2024.12.28
『〈自由市場〉の世界史 キケロからフリードマンまで』(ジェイコブ・ソール[北村京子訳])
自由市場を擁護する議論は、アダム・スミスよりもはるか以前の古代ローマ時代にもあった。たとえば、前1世紀を生きたキケロは、自由市場を擁護して農地への課税に反対した。政府が介入して統治するよりも、貴族が農民に節度と美徳をもって対応することが重要と考えた。キケロのこの立場は、現代の文脈では、美徳によって市場経済を統治する「新保守主義」と言えるだろう。
本書は、キケロからフリードマンまでの思想史を、コンパクトにまとめた良書である。とくに興味深いのは、17-18世紀のフランスを生きたボアギュベールの思想だ。彼は農業こそ、自由な市場社会における富の源泉と考えた。農民への減税と、富裕層への増税を訴えた。貧しい人たちの税負担を減らして市場を活性化し、生産的ではないが豊かに暮らしている人には重い税を課して、その富を再分配する。そのような美徳のある政策こそ、自由な市場経済を活性化するとした。
私たちは、「市場経済は不安定だから政府介入が必要になる」と考える必要はない。むしろ「市場経済を活性化するためには、倫理が必要」と発想してはどうだろうか。市場経済の歴史を独自の観点で読み解いた本書は、経済思想の入門書としてもおススメだ。
プロフィール
橋本努
1967年生まれ。横浜国立大学経済学部卒、東京大学総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。現在、北海道大学大学院経済学研究院教授。専門は社会哲学。単著に『自由の論法』(創文社)、『社会科学の人間学』(勁草書房)、『帝国の条件』(弘文堂)、『自由原理』(岩波書店)、『自生化主義』(勁草書房)、Liberalism and the Philosophy of Economics (Routledge)、『解読ウェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」』(講談社)、『消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神』『「人生の地図」のつくり方』(筑摩書房)など。共著に、橋本努/金澤悠介『新しいリベラル』(ちくま新書)、編著に『環境思想入門』(勁草書房)、共編著に那須耕介/橋本努編『ナッジ!?』(勁草書房)など。

