太陽活動から天気を読みとけ!――宇宙気候学の挑戦

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宇宙気候学で地球と宇宙の謎を解く

 

――本の中には「地球史の謎は解けるか?」というトピックがありましたね。

 

地球の歴史をみていくと、かなり大きな気温のアップダウンがあったり、生物種数が周期的に増減したりしていて、この現象の原因を地球の中だけで考えるのは難しいんですね。でも、その時代の地球を取り巻く宇宙環境、具体的には太陽系が属している銀河系に目を向けると、ひょっとしたら、すっきりと必然的に解けるかもしれない、というわけです。

 

銀河の中には「腕」と呼ばれる明るい領域と、暗い領域があります。明るいところには太陽のような恒星がたくさんあり、暗いところには死んだ星の残骸が漂っていて、その物質を材料にまた新たな星を生まれていきます。

 

私たちが住む太陽系は銀河の中を猛スピードで周回しているので、死んだ星の残骸に近づいたり、場合によってその中に突っ込んだりしてしまう可能性があるんです。そうなると、桁違いの量の放射線が地球に降り注いだり、塵が降り注いだりして、地球に激しい変化が生じることが考えられます。

 

先ほどの銀河の暗い領域、腕と腕のあいだの領域を、太陽系は約1.4億年の周期で通過していると考えられていますが、実は、海底の地層から得た海水温のデータを見てみると、地球上でも1.4億年周期で変化があったということがわかっています。

 

 

――宇宙の研究というと天文学がありますが、宇宙気候学とどう関係しているのですか。

 

天文学は、宇宙で発生しているX線や電波などの光を望遠鏡で観測して、天体や銀河がどのように生まれて進化するか、というようなことを研究する学問です。最近では、銀河系の中に、地球に似た惑星があるかを探す研究も盛んに行われています。

 

こういう「第2の地球」を探す研究にも、宇宙気候学は大きく関連してきます。惑星に生命がいるかどうかは、その星の住みやすさによって決まるからです。

 

例えば、太陽のような恒星に近すぎたら暑すぎてしまうし、逆に遠すぎたら寒すぎて生命は生まれないんですね。地球はちょうどいいところにあったので生命が誕生し進化することができました。だから、基本的には、惑星が公転している恒星の明るさ、それから恒星と惑星の距離という2つの要因によって住みやすさが決まってきます。

 

でも、これに宇宙気候学の観点を加えると、恒星の磁場がどうなっているのか、そしてその恒星系が銀河のどのあたりにいるのかも、住みやすさを知る上で重要なポイントになってきます。地球外に生命体を探査するとき、本当に幅広い知識が必要になってくるんです。とても楽しみな分野です。

 

 

――本の中の余談として、研究したいことと研究に用いる手段が自分に向いているかは一致しないということが書かれていましたよね。

 

物理学科の4年生になって研究室を選ぶことになったときに、ぼんやりと、天文台に籠って宇宙の観測をしてみたいなと思ったんですが、研究室をいくつか見学したら、みんな望遠鏡づくりをしているんですよ。天文学の研究というのは、半田ごてを使って電子回路の工作をして、カメラを作って、という世界なんですね。

 

それを見たときに、私には天文学は合わないな、と思った経験があります。もともと化学実験は好きで、木の化学分析から宇宙の研究ができる研究室があったので、そこでこの研究を選びました。

 

 

宇宙気候学の今後

 

――宇宙気候学は今後どのように役に立っていくのでしょうか。

 

地球史の解明や「第2の地球」探しにも役に立つとは思いますが、やはり気候予測の面で大きく貢献できるだろうと思います。

 

特に農業の分野で非常に役に立つと思います。気温が1度下がると、植物が生育できる期間が2~3週間短くなって、収穫できる作物の量が少なくなってしまいます。1991年にピナツボが噴火したとき、その影響で日本では1993年に気温が2度下がりました。日本中で米不足になりタイなどからお米を輸入する事態になったことを覚えていらっしゃる方も多いかと思います。

 

