わたしたちの自由はどうやって守られているのだろう ―― 繊細な憲法を壊さないために

「違法PTA」ってなんだ!?

 

―― 国によって構成も内容も違うんですね。ところで、木村先生はいまどういった研究をされているんですか?

 

わたしが一番関心をもっているのは判例理論の研究です。最初の単著も「平等条項」にかんするアメリカと日本の判例を歴史分析したうえで、比較研究したものです。最近では、改憲論議の高まりもあって、「自衛権」とか、「憲法改正の限界」といった分野の研究もやっています。

 

あと、ひょんなことから、「違法PTA」の研究を始めることになりました。

 

 

―― 「違法PTA」ですか?

 

ええ、強制加入など、PTAに関する法的問題の研究です。

 

好きでPTAに入会されたのであればとくに問題はないですが、入退会が自由でないPTAや、強制加入させた会員に仕事を押し付けるPTAは、「違法PTA」なんですね。

 

みなさんあまりご存じないですが、PTAってどうやって会員名簿を作っていると思いますか? 団体は、まず名簿がないとつくれません。名簿をつくるためには、入会申請書をつくって、手続きに従って申し込みをしてもらう。その方を会員として名簿に記録する。それは会社でも、町内会でも、どんな団体でも変わらないことです。

 

しかしPTAのなかには、入会申請書を作ってもいないし、届けてもいないのに保護者を会員登録してしまうPTAがある。なぜこんなことができるかというと、学校から流してもらった名簿を使って会員名簿を作るからです。法的には、そもそも、この時点でアウトで、違法PTAになります。なぜなら、これは学校による「同意のない個人情報の第三者提供」を前提とした運営だからです。

 

あるいはクラスの誰かが名簿をPTAに渡してしまう場合もある。これだってやっぱりアウト。この場合は、渡してしまった人が、個人情報の第三者提供をしていることになりますね。つまり入会申請書を集めてもいないのに会員名簿があるPTAは、そもそも違法PTAなんですね。

 

 

―― 自分の両親が入会申請書を出していたかはわかりませんが、小学生のときに、両親が持ち回りでPTAの仕事をしていたような記憶があります。もし入会申請をしてもいないのに、このルールを強制されていたとしたら……。

 

もちろん、そんなルールは法的には無効です(笑)。

 

ただ、なかなかそれを訴えられない環境もありますね。PTAって、子どもを人質にして、強制的に運営できてしまう場合があるんです。実際、PTAを退会しようとしたら、「退会してもいいけど、お子さんがいじめられるかもしれないですよ」と言われたことがある人もいるようです。こういうことを言う人は親切で気遣っているつもりでしょうが、言われた側からしたら脅迫を受けたような感じになるわけで、これは、もう一発退場の不法行為でしょう。

 

違法PTAの問題を指摘したら「うちのPTAは違う!」と言われる方もいます。それはその方が所属しているPTAが違法PTAではないだけで、違法PTAが世の中にあることを知って欲しいですね。

 

あと違法PTAから「うちは良いことだってやっているんだ! そんなことをいって潰れたらどうするんだ!」と怒られることもあります。しかし、たとえば、研究費の不正利用を指摘された大学教授が、「おれは有意義な研究をやっているんだ! だからいいだろ!」って言っても相手にされないですよね。どんなに良いことをやっていても、違法行為はやってはいけません。

 

 

―― なるほど、法律を知らないとなかなか気がつけないですよね。法律を勉強する大切さがわかってきました。

 

ええ、法律を知らないと、簡単にこういった問題に巻き込まれてしまうんですよね。

 

いま「違法PTA」って言葉を流行らせたいと思っているんです。違法PTAは撲滅しなくちゃいけませんからね。

 

 

多数決の決定が正統性を失うとき

 

―― ところで、どうして「違法PTA」が生まれて、そのまま放置されているんでしょうか?

 

まず強制加入の方が、事務管理コストが低くすむということが大きいです。入会申請書を集めなくて良い、一定額の会費が毎年入ってくる、役員候補に困らない。運営側からすれば、強制加入は良いことだらけです。そんなわけで、一度、強制加入になってしまったら、そう簡単にはもとに戻ることはなくて、それがそのまま数十年と積み重なって当たり前のことになってしまったのだと思います。

 

人によってPTAに参加するのにかかる時間的、金銭的、能力的コストはかなり違います。共働き世帯だったり、片親世帯だったりして、平日も、休日も、昼も、夜も、ほとんど時間をとれない人もいます。また、ほかの人と一緒に活動するのがどうしても苦痛だという人もいるでしょう。

 

その一方で、時間のやりくりが上手で、金銭的にも余裕があり、知らない人とのコミュニケーションが好きで、積極的にPTAに参加したいと思っている人もいます。あるいは、できればやりたくないとは思っていても、ちょっと頑張ればなんとか参加できる人も多いでしょう。こうした人たちが、たとえば共働きの家庭に「働いているからって逃げるのは許しませんよ」と、悪意もなく言ってしまうことがあるわけですね。

 

そのように言われてしまった夫婦は、会合に参加するために、家事労働の時間をけずることになる。もしかしたら夕食をつくる時間がなくなって外食になってしまうかもしれない。場合によっては、貴重な親子の時間がなくなってしまうこともあります。これでは本末転倒です。誰もがPTAに参加することが平等にみえますが、じつは人によって参加コストが違うんですね。

 

これは、多数決による決定が正統性を失う場合の典型的な場面の一つといえます。

 

こうした問題を解決するためにも、最低限法律を守っていただかなくてはならない。そういう意味でも、法律を勉強する意味はあるのだと思いますね。

 

 

 

 

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