2024.05.20
英会話の3つのコツとは――世界の人たちと「雑談」を楽しもう!
海外留学を支援するEFエデュケーション・ファーストによると、2023年の日本の英語能力指数は、113か国中87位であったという。これはかなり低いレベルではないだろうか。しかも日本の順位は、ますます低下傾向にあるようだ。いったい日本の英語教育は、どこでどう間違ってしまったのだろう。
理由のひとつは、英会話を軽視してきたことではないだろうか。英語が得意な人でも、英会話になると、まったくダメだったりする。英会話は、どうやって身につけるのか。日本人にはノウハウがなさすぎではないか。この辺りの事情について、新刊『シノドス式シンプル英会話』著者の芹沢一也氏に、お話を伺った。
英会話には、いろんなコツがある。たとえば、頭の中に浮かぶ日本語を、そのまま英語にしようとしても難しい。まず日本語の段階で、英語に簡単に翻訳できるものに変換しないといけない。また私たち日本人は、漢字の熟語を英語にしようとするけれども、これがいけない。別の日本語に置き換えないと、ヘンな表現になってしまう。では、どのように置き換えればいいのか。その際のコツとはなにか。芹沢氏に、英会話のコツと魅力について、さまざまに伺った。(聞き手・構成 / 橋本努)
橋本 『シノドス式シンプル英会話』(高橋書店、2024年4月刊行)、拝読させていただきました。すぐれた英会話の入門書ですね! シンプルで読みやすいです。英語を学ぶためのコツが、たくさん載っています。
私が本を開いたときの第一印象は、「これはスーッと気持ちよく学んでいけそうだ!」というものでした。全体のレイアウトや、文字の字体、色の使い方も、魅力的です。この本を書いたキッカケや動機など、背景的なことを教えてください。
芹沢 ありがとうございます!
ぼくが英会話をはじめたのは5年くらい前なのですが、最初はぜんぜん話せるようにならなくて、ものすごくフラストレーションがたまりました。これは英会話を学習している全員が感じることだと思います。
当時は、こんなにたくさんスクールや書籍があるのだから、英会話を身につけるための確固とした方法論があると思っていました。しかし、スクールに行っても、巷でよいとされる学習法を試しても、ぜんぜん上達しなかったんです。これも、多くの学習者が同じ苦しみを経験しているはずです。
そこでもとは研究者ですから(笑)、英会話の学習法について片っ端から調べてみました。そうこうしているうちに、「要するにこういうことかな」みたいな感じで、体系的な方法論ができてきて、で、それで話せるようになっていきました。
そうなると今度は、この方法論はほかの人でも効果があるのかな、と興味がわき、生徒をとって教えはじめたんです。実際、ぼくの教えた通りにやってくれた生徒に関しては、100パーセント話せるようになりました。
そして、そろそろもっと多くの人に知ってもらいたいな、と考えていたタイミングで、高橋書店さんにお誘いされて、その方法論を書籍化することになりました。それが今回の『シノドス式シンプル英会話』です。
「入門書」ではあるのですが、しかしこの本でまじめにトレーニングしてくれれば、アドバンスレベルに足がかかるくらいまでは行くはずです。つまり、普通に話すのに苦労しないところまで必ず上達します。
橋本 なるほど、英会話のノウハウを片っ端から調べて、芹沢さんの視点で実践的なノウハウをまとめたのですね。
私たち日本人は、英語を日本語に翻訳することはできても、英会話は苦手、という人も多いのではないか、と思います。私たちが日常的に使っている日本語を、会話レベルの英語に変換するためには、意外とコツがいるのですね。
たとえば、もし、自分が言いたいことを英語で表現できなかったら、どうすればいいのか。そういうときは、少し角度を変えて、別の類似したことを言ってみよう、ということですね。こうした「コツ」について、もう少し教えてください。
芹沢 よく言われるのは、「子どもでも分かるような日本語」で発想するとよい、ということです。ぼくもこれは本当だと思います。でも、これが大人、とくに高学歴の大人にとって、ものすごく難しいことなんです。大人がふつうに発想すると、その日本語を英語にするのがけっこう大変なんです。
たとえば、「日本では、20歳未満の喫煙は禁じられてますよ」と言いたいとします。これは日常的な会話で話しても、日本語として何の違和感もないですよね。では、それを英語にしてください、と言われたらどうでしょうか?