太陽の活動が下がったとき、北半球の平均としては0.6~0.7℃程度しか気温が下がらないんです。ただ、場所によっては2.5℃もの気温の低下が起こります。北ヨーロッパやカナダや日本は影響が出やすい地域だということも分かってきています。

 

太陽の活動が200年周期の底を打った状態になると、気温が下がった状態が数十年間続くことになりますので、農作物への影響はかなり大きいものになると思います。

 

実際に、17世紀に太陽の黒点がゼロの状態が50~60年の間続いたときには、かなり深刻な影響がでたという記録が残っています。気温が下がって、北ヨーロッパを中心に小麦やジャガイモがとれなくなってしまった。直接的に関連しているかはわかりませんが、栄養失調による免疫力の低下で伝染病が流行って、各国で数百万単位の死者が出る結果となりました。

 

 

――気候予報に取り入れられるために解決すべき課題はなんですか。

 

課題はたくさんあります。

 

例えば計算の問題があります。現在、1つの積乱雲をコンピューターの中に作って宇宙放射線の影響を追うところまでは、できるようになっています。スーパーコンピューターを使って、雲の中にある水滴1つ1つについて運動方程式を解いているのです。ただ、莫大な計算量ですから、地球上のすべての雲について同じ計算をして気候予報まで持っていくのは、まだ難しいのが現状です。

 

また、太陽の活動の予測がまだ難しいという点があります。太陽の活動と気候の関係性が明らかになったとしても、気候予報に組み込むためには、まずは太陽の活動自体を正確に予測できるようにならなければなりません。そういった太陽物理に関する研究も、今後ますます進めていかなければなりません。

 

また、宇宙放射線の影響を受けやすい場所がどこで、どれくらい影響しているのかを調べる必要もあります。

 

 

――宇宙放射線の影響は場所によって違うのですか。

 

宇宙放射線が地球に降り注いでも、地球全体で雲が増えるというわけではありません。地球には放射線への感度が高い地域があって、そこで作られた雲が風に乗って移動して、世界各地に影響していくんですね。

 

おそらく、赤道が宇宙放射線の影響を受けやすいんじゃないかと思っていて、そこの雲のデータを詳細に調べる必要があると考えています。

 

 

――なぜ、赤道で影響が出やすいのでしょうか。

 

赤道と極域では、宇宙放射線の量だけ考えると、極域の方がたくさん降り注いでいるんです。これは地磁気が宇宙線を遮る度合いが赤道の方が大きいためです。ですから、赤道の方が不利です。ただ、雲の材料となるような水蒸気や、植物プランクトンが出すエアロゾルと呼ばれる物質はむしろ赤道に豊富に存在しているんですね。

 

それらの物質のせいで赤道では放射線に対する感度が高まっていて、かろうじて入り込んでくる宇宙放射線と反応して雲を作っているんではないか、と考えています。

 

 

いま太陽で特別なことが起きている?

 

――本の中で、今現在の太陽の活動は特別な状況にあると書いてありましたね。

 

2008年12月、11年周期の谷を迎えた時に、太陽の活動が100年ぶりか200年ぶりという弱さまで落ち込みました。11年周期のピークにあたる現在は黒点数が増えていますが、前回のピーク時の半分程度しか黒点が出ていない。全体的にすごく活動が弱まっているんですね。今がピークなのでこれからは下がる一方です。今後、太陽の活動はかなり弱くなっていくと考えられます。

 

 

――太陽の活動が弱まるとどのような影響が考えられますか。

 

太陽の活動が大きく低下した直後の2009年から2010年にかけて、世界中で記録的な豪雨や積雪、気温の低下が観測されました。今後、太陽の活動がどの程度まで落ち込むのかわかりませんが、数年間をかけて太陽活動が下がっていったときに、徐々に気候にも変化が見え始めてくる可能性はあります。

 

 

――宇宙気候学の研究においても重要な時期ですね。

 

そうですね。200年に1度の特別な太陽の状態を見られるチャンスなので、太陽の物理も大きく進むでしょうし、この10年で宇宙と地球の気候との関係をつなぐ重要なデータがたくさん出てくると思います。

 

 

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vol.266 

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