人を観察し、解明し、喜ばせる――「BADUI」から始めるユーザインタフェースの考え方

照明が2つともオフになっているのはどれ? ユーザのミスを誘うBADUIの面白さ

 

――先生は、使いにくかったり分かりにくかったりする駄目なユーザインタフェース・「BADUI(バッドユーアイ)」にとても強く関心をもっていますよね。これにはどうして注目し始めたんですか?

 

もともとライフログという記憶を記録化する研究に興味があるのもあって、面白いもの、興味を持ったものを撮影するのが好きで、その流れで面白い困ったユーザインタフェースを見つけるたびに「世の中にこんな面白いものがあるんだ」と撮影していたんです。

 

ちなみに僕がオリジナルではなくて、東大の暦本純一先生が、「BADUISM」というブログ記事を書いたのが始まりです。それから一時的にmixiでユーザインタフェースの研究者たちがBADUIの写真を投稿したりしていました。このコミュニティはいつしか活動的でなくなってしまったので、個人的にBADUIのサイトをつくってブログ形式で投稿し続けていました。

 

それでこういうものを蓄積していくと、色々な見方ができるようになって面白くなってきました。何が面白いかというと、教育につながるんです。大学や高校の授業、そして社会人向けや仕事を引退された人向けのセミナーでもこうした事例にからめつつ、様々なことを教えさせていただいています。

 

通常、BADUIを見ると人は「分かりにくいね」と呆れて終わるんですが、もう少し先まで考えてもらい、なにが問題でどうするべきかという力をつけてほしいと思っています。BADUIは世の中にたくさんあります。明治大学にも多いんですよ。たとえば308B号室って何階にあると思います?

 

 

――3階ですか?

 

8階なんですよ。じゃあ1001号室はどこだと思いますか。

 

 

――これは確か10階ですよね。

 

いえ、地下1階です。実を言うとこれって、頭の数字は建物に割り振られた番号なんですよ。1は学生が普段通っているリバティタワー。3はガイダンスなどで使われるアカデミーコモン。数字の間の2桁が階の番号で、最後の1桁が部屋番号なんですよ。

 

 

――普段見ているはずなのに、分からなかったです。

 

そうですよね。こういったBADUIは見ているだけでも単純に面白いのですが、そこから、じゃあどうすればいいかとか、どうしてこういうものが出来上がってしまったんだろうと考えるわけです。そこにはこれを作った人の思想が透けて見えますし、人がデザインに表れていると思うと楽しいです。

 

1年生のゼミの授業では、このようなBADUIをたくさん見せています。たとえばこれ。2つの照明を操作するスイッチですが、どの状態だと照明が2つともオフになっていると思いますか?

 

 

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照明が2つともオフになっているのはどれ?:『失敗から学ぶユーザインタフェース』より

 

 

――一番左側の状態じゃないんですか?

 

だと思うじゃないですか。実は左から2番目の状態なんですよ。上の緑のランプは「ほたるスイッチ」といって、暗闇でも見えるように光っているだけなんです。そして下の赤のランプは「パイロットスイッチ」といって、いまあるところから見えないところ、たとえばトイレなどの照明がついていることを示しています。つまりどこかで電気がつけっぱなしであることを警告しているということですね。

 

要するに、上の「ほたるスイッチ」は、点灯しているときに照明がオフになり、下の「パイロットスイッチ」は、点灯していないときに照明がオフになっているという、かなり混乱する仕組みになっているんですね。これではぱっと見たときに照明がどうなっているのか、分からないですよね。

 

 

誰もがデザイナーになりうる時代だからこそ、BADUIに注目する

 

――スイッチの仕組みは全然分からなかったです。これは誰が見てもうまく扱えないですね。

 

最近、文部科学省で人事に関するメールを間違って全職員に送信してしまったという事件がありました。これはスタッフのせいではなく、システムのせいだと思っています。

 

このメールシステムは宛先を指定するときに、まず「文部科学省」という省がでてきて、それをクリックするとつぎに部門がでてきて、それをクリックするとさらに課がでてくるのですが、「文部科学省」という文字をダブルクリックすると、メールが自動的に文科省全体に送信されるよう設定されるというものになっているんです。これが今年の1月に導入されたばかり。これはどう考えても人ではなくシステムの問題です。

 

つまり人のミスって、ある程度はシステムのせいでもあることがあるんですね。先ほどの照明のスイッチにしてもそうですが、システムを改善することで生活を良くする余地はたくさん残っているんです。でもほとんどの人はそれに気づいていない。だからBADUIに注目しようと学生には言っています。それは何が問題なのか、どうしてそうなってしまったのかを考えることは、生活を改善する一歩になるからです。

