有に向けて重要な役割を果たしうる。同プロセスは、2014年3月のロシアによるクリミア編入を受けていったん凍結されたものの、両者はこれを2014年7月以降再開することで基本合意している。

 

また、EUの対外行動局は2014年6月12日、「ウクライナ、EUのEaPおよびEU・ウクライナ連合協定に関するよくある質問」と題する、24ページにわたる広報文書を発表し、EUとウクライナとの関係が他国の利益を侵害するものではない旨をここでも強調しているが、これなどもロシアを強く意識した広報戦略とみてよいであろう。

 

しかし同時に、今後のEU・ロシア関係の構築は、とりわけ中欧の新規加盟諸国を中心に、ロシアに対する脅威認識と警戒感がかつてないほど高まっているという状況のもとで進められざるを得ないという状況にある。ポーランドのシコルスキ外相はロシアによるクリミア編入に触れ、「以前我々は、チェチェンやグルジアを例外と見なすことが出来た。今は違う。これがひとつの潮流なのだ」と語っている。こうした諸国のロシアへの脅威認識は、当然のことながら、今後のEUにおける対ウクライナ政策にも反映されていくことになる。今後のEUは、ウクライナの安定化への貢献と、EU内部における対ロシア認識の相違の克服等のあいだで、極めて難しいかじ取りを迫られていくことになろう。

 

サムネイル「Euromaidan」Raphaël Vinot

https://flic.kr/p/oeEX1z

 

 

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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