日本に必要なのは「セカンドチャンス」――人口減を逆手に「眠れる人材」を生かすには?

人口が減ってしまうと、日本はもう終わりだ……そう思っていませんか? 『武器としての人口減社会』(光文社新書)は、経済協力開発機構(OECD)東京センター長である著者の村上由美子氏が、OECDの国際比較統計を用いながら、人口減を最大限に生かすための政策を提言している意欲的な一冊です。どのように人口減社会をチャンスに変えるのか、その重要なキーとなる日本の眠れる人材はどこにいるのか、村上氏にお話をうかがいました。(聞き手・構成/山本菜々子)

 

 

「眠れる人材」の宝庫

 

――人口減を扱った本の多くは悲観的なものですが、『武器としての人口減社会』は国際統計を比較しながら、「人口減」について現実的に向き合った本だと感じました。

 

国際比較して見えてくる日本の姿は、「日本は労働生産性が低い」「少子化が進んでいる」「睡眠時間が短い」と残念なものです。さらに、少子高齢化によって日本の財政は悪化、経済の低迷……と悲観的な論調ばかり続いています。

 

しかし、私はむしろ日本の人口減はチャンスになりえると思っています。これからAI‐ICTなどのテクノロジーが発達し、仕事は自動化していくでしょう。そうなると、失業率が高く人材が余った状態である欧米諸国と比べ、労働力が不足している日本はテクノロジーを導入することがたやすいからです。

 

さらに、日本にはAI‐ICTに対応できるような「眠れる人材」が多く存在しています。今までの制度の中では、眠らざるを得なかった人たちです。この人たちの能力を生かすことができれば、人口減社会を「武器」にすることも可能だと私は考えています。

 

たとえば、日本の女性は高い実力を持っています。OECD成人力調査「PIAAC」のデータをみると、読解力、数的思考力ともに世界で最高点です。

 

 

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これからの日本は労働人口が急減します。そうなると、日本の経済は下り坂……と思われるかもしれませんが、男女の労働参加率の差が50%解消すると、日本のGDPの年平均成長率が1.5%まで増加すると試算されています。現状維持の場合より、約20%もGDPが高くなるといわれているのです。一方で、2030年までに男女間の労働参加率が変化しない場合、日本は1.0%しか経済成長できないと試算されています。

 

 

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――「女性活用」がうまくいくと、そんなに悲観的な未来じゃない気がしてきますね。

 

これまで「女性活躍」の議論は人権尊重や社会福祉的な意味を持っていました。ですが、現在は経済合理性から考えても女性活躍が必要だという考え方が主流です。女性の社会進出が進んでいない日本だとなおさらでしょう。

 

いまのところ、女性の大卒卒業者の就業率は先進国でも最低レベルですし、女性が働くことに対する差別的態度と、女性の就業率との相関を示しても、「職が乏しいとき、女性よりも男性のほうに就職する権利があると考える人の割合」も高く、男女の就業率格差もあります。

 

 

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女性の労働参加率と手づくりのぞうきん

 

――「女性活用」とは言いながらも、日本の女性の社会進出には様々な課題がありますよね。村上さんは海外で働いていた期間が長いですが、日本の女性の社会進出が進んでいない原因はどこにあると感じていますか?

 

私が日本に来て驚いたのは、男尊女卑――正確に言うと、「社会のメインストリームが男性である」ことが自然に受け入れられているカルチャーです。

 

たとえば、社外の人とミーティングをすることがありますよね。日本の暗黙の了解で、役職が上の人から順番に名刺交換をすることになっています。しかし、私が男性の部下を連れて参加すると、男性の部下から先に名刺を渡して、私は後回しになってしまうことがたびたび起きました。最初は「わざとなのかな?」と思っていたのですが、「男性と女性がいたら、男性のほうが上司だろう」と悪意なく自然に判断しているのです。

 

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――悪意がない分、社会に浸透していることの現れなのかもしれませんね。

 

そうなんです。それに、子どものいる女性が非常に働きにくいことにも驚きました。私はアメリカで2人、日本で1人子どもを生み、現在は家政婦の手をかりながら日本で子育てをしています。

 

びっくりしたのは、幼稚園に通わせようとすると、母親が毎日お弁当をつくったり、ぞうきんやバックを手づくりしたりすることが求められるのです。お弁当でも手間暇をかけた「キャラ弁」がもてはやされます。日本社会では、専業主婦を前提として、母親に家事労働を求めているのです。

 

さらに、ビジネスの場でも、「子どもはいつ産むの」と女性に聞いたり、産休に入ると「三つ子の魂百までだから、お母さんが家にいてあげなきゃ」と言われます。これまた悪意は全然ないのですが、働きたいと思っている女性の心は折れるでしょう。私も「お母さんが働いているなんてかわいそう」という声を日本で何度も聞きました。

 

もちろん、すべて手作りしてあげたいと思うのが、自分にとっての愛情表現だという人もいるとは思います。同時に、母親が社会に出てやりがいを感じながら働く姿を見せることも、子どもの人格形成にプラスになるでしょう。それは個人の選択であり、どちらが望ましいのか社会から押し付けられることではないはずです。女性活躍を進めていくためには、その空気を変えていく必要があるでしょうね。【次ページにつづく】

 

 

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