2025.01.20
『「ふつうの暮らし」を美学する 家から考える「日常美学」入門』(青田麻未)
本書はタイトルにある通り、日常美学の入門書です。
1章のテーマは「機能美」。椅子の美を入り口に、機能美についての理論が紹介されています。椅子の美は色や形だけでなく、いかに使えるかという観点からも評価されます。他方で椅子の展示会は、椅子に実用性を超えた美的鑑賞の対象たりうる要素が存在することを示しています。これは技術哲学やアフォーダンス論など、さまざまな分野とのコラボレーションができそうな内容です。
2章のテーマは「美的性質」。掃除と片付けを例に、「きれい/汚い」とは何かが分析されます。
3章のテーマは「芸術と日常の境界」。料理はなぜ芸術から排除されてきたのか、という問いが中心に置かれていますが、その中で著者が「料理が嫌い」と吐露されていることが目を引きます。そこから、掃除が嫌いな人が2章を書いたらどうなるかを想像してみました。あえて散らかしておくことがその人にとっての美的な趣味に合うということもあるのかなと思います。他人によって整理整頓されたことで病気になる例もあるようです。
4章のテーマは「親しみと新奇さ」。家や地元に対する「親しみ」と、その中にある「新奇さ」について述べられています。この章はイーフー・トゥアンの一連の著作(『トポフィリア』『空間の経験』など)を想起させます。私の興味のど真ん中にあたる章です。
5章のテーマは「ルーティーンの美学」。これは「日常美学」にふさわしいテーマですが、ここに登場するvlogについては、自分の日常生活の映像を他人に見せるということ自体が、私には驚きでした。見る側よりも見せる側がいることに驚愕しました(年齢のせい?)。 このように、身近な例によって美学のテーマや理論を知ることができる本として、本書をお薦めします。
プロフィール
吉永明弘
法政大学人間環境学部教授。専門は環境倫理学。著書『