いずれぼくの仕事がなくなる世界を目指して ―― 国際機関で働くこととは?

やっておいてよかったこと、やっておけばよかったこと

 

―― 畠山さんが国際機関で働く際に、やっておいてよかったと思うこと、またやっておけばよかったと思うことってどんなことですか?

 

ちゃんと勉強したのが大学4年生の後半からなので、やっておいてよかったことがあんまりないんですけど(笑)。

 

国際開発問題のアドボカシーをやっていたNGOでインターンをさせてもらったのはいい経験になりました。学生団体じゃなくて大人がやっているNGOにいると、組織がどうやってまわっているのかがわかるのでオススメです。将来どこで働くかの指標にもなりますよ。

 

あと開発コンサルタント会社でもインターンをさせてもらいました。これも二国間援助機関がどうやって動いているか、開発援助のプログラムがどう進んでいくのかがよくわかりましたね。インターンの募集をしている会社はあまりないのですが、自分からお願いをしにいけば、道が開ける可能性はあると思います。

 

そして最後は、国際教育開発の勉強会をやっていたこと。勉強会をやっていると、まず大学院に入ったあとが多少は楽になります。いろいろな人が勉強会に参加しているので、違う視点を持った人とどうやって話せばいいのか議論の練習になるんですね。

 

途上国の現場では、同じバックグラウンドをもった人なんて一人もいませんから、こういう経験は非常に大切です。また勉強会のメンバーが、経験を積んで同じ世界の違う場所で活躍していると、いろいろな繋がりが生まれる可能性になりますし、現にぼくはこの勉強会のメンバーと国際教育開発NGO「サルタック」を今年立ち上げました。

 

もしこれらを一年生からやっていたら、そうとうな財産になるでしょうね。

 

やっておけばよかったことの最たるものが語学です。ぼくは大学で英語の授業を落としていて……(笑)。

 

国際機関で働くには、まず専門性がなければ話になりませんが、そもそもこれはおもに大学院に進学してから伸ばすものですし、学部時代からやれることで自分の専門性の可能性を広げてくれるのは語学です。たとえばフランス語圏の国の事務所に自分の専門にあったポストが空いていても、フランス語ができなかったら応募できないですよね。語学ができるだけ、自分の専門性を活かせる可能性の幅が広がるんですよ。

 

しかも国連公用語だけでなく、本当にいろいろな言語に触れておくと、言語のlearnabilityが高まるのでオススメです。ジンバブエでも地方に出張にいくと、現地語で仕事をしなくちゃいけないので相手の言っていることがわからず、うまく仕事がまわらないことがあるんですよね。だから言語のlearnabilityを高めておくと、現地の言葉を早くマスターするのに役立つと思います。

 

 

―― これは高校生のうちでもできることですね。

 

そうですね。

 

ただ国際機関のエントリーポイントって学歴も重視されるので、言語をがんばりすぎて、他の教科の成績が落ちていい大学院に行ける可能性が高いようないい大学に行けないと本末転倒です(笑)。

 

あとは、一度は海外というか途上国に行ってみればよかったと思っています。大学卒業後にはじめて途上国に行って、想像と現実が違うという経験をたくさんしました。たとえばどんなに熱意があっても知り合いじゃないから話を聞いてもらえないなんてことも普通にあります。大学院に進学してから「想像と違った」と言って辞めるのはもったいないですから、一度は途上国に行ってみて、できたら青年海外協力隊のように給料を貰って働く経験を積めるといいと思いますね。

 

ほかにも、目的意識があるのであれば学生団体をやっておくことに損はないと思います。自分たちで組織をマネジメントして、後輩の動かし方や大人の団体への交渉などの経験を積んでおくことは、現地採用のスタッフを動かすときとかさまざまな場面で強い財産になると思います。ぼくも麻雀やコンパばかりやっていないで、学生団体をやっておけばよかったですね……。

 

そして最後は勉強全般をやっておけばよかった(笑)。最初にお話したように、教育だけでも人権、経済、社会などのアプローチもありますから、政治的にどういう動きがあるか、どんなアプローチで提案をすると受け入れてもらえるかを考える必要がある。幅広く勉強してそのための引き出しを増やしておけばそれだけ交渉する際に役立つはずです。

 

自分の専門分野の知識を持って正論で戦っていく方法もあります。ただ、よくツイッターで正論をぶつけてブロックされるなんて光景を目にしますが、もし相手国政府との関係が重要な国際機関の世界で相手に話を聞いてもらえないなんてことになったら致命傷です。噂が回るのはとても早いですから、もうどこの機関もあなたを雇いたいとは思わない。

 

相手に正論をぶつけて説得するのは愚策なんだけど、ぼくには残念ながらそれほど引き出しはありません。だからもっと勉強していればよかったな、と思います。

 

 

「あなたが死んで100年たったら、誰もあなたのことなど覚えていない」

 

―― 畠山さんの後悔が非常に伝わってきました(笑)。最後に高校生、大学生に向けてメッセージをいただけませんか?

