オーロラを見つめて、宇宙と地球の過去・現在・未来を知る

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江戸時代のオーロラ

 

――本の最後で、「オーロラは宇宙に生きている私たちの過去・現在・未来を知る道しるべ」とおっしゃっていましたね。過去のオーロラはどうやって知ることができるのですか?

 

あまり昔のものは難しいですが、江戸時代くらいだったら、かなり詳しく調べることができます。1770年ごろに、ヨーロッパや中国、そして日本でもオーロラを見たという記録が残っているんです。それも同じ日の夜に世界中で複数の報告があります。

 

これはぜひ宣伝したい研究なのですが、そうした過去の記述や絵画を調べていくと、太陽で巨大な爆発が起きたときに地球で何が起きるのかを知るためのヒントが出てきます。僕の研究室がある極地研究所のすぐ隣には江戸時代の専門家の方々もいて、彼らは江戸時代の日記をスラスラ読めたり、どこを調べれば良いかも分かっているので、一緒に研究をしています。

 

江戸時代の文章にはかなり詳細に書かれているものが多くて、おそらく教養のある一般の人たちが書いたと思われる日記などには、オーロラがどう広がっていって、何時にはどういう形で何時にはこう色が変わって、というところまで記録が残っています。そういうものを見ると江戸時代の文化の豊かさも分かってきます。捉え方、表現の仕方も他の国とは随分違うんです。でも、本物のオーロラを見たことがある人が読むと、これは確かにオーロラと考えて自然だと確信できるところがあって。

 

そうした過去のオーロラの研究も含めて、いま「オーロラ4Dプロジェクト」というものをやっています。今度は時空を超えて、昔の地球から未来の地球をイメージできるような新しい研究をしたいと思っています。たとえば、今の人たちはSNSにプロ顔負けの綺麗なオーロラの写真をガンガン乗っけているので、それを世界中から集めて研究するとか。

 

また、鎌倉時代から江戸時代までの昔の資料からオーロラの記述を探すのを市民の方々に手伝ってもらうという試みもしました。みんなで手分けして昔の記録を読んで、オーロラに該当する表現が見つかったら紙に書きだして。そうすると、なんと新しいものが見つかりました。顔を合わせて、人の手で作業しないと分からないことも結構あるんですね。

 

 

――江戸時代ではオーロラはどのように記されているんですか?

 

「赤気」、「白虹」などいろいろな表現があります。『折々草」という1771年に書かれた随筆集には、「かがよふ光の幾条も立上りて、天の眼は南をさしてたな引きたるには、火にはあらず、天の気なりと言出づるに、此先いかならむと思ひ量られて人々怖ぢたり。」とあり、赤いオーロラを見て火事かと心配したり怖がったりしている様子が記されています。

 

また、その続きには、「……或翁の、己よく覚えて侍る、是に違はぬ気の侍りし年は、稲善く栄えて、国中豊けく侍りしなり、いと善き事にて侍りしと語りき。」と、それ以前にもオーロラが現れたことがあり、その年には稲作に適した気候となったということも書かれています。(オーロラについて)他人から聞いたという記録も多いのですが、実際にオーロラを見た人が書いた記録も最近たくさん発見されてきて、大興奮なんです。

 

 

1770年のオーロラ 出典:猿猴庵随観図絵(著者・高力種信)より

1770年のオーロラ 出典:猿猴庵随観図絵(著者・高力種信)より

 

今ちょうど「くずし字検索技術」といって、コンピュータでくずし字を活字に処理してキーワード検索できる技術が開発されつつあり、それを使えば膨大な古典籍を一つ一つ読まなくても大量に調べることができます。長い間「眠っていた知」を今なら掘り起こすことができるのです。オーロラの発生がいつの時代に多かったのか、いつの季節に多かったのかということまで詳細に研究できるのです。

 

 

オーロラが見られなくなる?

 

――昔は太陽の爆発が激しかったということですが、いまは弱くなってきているのですか?

