大人が「子どもの貧困」を隠してきた

6人に1人の子どもが、貧困に陥っている――8月29日に「子供の貧困対策大綱」が出されるなど、近年注目を集めている「子どもの貧困」。支援者だけでなく、当事者である子ども、そしてその親への取材を重ね、「子どもの貧困」の実態に迫った『チャイルド・プア~社会を蝕む子どもの貧困~』(TOブックス)が出版された。なぜ「子どもの貧困」は放置されてきたのか。そして今後の支援はどう考えるべきなのか。著者の新井直之氏にお話を伺った。(聞き手・構成/金子昂)

 

 

子どもの貧困の行き着く先

 

―― 「子供の貧困対策大綱」が出され、「子どもの貧困」への注目が集まっています。子どもの相対的貧困率は16.3%、つまり「6人に1人」が貧困という衝撃的なデータがありますが、本書に収録されている4人の当事者の話は、データからは見えにくい、「子どもの貧困」の問題の根深さを感じさせるものでした。

 

特に深刻なのは、ひとり親家庭です。貧困率は54.6%。先進国で最悪の水準です。本書では紹介していませんが、取材の過程で、経済的に厳しい母子家庭で育つ中学生の姉と小学生の弟にも出会いました。母親は、夫の暴力が原因で離婚し、強いストレスと精神疾患を抱えてギリギリの生活をしていました。収入は、パートで月に13万円。家賃と食費を除くとほとんどお金が残らない生活です。母親は以前、複数のパートを掛け持ちしていましたが、身体を壊して救急車で運ばれてからは、体調が優れません。次第にアルコールに逃げるようになり、うつ病も悪化して、子育てを放棄するようになったんです。

 

その結果、子どもたちには、まともな食事が与えられず、学校の給食がほとんど唯一の食事になりました。中学生の姉は、母親との関係が悪化して学校にも行かなくなり、リストカットを繰り返す……。小学生の弟は、友達と同じように学用品や衣類を買ってもらえないことが原因で、友達にいじめられるようになり、やがて不登校になりました。

 

このように、子どもの貧困は、経済的な厳しさを背景に、家庭内の複合的な要因とともに深刻化します。親は、非正規雇用による低賃金、精神疾患、家庭内暴力、障害、虐待、ネグレクトなど複雑な問題を抱えていて、人との関わりを拒絶したり、助けを求めることもできない状態に追いつめられていたりします。

 

周囲の人は、たとえ子どもの異変に気づいたとしても、家庭の経済的な問題なので、どこまで踏み込んで親に事情を訊いてもいいのか、戸惑いますよね。

 

ですから、子どもの貧困は、大人の貧困以上に根が深く、解決の難しい問題だと感じています。これからの日本社会を担う子どもたちから、自立して生きていくために必要なあらゆる機会を奪うだけでなく、生きる意欲さえ失わせるんですから。子どもの貧困の行き着く先は、10年後、20年後の日本社会の崩壊かもしれません。

 

 

―― お金を支援したらそれですべてが解決するような話ではないですね。

 

ええ、先ほどの小学生の弟は、家でほとんどご飯を食べられないので、いじめに遭っても給食だけは学校に食べに行っていました。見るに見かねた担任の先生が、おにぎりや下着を買ってきて、そっと手渡すことも少なくなかったそうです。こうしたことが積み重なれば、自己肯定感や自尊心も深く傷つくでしょう。子どもの貧困は、経済的な貧困に留まらない、「心の貧困」でもあるんです。

 

しかも取材を重ねてわかったのですが、同じような経験をしている子どもは他にもたくさんいました。「まさか、豊かなはずの現代の日本に……」と、これまでの価値観が大きく揺らぎました。

 

 

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大人が隠してきた「子どもの貧困」

 

―― 本書は「特報首都圏」という番組での取材がもとになっています。「子どもの貧困」を取りあげるにあたって、苦労したことはなんでしょうか?

 

まずは企画を通すことですね(苦笑)。5年ほど前から上司に「子どもの貧困」を取りあげたいと提案はしていたのですが、なかなか通らなかったんです。まだまだ「子どもの貧困」の深刻さが知られていなくて、「本当にそんなことあるの?」といった反応が多かったです。

 

もっとも苦労したのは、当事者である子どもの声を直接聞くことです。企画を通すために、学校の先生や支援をしているNPOの職員、自治体の福祉の担当者など、実態を知る周囲の大人たちに取材をしていました。子どもの貧困の深刻さを確信した反面、これはそうとう踏ん張って本人たちを取材しないと本当の実態は見えてこないと感じました。

 

 

―― 踏んばらないと見えてこないとは?

 

どれだけ深刻な状況なのか、どんな家庭環境に置かれているのか、同じ当事者を見ていても、人によって見え方が違ってきます。周囲の大人の話だけを聞いていても本当のところはわからない。当事者が何を思っているのかを聞きたいんですね。でも、「取材」となると子どもの本音を引き出すのは本当に難しいんです。

 

子どもとの信頼関係を作るために何度も足を運んで打ち解ければ、悩みを打ち明けてくれる程度には仲良くなれる子もいます。でもカメラを入れた「取材」となると、ハードルが上がる。子どもたちも身構えますし、何より保護者の許可をとる必要があります。しかも保護者に辿り着けるケースの方が稀なんです。連絡が付かなかったり、事前に断られてしまったりすることがほとんどで。

 

一方、学校や支援団体を頼りにしようとしても、やはりテレビの取材だと断られることがほとんどです。

 

 

―― 子どものプライバシーを守るためですか?

 

そうですね。たとえ顔をぼかしてプライバシーに配慮したとしても、絶対に個人を特定されないという保証はありません。不安になるのは当然です。マスコミに紹介したことによって、当事者の子どもや家族にトラブルが降りかかるようなことがあれば一大事ですから。

 

でも、中には、取材に協力することで、面倒なことに巻き込まれたくない、責任は負いたくないという大人のエゴが透けて見えることも少なくありませんでした。こうした場面に直面するたび、「だから子どもの貧困問題が世の中に伝わらないんだ」と強い憤りを感じました。しかし、それと同時に、子どものプライバシーを考えると、取材を続けていく自信を失いかけることもあって、まさにジレンマですね。

 

さらに、私たち報道機関もまた、プライバシーを言い訳に、この実態を十分に伝える努力を怠ってきたのかもしれないと感じることもあります。

 

子どもの貧困を隠してきたのは、私たち大人ではないか。言い換えれば、私たち大人が作り上げた社会、あるいは1人ひとりの大人によって子どもの貧困が見えづらくなっているのではないかとさえ思います。【次ページにつづく】

 

 

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