もちろん、“In Japan, smoking is prohibited for those under 20 years old.”というような英語が、ストレスなく口をついて出てくればいいです。とはいえ、こうした英語を言える人でも、「最近は春めいてきたね」みたいな簡単な英語を言えなかったりして、英会話はぜんぜんダメというのが、日本の英語教育の闇だったりするのですが、それはおいておきます。
いずれにしろ、初級者から中級者がこうした英語をつくろうとすると、たいていはフリーズするか、あるいはめちゃくちゃな英語になります。なんとか英語にすることができたとしても、頭は英語を組み立てることで一杯になって、「話している」という感覚をもつことはほとんどできないはずです。英会話は英作文とは違うんです。
では、どうするか? ポイントは、頭に浮かんでしまった日本語に拘泥しないことです。要は同じことが言えればいいのですから。
たとえば、うんと簡単に、「もしあなたが19歳なら、日本ではタバコを吸えません。でも、20歳ならタバコを吸えますよ」と言い換えてもいいわけです。この日本語なら、中学英語で十分表現できますよね。“If you are 19, you cannot smoke in Japan. But, if you are 20, you can smoke.”と言えばいいわけですから。このような英語が使えるようになると、日本語と同じような「話している」という感覚が、英語でも生まれてきます。
あと、英会話を教えていて痛感するのは、「漢字熟語」と英会話との相性の悪さですね。これも大人、とくに高学歴の人がもっとも苦労する点です。教育を受けるということは、漢字熟語を使いこなせるようになることと同義ですから。
たとえば、本にも書きましたが、「彼の本音が分からない」みたいな日本語が頭に浮かんでしまうと、「本音って英語で何と言うんだ??」となって、フリーズしてしまうわけです。英語を話していて言葉につまる原因は多くあるのですが、少なくない原因がこの「本音」のような漢字熟語をそのまま英語にしようとするところにあります。
しかし、これも「彼が本当に考えていること」と発想できれば、問題は解決します。“what he really thinks”と言えばいいですよね。ここでのコツは、動詞を使って発想することです。英語の日常会話では、動詞、それも基本的な動詞を使いこなせるようになることが、このように決定的に重要となります。
橋本 これは実用的なヒントですね。19歳ならダメ、20ならいいよ、という表現にすればいいのですね。
もう少し教えていただきたいのですが、日本語の会話と英語の会話は、根本的なところで、どんな点が違うのか。日本人にとっての英会話の心得、みたいなことも教えてください。
芹沢 よく日本社会はハイコンテクストな文化で、アメリカやヨーロッパの国々はローコンテストな文化だと言われますが、これもまたその通りだと思います。
日本語はきちんと言語化しないんですよね。そのため、日本語は英語に比べると、多くの場合かなりあいまいで、また抽象的です。それに対して、英語はずっと詳細で具体的です。ですので、日本語の感覚で英語を話してしまうと、何を言っているのかがよく分からない、ということがよく起こります。
また、英語は核心部分をまず言ってから、話を組み立てるのに対して、日本語は核心部分から遠い部分から始めて、次第に核心部分に近づいていくという話し方が一般的です。ですので、ここでも日本語で話すように英語の話を組み立ててしまうと、コミュニケーションがうまくいきません。
以上の問題点を解消するために、『シノドス式シンプル英会話』では、「体験」と「意見」を話すための2つのフォーマットをインストールしてもらって、英語の話を組み立てるトレーニングをしていただくようにしました。英語には英語なりの「話し方」があるので、まずはそれを体得するのが近道なんです。
橋本 フォーマットで勉強する、ということですね。
ではこの英会話の本は、どんな場面で、どんな会話をすることを想定しているのでしょうか。
芹沢 これまではよくビジネスの世界で、「英語はツール」だという言い方がされてきました。これについてはぼくも同感で、非ネイティブがネイティブのような英語を身につけるのは不可能、あるいはほとんど不可能なわけですから、あくまでツールとしてビジネスに使えればよいと思います。