 

はい。太陽が若い時にはより爆発的だったということはほとんどの研究者が合意しています。理屈は非常に簡単で、太陽ってだんだん回転が遅くなっているんです。今は27日くらいの周期で回っているのですが、もっと若いときは10日くらいで一周していました。自転のエネルギーは太陽の磁場の強さと関係していて、それが爆発のもとになっているからです。

 

ほんの、ここ30年くらいの変化がまた面白くて、太陽の活動はだんだんと穏やかになってきています。そして、爆発のトータルの数でいうとこれからは相当減るはずです。太陽は黒点の数が多いときほど活発ですが、過去にも70年間くらい活動がストップして黒点が出なかった「マウンダー極小期」と呼ばれる時期があって、そのような黒点の出にくい時代になるのではないか、という兆候が少しあるんです。

 

ここから50年は全然違う太陽になっても何の不思議もないと僕は思っています。だから、オーロラ観光に行くのも今のうちかもしれません。

 

 

片岡氏

片岡氏

 

――また昔のような大爆発が起きて、世界中でオーロラが見えるチャンスはありますか?

 

とてつもなく巨大な爆発はランダムに起きるので、可能性はゼロとは言えません。ただ、そういう立派なオーロラを見られるチャンスは今は少なくなっています。太陽の黒点が増えたり減ったりする磁場の周期は約11年で、今はそのピークを過ぎたところにいるからです。

 

最も黒点が少ないときは極小期と呼ばれ、前回の2008、2009年のときはアラスカでもオーロラはほとんど現れませんでした。今後は極小期になっていきますし、しかもそういう状況がかなり長続きするのではないかと言われています。

 

極端に弱い太陽活動が長く続いた「マウンダー極小期」のころは、世界中でいろいろな現象が起きました。たとえば日本の諏訪湖では、冬の寒い日に「御神渡り」といって氷がひしめいて龍の背骨のようになる様子が見られますが、これがマウンダー極小期のことは何本も湖に走っていたという記録が残っています。

 

また、日本には桜の開花の記録が昔から残っていて、それを見ると4月に咲く地域で5月に開花していたりして、当時は寒かったということが分かります。太陽の磁場活動がストップしても光の量自体はほとんど変わらないので、なぜそれほど地球が寒くなるのか、結構謎なんです。今は地球温暖化が問題になっているので、それとは逆の心配になりますよね。

 

 

宇宙災害の対策

 

――もし突然、巨大な爆発が起きたとすると、地球に被害が及ぶこともあるのでしょうか。

 

江戸時代に大爆発したときは、みんな「なんだ、火事か」とか言って割とのほほんとしていたみたいですね。

 

しかし、今はハイテクの時代なので大変です。オーロラに伴って変電所に誘導電流が流れて、大規模な停電が発生したり、強い放射線によって宇宙飛行士やパイロットが被ばくしてしまう可能性が考えられます。あるいはカーナビが狂ってしまったり、飛行機の通信が不安定になったり。そうした宇宙災害に関する研究にも取り組んでいます。

 

たとえば被害を軽減するための対策としては、一つの変電所が被害を受けても広域の停電に至らないような工夫をする。あらかじめ、いつ頃から太陽活動が不安定になると予測できていれば、他の変電所でバックアップの運用をできるようにしておくとか。誘導電流が起きやすい地域にある変電所をあらかじめ把握しておくことが停電対策に繋がってきます。

 

江戸時代の文献によると日本でも広域でオーロラが見られたということなので、もしそうなると緯度の高い地域でなくても対策が必要になるかもしれません。

 

とは言っても、これからは太陽の活動が弱くなっていくと思うので、爆発とは逆に、とても弱い太陽活動の研究も重要です。僕としてもオーロラが見られなくなるのは寂しいですが、最近は、太陽活動がストップするとオーロラはどうなるのか、コンピュータシミュレーションで調べています。実は、普段はオーロラの出ない北極点や南極点のほうで変なオーロラが発生するみたいで楽しみです。

 

それを確かめるために、今度は北極の真ん中まで丈夫な船で調べに行ったり、南極大陸の中を攻めていったり、まさに大冒険の計画も考えているところです。そうした地球の究極の実験に挑んでいくことは、系外惑星も含めた宇宙環境を考える上で非常に重要になると思っています。

 

それから今、打ちあがった場所に戻ってくる「再利用ロケット」が実用化されつつありますね。それでオーロラに突入してまた戻って来る、というような、これまでになかった新しい観測も気軽にできるようになるかもしれません。それに人が乗れるなら、ちょっと乗ってみたいと思いませんか。たぶん10年後くらいになると思いますが、そういう離れ業の実験もできたら面白いなと思っています。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

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