 

そして重要なのは、今やユーザインタフェースをつくる機会はデザイナーだけではなく、すべての人に与えられているということです。大学の掲示にしても職員がつくっているわけですし、学園祭のときに壁に貼られる案内も学生がつくっているわけです。そう考えると、全員がBADUIのつくり手になりうるわけです。

 

 

――ミスをする原因は、その人ではなくシステムをつくった人にあるということですね。

 

そうです。ミスを誘うという意味では、ほかにもこういうBADUIもありますね。

 

 

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どちらが男子トイレでどちらが女子トイレ?:『失敗から学ぶユーザインタフェース』より

 

 

このトイレ、左側が男性で右側が女性だと思うじゃないですか。でもよく見ると、実際は逆なんですね。

 

ふつう、人はこのマークを見たときに、これは男子トイレと女子トイレの位置を示しているのだなと思うじゃないですか。でもこれを作った人は、これを単に「トイレがここにありますよ」ということを示すマークとしてつけたんでしょうね。確かにトイレのマークってこういうふうな男女のマークですよね。でもこれを駅のホームなどではなくトイレの入り口に設置すると、人を混乱させることになってしまうんです。左が男で右が女かなと。

 

こういうことって学びを得られるわけです。単に「変なデザインだなあ」と素通りするだけではなく、そこからどうして人は間違うのか、どうして設置した人は間違ってしまったのか、どういう注意をしたらよいのか、どうやったらコストを抑えて改善できるかなど考えることができれば、それはそのまま学びとなります。

 

 

――確かにこのトイレはうっかり間違えてしまいそうで怖いですね。ちなみにこういう発見から研究に結びつくことはあるんですか?

 

たとえばウェブページの個人情報の入力フォームで、名前のふりがなはひらがなを入力しなきゃいけないのかカタカナを入れなきゃいけないのか、電話番号はハイフンを入れるのか入れないのか、ぱっと見て分からないことがあるじゃないですか。それを自動的に通知してくれたりする機能とか、逆に必要のないハイフンを入れたら勝手に消してくれたり、ひらがなを勝手にカタカナに変えてくれる機能などの研究を学生が取り組んでいます。

 

 

――先生は学生時代はどのような研究をされていたんでしょうか。

 

最初は、マウスをパソコンに2つつなげて、両手で2つのマウスを使うことでパソコン上の様々なものを操作するシステムをつくっていました。いまでいう、スマホのマルチタッチに似ているかもしれませんね。画像を拡大したりするときに二本の指で操作しますよね。それのマウス版みたいなものです。

 

あとはユーザが走っている間しか閲覧することができないウェブブラウザの研究など、やりたいと思ったことはいろいろやっていました。それ以降は、グーグルやヤフーなどの検索エンジンの検索結果をユーザに合った形に変更しようという「サーチインタラクション」という分野を研究していました。

 

もともと僕は工学部の情報系出身です。パソコンに興味があったので、やってみようかなと思って入りました。技術を応用して面白いものや幸せにできるもの、驚かせるものを作りたいなと。そう考えたときに、ユーザインタフェースの分野が向いていたんだと思います。

 

でも実は、パソコンにちゃんと触れたのは大学に入ってからなんです。高校生のときもちょっとは関心がありましたが、小学生のころからコンピュータをいじっていたとかではなかったですね。でも大学に入ってからは、僕にとってはプログラミングも遊びの一つになりました。あんまり研究のため、勉強の一貫とは考えていませんでした。

 

 

――理系の分野って、小さいときから異様に関心を持っている人じゃないとうまくいかないのかなと思ったりしていたんですが、大学からでも全然遅くはないんですね。

 

そうです。何か興味をもっていれば、それがたとえばBADUIだとしても、こうしてユーザインタフェースの研究と結びつくこともあるわけです。だから学生の人には、なんでもいいのでなにかに興味をもって、観察してほしいですね。

 

 

高校生におすすめの3冊

 

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科学的とはどういうことかをもう一度問いなおす本です。文系理系の区分けにこだわらず、みんなが知っておくべきことだと思います。

 

 

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人間がいかに錯覚しまくっているのかということを知ることができる、とても面白い本です。人間の感覚は信用ならないということを知りましょう。

 

 

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今回紹介したBADUIに興味をもった人は読んでみてください。BADUIがどうしてこうなってしまったのか、どうすれば良かったのか、というところまで論じています。BADUIの写真をたくさん収録しているので、それを見ているだけでも楽しめると思います。

 

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