しかし、この「ツールとしての英語」は今後、速やかにAIによって代替されていくでしょう。ビジネスでも、あるいはアカデミアでも、ごく近い将来にAIによって、言語的なバリアは取り除かれていくはずです。
しかし、それで英会話を身につけることは必要なくなるのかと言えば、そんなことはないだろう、というのがぼくの考えです。それでも、残る部分があって、それは「人とコネクトするための英語」です。端的に言えば、「お友だちになるための英語」です。もっと言えば、外国の人と英語で「雑談」するスキルです。
雑談と言っても、決して侮ることはできません。なぜなら、良好な人間同士の関係の根底にあるのは好感、さらには信頼であって、そうした関係を築くのは雑談を通してではないでしょうか。しかし、AI翻訳で、相手の好感や信頼を得ることはできないでしょう。やはり同じ言葉を話して、共感しあう必要があるのです。
本書が想定しているのは、「カフェや食事の場、あるいはオンラインで、友だちと雑談している状況」です。そうした状況では、フレーズはほとんど役に立ちません。フレーズをいくら覚えても、言いたいことを言えるようにはなりません。ちょっと言っておきますが、世の英会話本はフレーズに偏りすぎです。
「このあいだどこかに行って、こんな風だったよ」とか、「こんな本を読んだけど、こう思ったよ」とか、自分の体験や意見を言えるようになるためには、「言いたいこと、感じたこと」を英語で表現できるようになる必要があります。本書はそのような英語を身につけるために書かれています。
橋本 なるほど。しかしそのうち、オンラインでの英会話も、AIに置き換えられていくのでは、と思いました。
いずれにせよ、英会話が少しできるだけで、世界がぐっと広がりますよね。でも、そのメリットがよく分からないとか、恥をかきたくないから英会話を避けたい、という人も多いかと思います。どのようにすれば、楽しい英会話の世界に入っていけるのでしょう。
芹沢 英会話にはどうしても相手が必要です。でも、いきなり海外の友だちをつくるのはハードルが高いですから、まずはオンラインの英会話スクールで講師と話すところから始めるといいと思います。
ほとんどの日本人は、中学レベルの文法とボキャブラリーを身につけていますから、英会話の前提知識としてはそれでもう十分です。ぼくの本を読んで、2~3カ月トレーニングしたら、オンライン英会話で話しはじめるのが一番いいと思います。
もし、いきなり「生身の人間」と英会話をするのはちょっと、という方は、橋本さんがおっしゃったように、いまはAIの英会話アプリがありますから、まずはそれで英会話をはじめてみるのもいいと思います。
でも、少しやって慣れたら、やはりオンライン英会話に移行して、いろいろな人と英語で話してほしいですね。
橋本 AIのアプリって、どこまで有効なのか。やってみたら、その物足りなさが分かるのでしょう。
私の経験では、英会話というのは、失敗の連続でした。恥をかいて学ぶしかない、という感じでした。とくに海外旅行で、恥をかき捨てる、という感じでしたね。いまもそうですけれども、それでも楽しんでいます。芹沢さんは、どんな感じで学んでいきましたか。なにか失敗談などありましたか。
芹沢 最初の質問でも話しましたが、ぼくの場合、失敗というよりもフラストレーションですね。日本語だと高度な内容が話せるのに、英語だと最初のうちは、それこそ「電車に乗る」みたいなこともまともに言えないわけです。
以前だれかが言っていたのですが、日本人は“revolution”のような普段ほとんど使わない難しい単語を知っているのに、「掃除機をかける」みたいな簡単な単語は知らない。日常的な英会話は、むしろ「掃除機をかける」の方の世界ですから、英会話をしていると、あれも言えない、これも言えない、の連続ですよね。
けれども、橋本さんと同じように、次第に楽しみが勝っていきました。これは「おわりに」にも書いたのですが、あるとき突然、思ったんです。「そうか、英語が話せると世界中の人とコミュニケーションが取れるんだ!」と。これはぼくにとって、ものすごく感動的な発見でした。地球のどこの人でも、その人が英語を話せればコミュニケーションできるんです!
