生き残っていく理論が物理となる――宇宙と相対性理論の最前線

 物理をより広く捉えること

 

――「重力波観測によって高次元の理論が検証できるかもしれない」というのはなぜですか?

 

ブラックホールや中性子星などが合体すると、大きな重力波が発生します。レーザー干渉計でその重力波が観測できたとします。可視光やX線など他の天体観測などと合わせると、重力波を放出した天体の位置や距離が確定します。やがては天体からブラックホールに届くまでの時間などのデータが10件、100件と蓄積されていくことになります。

 

すると、その重力波発生のメカニズムも詳しく解明されてきます。もし、計算によって期待される重力波の大きさと、届いている重力波の大きさが違っていたら、「重力波は4次元から5次元に逃げていった」と考えられます。時間がかかりますが、段々と高次元の存在が検証されていきます。

 

 

――その他に高次元の理論を検証する方法はあるのですか。

 

スイスのCERN(欧州原子核研究機構)では、大型ハドロン衝突型加速器(加速器LHC)という装置を使って、陽子同士を高速で衝突させて宇宙初期の状態を再現しようとする実験が行なわれています。もしこの世の中が高次元の世界ならば、の仮定のもとでの話ですが、小さな領域では重力が強くなるために非常に小さなブラックホールを作れるのではないかと考えられています。

 

陽子スケールの非常に小さなブラックホールができると、「ホーキング放射」という現象によって一瞬で消えてゆくはずです。ホーキング放射が起こる観測はできるはずなので、ブラックホールがエネルギーを余剰次元に逃がした跡が観測できれば、我々は高次元の証拠を得られたことになります。しかし、今のところ実験結果ではその傾向は見られていないみたいです。

 

この実験については、外部から「本当にブラックホールができてしまったら、地球が飲み込まれてしまう」という反対の声もあったようです。そんな内容のSF映画もいくつかありますよね。それに対し、CERNは記者会見まで開いて安全宣言しています。

 

5次元のブラックホールはどうなっているのかとか、6次元の宇宙はどう膨張しているのかとか、現時点では趣味と言われてしまうかもしれませんけど、可能性がある話ならば面白いと思って研究が進んでいきます。それがやがて何かの突破口になって、新しい見方が生まれてくるかもしれないと皆が信じているはずです。

 

これまでの物理の歴史を見てみても、考え方を広げると上手く説明できたり統合できたりすることがあります。例えばアインシュタイン以前は、時間は一定のもので誰からみても同じでした。アインシュタインは特殊相対性理論でその考え方を変えた。

 

さらに、一般相対性理論では空間が曲がっている可能性を指摘し、そう考えれば色々なことが正しく説明できるようになった。それを超えるアイデアは何かとみんな考えているところなのです。次元はもっと広いのかもしれないし、宇宙には変な物質があるのかもしれない。物理をより広く捉えるという意味では正しい方向に進んでいるのだと思います。

 

 

5次元空間のドーナツ型ブラックホール

 

――ブラックホール研究における、今後のテーマとしてはどのようなものがあるのですか。

 

高次元の理論がブームとなったことで、それまでずっと4次元でブラックホールを考えていた研究者もハッと気づかされて、「高次元だとブラックホールはどうなるのか」と考えるようになりました。本の中でも少し触れましたが、「高次元ブラックホール」というものです。例えば、4次元では丸い形のブラックホールしかありえませんが、不思議なことに5次元以上だと色々な形のブラックホールができます。ひもの形をしていたり、ドーナツの形だったり。(図3)全てまとめて「ブラックオブジェクト」と呼ばれるようになりました。

 

 

――どうしてそんな形になるのですか。

 

例えばドーナツ型のブラックホールは4次元ではできないことが証明されています。しかし空間の次元が一つ大きいと、全体がくるくる回る自由度の他に、内側をくるくる回る自由度が生じるので、それらがバランスよく釣り合うと、ドーナツの形になれるのです。さらに次元が高くなると回転する自由度がもっと増えて、もっと複雑な形で釣り合うこともありえます。このように、次元を上げるだけで、色々な形のブラックホールができると分かっています。

 

僕らは、それが本当にできるのかシミュレーションする研究もしています。その結果、ドーナツ型のブラックホールはちょっと揺らすと不安定になり、やがて丸いブラックホールになってしまうことが明らかになり、少し残念です。高次元ブラックホールは、アインシュタイン方程式の答えとして出てくるものなので、数学的には存在します。しかし方程式の答えはあっても、それが安定な解なのか不安定な解なのかが、理論研究において重要な概念なのです。

 

 

図3 ブラック・リング(ドーナツ型ブラックホールのイメージ)

図3 ドーナツ型ブラックホールのイメージ

 

 

例えば、山の上におむすびを置いても、ちょっとでも動かすと転がって落ちていってしまう。しかし谷底にあるおむすびはちょっと揺れたところで元に戻ってくるから安定です。アインシュタイン方程式の答えがあったとしても、それが山の上のものなのか、谷底にあるものなのか。自然界は揺れ動きますから、方程式の変数の値をちょっとずらして解がどう動くかを精密に計算したり、シミュレーションしてみたりして、安定性を検証する必要があります。不安定な解だと、どう頑張っても自然界には存在しません。ただ、高次元のブラックホールはそれがはっきりとわかっていない。安定性を知りたくて、みんな一生懸命研究しています。

 

 

アインシュタイン方程式を拡張した新しい重力理論

 

――今後はどのような研究をされる予定ですか。

 

アインシュタインの理論ではない、もう少し広い重力理論でブラックホールができるかどうか考えていきたいと思っています。例えば、宇宙のはじまりは一つの点から始まった、とみんな信じていますが、一番はじめの一点を考える時にアインシュタインの方程式は使えません。面白いことにアインシュタイン方程式は、「特異点」と呼ばれる無限大の量が発生する点の存在を予言するのですが、特異点が発生するとその先が予言できずに理論が破綻します相対性理論が破綻するのです

 

宇宙の始まりを記述するためには、特異点がない重力理論を作らなければ、とみんな考えています。そこで、アインシュタイン方程式をちょっと拡張してみる。例えば、空間の曲率項(アインシュタイン方程式の左辺)の効果が小さなスケールで少し激しく効くような理論を考えると、特異点ができなくても済んでしまう可能性が出てくる。(図1再掲)

 

 

図1 アインシュタイン方程式(重力場の方程式)

図1 アインシュタイン方程式(重力場の方程式)

 

 

アインシュタイン方程式を拡張した重力理論は、特異点を解消するためには絶対必要だと考えられています。その中でブラックホールはできるだろうかと、今考えているところです。まだ研究している人は少ないテーマですが、非常に面白いなと思ってシミュレーションをしています。僕のように教員が一人で組織するような小さな研究室だと、現在の主流研究より、何か新しいテーマを見つけて取り組む方が競合者が少なくてやりやすいのです。これまでもこれからも、今から5年後に研究の主流になるような話題を考えて研究を進めています。

 

 

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