異なる人びとのイメージを、ひとつに重ねあわせる方法論――ミリの世界から日本列島改造論まで

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「一つの入力に対し、一つの出力をする」

 

―― そうした中で藤村さんが新しい方法論を提唱しているわけですね。具体的にどういう方法論なのか教えていただけますか?

 

 大切にしているのは「ジャンプしない、枝分かれしない、後戻りしない」という原則です。

 

 

提供: 藤村龍至建築設計事務所

提供: 藤村龍至建築設計事務所

 

 

集合住宅を例にお話すると、まず面積という簡単な条件があるわけですね。400坪の面積に対して、どのような建物が建てられるかをまず考えます。すると、不動産の賃貸管理の人から、「3階から上はテナントとして貸せないので、住宅にした方がいい」と新たなルールが知らされる。

 

そこで三階部分の一方に住宅を寄せて模型を作ってみました。ただこれでは誰も使えない庭のスペースがもう片方にできてしまっています。それはもったいないということで、住宅を散らして模型を作ってみると、今度は圧迫感が生まれてしまった。その解決のためにどうしようかと考えた結果、手前を崩してみた。すると全体的にバランスのとれた建物が完成する。

 

 このように模型を作ってくことで、新たにルールが発見され、それらを少しずつフィードバックすることで複雑な全体を構築していくというのが私の考え方です。

 

 

―― 実際はもっとたくさんのルールがでてきて、それにあわせて何度も何度も模型をつくるわけですよね? たいへんな作業のように思うのですが……。

 

「良い設計事務所を見分けるには、模型を作っているかどうかをみればいい」というぐらい、一般的な設計事務所や工務店などは図面だけ引いて終わりなのですが、意欲的な事務所はちゃんと模型を作っているわけです。それを時系列順に並べるだけで、発見できることがまったく違うし、伝わり方も違う、というのが私の発見したことなんです。

 

法律、面積、機能、温度、構造、趣味などいろいろな条件を入力して、「えいやっ!」と形態にまとめて出力するのがデザインの仕事です。実は入力に関しては、構造解析や音響解析など、コンピューターによってかなり正確な解析ができるようになっている。問題は、それらの解析情報群をもとにどのようにインテグレートしていくかなんですよ。これまではそれが設計者の経験とセンスによって行われてきたのでブラックボックス化していました。

 

それに対して「一つの入力に対し、一つの出力をする」として、履歴をとりながら段階的に設計していくと、ブラックボックスになることなく、少しずつ統合していく様子がわかる。最終的な結果はより多くの要素がひとつに統合された、濃密なものができるんですよ。

 

 

アイロニーも込められた市民参加プロジェクト

 

―― なるほど……。藤村さんといえば鶴ヶ島プロジェクトがいま話題になっていると思うのですが、どういう経緯ではじめられたのでしょうか?

 

今のような設計方法論は、大学で学生に設計を教えることにも応用するようになっていました。

 

2010年に東洋大学建築学科に着任し、川越キャンパスに通うようになりました。東武東上線で池袋から40分ほどかかるので、電車の中ではツイッターを開いたりしているのですが、最初の頃はよく最寄駅の鶴ヶ島駅に着いたら「鶴ヶ島なう」と呟いていたんですよ。そしたらフォロワーだった方のひとりが、鶴ヶ島市長と知り合いの議員さんで、市長に「鶴ヶ島にこんな若者がいますよ」と紹介して下さったんですね。それがきっかけとなって、鶴ヶ島市長に学生向けの課題を出してもらうようになったんです。

 

1年目の課題を終える頃、知り合った担当の課長さんが「面白いんだけど、本当は違うんだよなあ」とおっしゃるわけです。理由を聞くと「いま本当にやらないといけないのは、面白い公共建築を提案することではなく、建築をどのように減らすかなんだ」というわけです。鶴ヶ島だけでなく東京郊外の都市の多くがそうだと思いますが、1960年代に住宅地が建てられ、最初にそこに入って来た当時の若者たちがいま高齢者になっている。高齢化と財政難の中で、小学校や中学校といった公共施設を維持していくことは難しくなっているわけです。でも施設の統廃合には反発も予想されるので、自治体はどこも思い切った策を打ち出せないでいたわけです。