橋本 私も「掃除機をかける」って、英語でなんというか、分かりませんでした。“It’s messy.”(散らかっている) と言って、“tidy”(ちきんと整理整頓する)というところまでは思いつくのですが。
英会話でもなんでもそうですが、学ぶためには、一定のトレーニングが必要です。この本を読んで、いろんな学び方のコツが分かったとして、そこからどんなトレーニングをすればいいでしょうか。一概には言えないと思いますが、何かヒントがあれば教えてください。
芹沢 今回、ぼくが書いた本のトレーニングは、3つのステップから構成されています。
まず、単語を正しく並べて、英語の文章をつくるためのトレーニング。それから、先ほど少し説明しましたが、頭に浮かんだ日本語を英語にできないときに、どうやって英語にするか、これを鍛えるためのトレーニング。そして最後に、つくれるようになった英語の文章を使って、話を組み立てるためのトレーニングです。
この3つのトレーニングを毎日、2~3カ月やっていただければ、必ず英会話に不可欠なベースができます。そうしたら、さきほどお話ししたように、オンライン英会話で実際に話す経験を積んでいけばいいと思います。
英会話は勉強というよりも、楽器や泳ぎを習得するプロセスと同じです。ですので、どうしても反復的なトレーニングを、一定期間行う必要があります。英会話をはじめる方は、最低1年はかかると覚悟を決めて、取り組んでいただけるとよいと思います。
橋本 1年間であれば、なんとかしたいですね。
ところで、英会話というのは、私が若いときは、アメリカ人かイギリス人との会話を想定して勉強しましたが、いま英会話というと、とくに英語が母国語の人との会話を想定しているわけではありませんね。シノドスでは、シノドス・アジアというサイトを立ち上げていますが、アジアを意識した英会話、というのもニーズが高いと思います。この辺りについて、お聞かせください。
芹沢 英語はどんどんグローバル化していますよね。いまや英語のネイティブスピーカーの方がマイノリティです。いろいろな国の人が集まって英語で会議をしたときに、ネイティブの英語が一番通じなかった、という笑い話もあるくらいです。
ですから、アメリカやイギリスに限定することなく、いろいろな英語に触れるべきです。しかし困ったことに、日本ではリスニング教材のほとんどがアメリカ英語ですから、アメリカ英語しか聞けないという学習者も多いです。世界を見渡せば、いろいろな場所で、いろいろな国の人たちが、それぞれのお国訛りで英語を話しています。こうした意識をもって、英会話を学んでほしいですね。
また、日本は今後、東南アジア、南アジアの国々の人々との交流が、ますます活発になっていくでしょう。日本人はどうしても発想がドメスティックですよね。てすので、やはりグローバル化して多様化することが、日本の活力を高めるという意味でも望ましいと思うのですが、その際の具体的なかたちは、東南アジアや南アジアの国々と人々との交流になるのでないでしょうか。
でも、悲しいことに、日本人はアメリカ人の英語を崇めて、アジアの人々の英語を見下す傾向があります。しかし、こうした態度は百害あって一利なしです。ビジネスにおいても、また人との新たな出会いにおいても、さまざまな機会を閉ざしてしまうことになるでしょう。
英会話を学ぶことで、そして世界の人々と雑談をすることで、日本人がグローバルな心性を養ってくれるといいな、というのが、今回ぼくがこの本に込めた一番の思いです。
橋本 英語で雑談できるというのは、世界を平和にするための実践の一つでもあるでしょう。平和を願う人はぜひ、と思いましたが、ちょっと違うでしょうか。
芹沢 おっしゃる通り、英語で世界の人々と雑談することは、世界を平和にするための礎になると思います。理性的な対話をめざすのも大事ですが、カジュアルに雑談することも、負けず劣らず大切だとぼくは思います。
いま世界の人々は、どんどん英語でコミュニケーションできるようになってきています。しかし残念ながら、日本はそうした流れに取り残されています。ぼくの本が少しでも、そうした状況を変えられたらうれしいです。
プロフィール
芹沢一也
1968年東京生。株式会社シノドス代表取締役。シノドス国際社会動向研究所代表理事。SYNODOS 編集長。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。著書に『〈法〉から解放される権力』(新曜社)など。
橋本努
1967年生まれ。横浜国立大学経済学部卒、東京大学総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。現在、北海道大学経済学研究科教授。この間、ニューヨーク大学客員研究員。専攻は経済思想、社会哲学。著作に『自由の論法』(創文社)、『社会科学の人間学』(勁草書房)、『帝国の条件』(弘文堂)、『自由に生きるとはどういうことか』(ちくま新書)、『経済倫理=あなたは、なに主義?』(講談社メチエ)、『自由の社会学』(NTT出版)、『ロスト近代』(弘文堂)、『学問の技法』(ちくま新書)、編著に『現代の経済思想』(勁草書房)、『日本マックス・ウェーバー論争』、『オーストリア学派の経済学』(日本評論社)、共著に『ナショナリズムとグローバリズム』(新曜社)、など。