 

ぼくがいま国際機関でやっているような仕事が必要とされない素晴らしい世界を一日でも早く実現するために、ぼくはこの仕事をしています。なので、ぼくよりも10歳以上も若い高校生、大学生に国際機関で働くことをオススメするのは、10年経ってもまだそんな世界を実現できていないってことですから、アントニオ猪木の言葉を借りると「出る前に負けること考える馬鹿いるかよ!」って感じなんです(笑)。

 

高校生、大学生に伝えたいことは、想像力を豊かに生きて欲しいということです。もし自分が、ネパールの農村部で低カーストの家で生まれた女子だったらどうなっていたか想像して欲しい。80年代のジンバブエに黒人として生まれて、白人と同じエレベーターにすら乗れないという環境の下で育っていたらどうなっていたか考えて欲しい。現在内戦状態にあるシリアで生まれていたら今のあなた自身のように生きられていたか思いをはせて欲しい。

 

国際的なことじゃなくてもいいです。もし障害をもって生まれていたら、貧困家庭に生まれていたら、さまざまな事情を抱えた家庭に生まれていたら……いろいろイメージしてみてください。

 

ぼくは自由が好きです。『セブン・イヤーズ・イン・チベット』という映画にダライ・ラマの「あなたが死んで100年たったら、誰もあなたのことなど覚えていない」というセリフがあります。ぼくもそう思っています。自分がどう生きるかなんて誰かの意見を気にすることもなく自由にすればいい。だから、さっきのような状況を想像して、なにも思わない人だっていると思いますし、それはそれでいいと思います。

 

でも何かを感じて、そんな子どもたちにいまあなたが享受しているような自由を届けたいと思ったならば、同じ志をもつ仲間として、一緒に働ける日を楽しみにしています。

 

(2013年6月30日 スカイプによるジンバブエ‐日本間インタビュー)

 

 

国際機関ってどんなところ? 高校生のための6冊!

 

 

ユニセフで26年間勤務された方の体験談的な本。かつての国際機関と現在の国際機関では人事も職務内容も大きく異なっているので、これから国際機関で働く人が経験するであろうこととは異なっている点も見られますが、国際機関で働くとどのような仕事をしてどのような私生活を送るのかを垣間見られると思います。

 

 

 

国連ミレニアム開発目標達成(MDGs) のおかげで劇的に状況が改善してきているので、やや話は古くなってきている感はあるが、それでもなお途上国の子どもたちの様子が理解り易く描写されている本。あまり途上国の状況に詳しくない学生さんに読んでもらいたい。

 

 

 

子ども兵という問題に対し、ミクロ・マクロ、人権・経済など様々な点からアプローチした本。課題を解決するためにさまざまな方法をさまざまなアクターから引き出す必要があることを理解できると思う。地雷探知器を購入するよりも、子どもを一列に並べて地雷原を歩かせる方が安い、といった現実から教育や保健を通じて人の命の価値を高める重要性を感じてほしい。

 

 

 

国際機関で国際教育開発を生業としたい場合、まず読んでおきたい教科書。出版されてから8年経ち内容がやや古くなってきた点は否めないが、それでもなお国際教育開発を概観するのにもっとも適した本。

 

 

 

国際教育開発に関するポリティクスや歴史が良く分かる本。MDGs制定の前と後で状況が大きく異なるため、現状というよりは歴史を学ぶ上で便利な一冊。

 

 

 

現在でも世界銀行で教育エコノミストとして働いている筆者と、元教育エコノミストの教授が執筆した本。国際機関の国際教育開発分野で働く場合に、具体的にどのような基礎スキルが求められるのか、その一端が日本語で知れる貴重な本。

 

 

おまけ

 

藤岡悠一郎さんにご寄稿いただいた「昆虫食への眼差し ―― ナミビアの昆虫食と資源活用への展望 https://synodos.jp/international/4098」と同じく藤岡さんにインタビューした「昆虫、それって美味しいの?――『昆虫食への眼差し』(α-synodos vol.126掲載)」をお読みくださった畠山さんが、ジンバブエで売られている袋詰めの昆虫食の写真をお送りくださったので、せっかくですからご紹介。

 

 

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このように販売されているようです。「ジンバブエでぜひ昆虫を使った食事をご一緒しましょう」とお誘いいただきました。

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.276 

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