あらゆる「権利」が行使できる社会へ――価値観を共有し、権利の幅を拡張していくために私たちができることとは?

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「権利の幅」を拡張する

 

―― 権利を主張しようとしても、自分の権利に気づけない当事者は多いように思います。日々の生活のなかで当たり前のことになってしまっていて、困っていることに気づけないということがありそうです。自分の権利に気づくためのヒントのようなものはあるのでしょうか?

 

まずは権利概念を口にしてみることって大事だと思います。障害者運動の多くも、それまで「わがままだ」とか「しょうがない」とか言われていたものを「本当にそうなの?」と疑問視して権利を主張し始めたことから始まっています。「俺たちにも電車に乗る権利はあるよね」とか「一人暮らしする権利あるよね」というようなかたちで主張を始めたことが、いま認められている権利につながってきました。

 

どの分野においても、万人がその権利に「気づく」ことはなかなか難しいです。少数の人が権利を主張し、それを実現して、制度に埋め込むというプロセスを経て、ようやく社会全体の当たり前の権利として認められるという流れがあるのは否めないですね。それに、既にある権利ですら、侵害されていても黙認されたり、自覚されなかったりする。心地よく働く権利は誰にでもあるはずだが、セクハラはスルーされがちだったり。

 

とはいえ僕は当事者運動をしている人に向けてこの本を書いたのではなく、「読書好きの一般人」くらいの層に向けて書いているわけです。そういう層が運動を見た時に、「それってわがままじゃないの?」と思うのか、「本で読んだことあるけどそういうことだったのか!」と腑に落ちるのか、受け止める側の言葉として事前にどんなものがプレインストールされていたのかによっても変わると思います。

 

だから「権利の幅」といったものは人それぞれ違うわけだけれども、その違うものに対して、「こういった権利を主張してる人たちもいるよ」とか「こうやって変わってきたこともあるよ」と言い続けていくことで権利の概念を拡張し、共有していくということはできるだろうと思っています。

 

 

―― 取材されたなかで、本には収められなかった興味深いエピソードはありましたか?

 

ここのところは、東日本大震災直後に遺体安置所でボランティアしていた人たちなどのインタビューをしていて。それに関してはいずれ書きたいなと思っています。震災直後の石巻市などでは一時期、ご遺体の火葬ができない状態だった。「仮埋葬」というかたちで土葬をしなければいけなかったわけです。また、未発見のご遺体、身元不明のご遺体もあります。

 

今回の本と紐づければ、「火葬する権利」「弔う権利」が果たせない状態でした。結局、一部のご遺体に関しては、東京都などの他の地域が手を挙げ、火葬支援がおこなわれたわけです。また広域災害が起きたときに、「火葬する権利」を満たすためにできる支援や連携はどういったものか。議論すべき論点の一つだと思います。

 

 

「価値観をシェアするだけで、世の中はすでに動き始めている」

 

―― これらの権利が当然のように行使されるために、読者であるわれわれができることは何でしょうか?本で語られた事実を知るだけでもいいのでしょうか?

 

「まずは知る」だけでも十分だと思います。知っておくだけで、議員が何かポロッと失言をしたときに、「あれ?いまの発言はあの権利を侵害してないか?」と気づくことができる。たとえば都議会のセクハラヤジ問題は、あの発言が性差別だと気づく人と気づかない人との間にすごく断層があったと思うんですよね。

 

性差別ではないという人たちは、塩村都議の過去の発言などを根拠に、「彼女はこういうことを言われてもしょうがないんだ」という文脈を構築していたりして、「今後はどうすればいいのか」という議論を後退させました。何かが起きたときに「いやいや、あれは問題でしょ」とその問題を共有できる人が、一人、二人とどんどん増えていくだけでも、変化の速度というものを変えるためには役立つものだと思いました。ヤジ問題も、数年前ならスルーされていた可能性もありますし。

 

加えて、身近な問題について、たとえば「もう少しここのトイレこうしたほうがいいんじゃないですか?」とか「ここの標識これだと見えづらくないですか?」とか「この表現は少し差別的だと思うんですけど」とかいったように些細なことに気づくだけで、変更のチャンスに立ち会ったとき、そのチャンスをロスしないで済むわけですよね。これは少し消極的なパターンですけれど。

 

より積極的には、本の中で自分が欲しいと思う権利を率直に主張してみるとか、自分が気づいた身近な人の問題に対してサポートしてみるとか、そういったかたちで具体的アクションを一つでも起こすことが、世の中を動かすことには当然なると思います。

 

「価値観をシェアするだけで、世の中はすでに動き始める」ということが、この本で言いたいことなんです。その価値観に言葉を与えるためには、いろいろ人たちが犠牲になったり、いろいろ人たちが戦い続けて、ようやく言葉にできるわけです。その言葉を獲得するまでのプロセスに対する「寄り添い」を、手を抜くことなくやってくれる人が、ジャーナリストや役人になっていってほしいなという思いはありますね。

 

 

 

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