 

そこで「学生が行政の公開情報をもとに、維持可能な床面積を予測し、公民館機能を複合した小学校を設計するという課題を学生に取り組んでもらうのはどうでしょう?」と提案したんですね。そこから現在のような「鶴ヶ島プロジェクト」が始まりました。

 

 

―― 鶴ヶ島プロジェクトについては以前、ご講演の様子を記事にさせていただきましたが[*1]、簡単にどういう方法で行ったのか、お話いただけますか?

 

スイスでは一定規模以上の公共施設を建築する場合、提出された図面と模型を比較し、どの設計者がよいか住民投票で選ぶようになっているらしいんですね。模型の縮尺は1/500で敷地の模型にセットして提出するという仕様も決まっているそうです。それをヒントにしました。

 

2週間という期間の中で、学生たちに提案をまとめて模型を作ってもらい、予備選抜で9案の設計を選びます。大学の空き教室に地域の人たちを招き、それぞれの設計者に自分の設計をプレゼンさせ、最初の投票を行なう。そしてそこで選ばれた上位4組がワークショップに進み、意見交換を行なった上で最終投票を行う、というプロセスです。

 

ただ、そういうワークショップをイベントとして一回やっただけでは、「学生さんは元気があっていいですねえ」終わってしまうので(笑)、この工程を2週間に1回、5回繰り返すことにしました。するとだんだん学生と地域の人たちの距離が縮まるんですよね。例えば、最初は耐久性とか耐震性とか技術的なことばかり質問されていたのが、次第に「こういう施設があったら、こういう活動したい」とか「こんな街にしたい」といった理念の話がでてくるようになる。これを繰り返して、少しずつ進化させていくんですね。最終的には技術的な要件はある程度共有して、その上で、それぞれの建築家の考え方で違った形を取る、独特の設計案に進化していきました。

 

 

提供: 東洋大学建築学科

提供: 東洋大学建築学科

 

 

鶴ヶ島プロジェクトについて情報発信をして全国でも報道されるようになった結果、鶴ヶ島の人たちも「自分たちの街が貧乏だからこういうことを考えなくちゃいけないんだ」という後ろ向きの考えから、「全国共通の課題に対して先駆的な試みをしているんだ」と前向きになってくれた。今は目黒区や神奈川県相模原市、茨城県高萩市などで公共施設見直しの委員を務めるほか、東洋大学建築学科としても、埼玉県さいたま市や川越市などで、同様のプロジェクトを手がけるようになっています。単なる参考案というかたちを超えて、実際の公共政策と連動する形で設計課題を設定するケースは全国的にもまだまだ珍しいと思います。

 

 

―― 住民の人も次第に建築家がどのように思考しているのかがわかっていいですね。

 

そうですね。この手法が広まって行くと「建築をする」という行為のイメージを取り戻せるでしょうね。次々と施設が建築されていた頃から何十年も経ってしまったので、みんな建築のイメージを忘れてしまっていて、政治と土建業者の癒着とか、演出された作家のエゴイスティックな振る舞い、いうバブル期までのイメージがいまだに固定しているんですよ。

 

ただこのやり方には、実は私なりにいろいろアイロニーがあるんですよね。一部の人は私のことを、コミュニティや市民に寄り添っている今どきの建築家だと思っているみたいですけど、行政や大企業が強くて、市民参加がカウンターだった時代は1990年代までだと思います。どちらかというといまは市民のほうが強くて、地域の課題を解決しようとプロジェクトが立案されても、一部の住民が声を上げると止まってしまうと言うように、むしろ市民のほうが権力化している場面もあると思います。そういう現代の権力を手なずけ、対抗するためにも、プロセスをオープンにして議論を開こうとしている。市民参加についてはそのくらい対象化しながら、プロジェクトに取り組んでいるつもりです。

 

[*1] 「オープン・プロセスとソーシャルデザインの可能性」https://synodos.jp/society/4440

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.265 

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