文明の岐路に立つ私たち――「宇宙船地球号」は今どうなっているのか

1960年代に有名になった「宇宙船地球号」という言葉がある。建築家・思想家のバックミンスター・フラーが独特のアプローチで読み解いた「宇宙船地球号」を、「スペースシップアース」として現代に位置づけようと試みたのが、『スペースシップアースの未来』(松井孝典、ジャレド・ダイアモンド、ダニエル・ヤーギン、ヨルゲン・ランダース、エイモリー・ロビンス、NHK取材班 著)だ。著者のお一人で、惑星科学の第一人者である松井孝典さんと、NHKプロデューサーの浜野高宏さんにお話をうかがった。(聞き手・構成/長瀬千雅)

 

 

震災を機に、現代文明のあり方を問い直す

 

―― 本書は、「スペースシップアースの未来」という同名のテレビシリーズが元になっています。もともとその番組は、どういう経緯で企画されたのでしょうか。

 

浜野 私は、国際共同制作というかたちでの番組づくりをもう10年以上やってきているんですが、毎年4月の終わりから5月にかけて「Hot Docs」というドキュメンタリーの国際フェスティバルがカナダで開催されていて、それにずっと参加しているんですね。その中に、ピッチ・セッションといって、世界中から放送局が集まって、いろんな企画を提案し合う場があるんです。

 

東日本大震災があったあとの2011年の4月は、多くの人が考えたのと同じように、私も、自分に何ができるだろうかと考える日々でした。そんなとき、たまたまですが、カナダへ行くことは前から決まっていた。そこで、ピッチ・セッションでプレゼンしたいから15分ぐらい時間をくれないかとお願いしたんです。何を言おうと思ったかというと、「日本では震災が起き、さらに原発事故が起きて放射線の恐怖にさらされた。いったい今、ぼくらは、これをどういう経験としてとらえていけばいいのか。ぼく個人は、現代文明のあり方をもう一度問い直すべき時期にきているんじゃないかと思っている。そのことをみんなに問いたい」と。具体的な番組の提案ではないけれど、そういうことをみんなで一緒に考えていきませんかという問いかけをしたいと思ったんです。

 

スピーチを聞いて、自分も一緒にやりたいと言ってくれた人が、20人ぐらいかな、集まってくれました。長く一緒にやっているカナダのディレクターやプロデューサーもいて、アイデアを出してくれたりして、国際共同制作として番組が作れそうだぞということになっていったんです。

 

そこからまた時間がかかるんですが、日本のスタッフで集まって勉強会を続けていた。あるとき、松井先生にきていただいて2時間ぐらいお話をうかがったんですね。そこで、松井先生の地球システム論に基づいた文明のとらえ方というものに、感銘を受けたんです。本で読んではいたのですが、やはり、目からうろこだったんですね。

 

 

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松井 宇宙を考える上で重要なことは、俯瞰的な視点で見る、相対的に見る。地球もたくさんある星の一つだってことですね。もう一つは、普遍性を追求する。この3つですが、私はそれにもとづいて、地圏・水圏・大気圏・生物圏・人間圏から成る地球システムという考えを発想していました。地球システムの中に人間圏を作って生きるという、その生き方が「文明」なんだと考えています。

 

「スペースシップアース」の元になっているフラーの『宇宙船地球号操縦マニュアル』も、まさに、基本はそこです。フラーは、地球は包括的に働く自動機構で、地球そのものに情報がびっしり詰まっていると言っています。コンピューターのような解析技術は専門化が進んで人間の代わりをするようなものも出てきているけど、それを包括的に、私の言葉で言えば「俯瞰的」に見られるのが人間の特徴なのであって、我々人間の役割は、地球という星が情報源であるということを認識して、しっかり読み解くことだと。そういうことを書いているんですね。

 

それはまさに私がやってきたことそのものなんです。地球はどんな星なのか。そこにどんな記録が残されているのかということを読み解いていく。自然は、宇宙の歴史を書いた古文書だと、私は考えています。その古文書を読み解くのが自然科学者なんですよ、ということでやってきたわけです。

 

浜野 そこから我々もすごくインスパイアされて、カナダ人なんかもメンバーに入ってもらって、「スペースシップアース」という概念をもう一度取り出して、現代的なスペースシップアースとは何なのかを考えるのはおもしろいんじゃないか、というような感じでブレストがされていったんです。

 

 

イメージのとっかかりは「スター・ウォーズ」!?

 

—— 地球を読み解くとか、人間の文明とは何かとか、何人もの科学者たちが時間をかけて研究してきたものを、テレビを通じて一般の人に伝えるというときに、番組づくりという面での難しさもありそうですね。

 

浜野 我々は、できれば中学生以上ぐらいの人にはわかってもらいたいと思ってつくっています。先生の本はおもしろいんですけど、やっぱり中学生にはちょっと難しいですよね。それをどう番組に落とし込むかというときに、我々のアプローチとしてはまず、ぱっと見てわかる、直感的に理解できるようなビジュアルをつくれないか、ということを考えました。

 

 

—— 「スペースシップアース」のメインビジュアルでは、地球を3つのユニットに分けて説明しています。人間が暮らす「客室」、大気や水などの「客室維持装置」、化石燃料が蓄えられている「燃料タンク」。で、ユニットごとに解説と課題が提示されています。おもしろいなと思ったのは、「客室」には「機関室」が備えられているという設定になっていて、機関室の誕生は産業革命に相当する、と。

 

浜野 最初は、「スター・ウォーズ」にデス・スターって、丸い悪い星あるじゃないですか。あんなイメージから、まあるい絵をこう、描いてみたんですよ。NHKの小野プロデューサーをはじめ制作スタッフが知恵を絞った結果、松井先生のおっしゃる地球システムを、客室・客室維持装置・燃料タンクというふうになぞらえることができそうだなと。全部を包括できてはいないんですけどね。

 

ちなみに、先生が提唱されている別のイメージは次元が一つか二つ上で、要するに、現在の地球の姿だけでなく、46億年という歴史の時間軸をも含めて一つのビジュアルとしていらっしゃるから。じつは、それもいいなあと思って考えたんですが、さすがにそれを映像化するのは難しかった。

 

松井 コンピューターでつくればつくれるんですけどね。ものすごいお金がかかるんですよ。情報量が膨大で。我々の知識のすべてですから。

 

ただ、将来の百科事典はそうなるだろうと思っています。三次元的な構成で、地球から宇宙まで、時空138億年を含む三次元図で、その図上の点を指すと、その時点での対象の状態が出てくるわけです。たとえば、(本の第三章に出てくる)シアノバクテリアに相当する部分をクリックすると、地球の歴史や生命の歴史の上での位置づけから、今の状態まで、全部出てくる。検索項目をビジュアル的に選べるわけ。「し」という頭文字で検索するのではなくて。そういうイメージなんですけれど。

 

 

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浜野 テレビ的な二次元のものではなくて、三次元的な、ホログラムみたいなものがあれば、すごくいいと思うんです。次の世代のメディアは、それを作れるでしょう。

 

松井 話を聞いたとき、最初は、ぼくが「地球システム」と表現していることを、「スペースシップアース」として表現したらどうなるのかなと思った。けど、番組のほうで客室とか客室維持装置という説明の仕方をつくって、提案してきてくれたのを聞いて、たしかにわかりやすいし、それでいいんじゃないですかと返事しましたね。

 

 

 

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