日本に必要なのは「セカンドチャンス」――人口減を逆手に「眠れる人材」を生かすには?

中高年と若者のスキル

 

――女性以外にも「眠れる人材」はいるのでしょうか?

 

日本の中高年も非常に優秀です。PIAACのテストをみると「読解力」「数学的思考力」とどれも高いスコアを維持しています。女性同様、この年齢層の日本人もスキルが高いのです。

 

 

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その理由として、日本の高度な基礎教育システムと、企業の丁寧な職業訓練があげられます。日本特有の終身雇用や年功序列制の恩恵にあずかっている世代ですから、長年働くことで組織のあらゆる業務に精通し、人脈も築かれています。

 

しかし、日本の企業では40歳を過ぎたころから管理職に昇進するかどうかが決まり、そのチャンスに恵まれなかった場合、会社のメインストリームではない場所で飼い殺されてしまいます。そうなると、勤労意欲も失ってしまいますよね。新しいスキルを身に着けようというモチベーションもうまれない。スキルを身に着けないから、リストラされても再起する方法がないのです。

 

若者が減っていくのですから、中高年齢層にICT-AIに必要な新たなスキルを習得してもらい、彼らの能力を生かせる仕事についてもらったほうがいいでしょう。幸運にも、日本の中高年は世界でトップレベルの数的思考力と読解力を有しています。世代間で教育、スキルレベルのかい離が大きい諸外国では考えられないことです。

 

 

――メインストリームであるはずの中高年にもまだ潜在能力があるのですね。

 

そうです。加えて、非正規の若者も「眠れる人材」であると考えています。ほかの国と比較しても、学歴が高いほどニート(NEET)になっていることが分かります。ここでの「ニート」は、教育や訓練を受けておらず職にも就いていない若者を指します。

 

 

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多くの国では、大学・大学院修了者よりも、義務教育修了後の方がニートになっている割合が高いのです。高等教育を修了できないため就職することが難しく、失業状態になってしまうためです。しかし、日本では、大学・大学院を修了した人たちのほうが、仕事についている率が低いことがわかります。

 

なぜこのような状況が生まれてしまうのでしょうか。就職活動に失敗してしまうと就職のチャンスを逃してしまう日本独自のシステムが、その背景にあると私は考えています。

 

日本の企業の多くでは、高校や大学を卒業したばかりの学生を「新卒」として採用します。就職活動時期の数か月が就職氷河期とかぶったり、病気や病む負えない事情で活動できなかったりした場合、正規職員として就職することが難しくなります。そのため、就職活動のために留学をあきらめる人も多いですし、意図的に留年して再度画一的なスケジュールに合わせる選択をする学生もいるようです。

 

就職先が決まらずに卒業してしまうと、主に中途採用で就職活動をすることになりますが、日本では正規社員の中途採用が少ない上に、採用されても昇進が限られてしまいます。そこで、やむをえなく非正規職員になるのですが、これまた日本の非正規と正規の壁は厚い。給与や待遇も違えば、与えられる仕事の裁量も違います。「もっと成長したい」と本人が思っていて、その実力があったとしても、そのチャンスが与えられないのです。さらに、非正規から正規になるのも難しい状況です。

 

このように、仮に優秀な学生であったとしても、たった数か月の状況次第で社会で十分に活躍するチャンスを逃してしまいます。しかも、日本ではまっさらな状態の若い新卒を好む傾向があります。そのため、大学院や博士課程に進んでプロフェッショナルになっても、就職できません。日本の企業が新卒の一括採用にこだわっているうちは、優秀な人材を確保するのは難しいでしょう。

 

 

いまの日本に必要なのはセカンドチャンス

 

――「眠れる人材」がたくさんいることに目を向けず、「これからの日本は、低成長でお先真っ暗」とばかり言うのは諦めが早すぎる気がしてきました。

 

そうなんです。「眠れる人材」を有効活用することで、イノベーションを生みやすい効果もあります。それを考えるきっかけをくれたのが私の母でした。母は、専業主婦として5人の子どもを育て、48歳でドラックストアを起業しました。彼女は山陰地方でトップクラスの小売業に成長させます。小売りのノウハウがあったわけではありません。ライバル会社の男性経営者には無い、徹底的な主婦目線で店づくりをしていったことが成功のカギでした。

 

このように、今まで参加してこなかった、女性や、外国人、若者などの異なる価値化を持った人を重要なポストで登用することは、イノベーションを生むことになります。

 

日本でも少しずつ女性を管理職に登用しようとしていますが、現段階ではマジョリティのおじさんたちに迎合するような人ばかり選ばれがちです。株式会社プロノバ代表取締役の岡島悦子さんが「チャック女子」という言葉を使っているように、見た目は女性だけれども、チャックを下すと中から男性があらわれる。その結果、「ダサピンク」のような商品がいまだにつくられ、続けています。これではイノベーションとはいえません。

 

 

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――これから「眠れる人材」を生かすためにはどのような政策をする必要があるのでしょうか。

 

労働市場の流動性を促進する必要があります。政府は失業率を低くすることを目標にしていますが、日本の失業率はそれほど高いわけではありません。

 

それよりも問題なのは再チャレンジできないことでしょう。女性は出産や育児で仕事から離れると再就職が難しい。中高年は窓際族になったら自分の力を生かせるチャンスがない。若者は就職活動に失敗すると、正規職員として活躍しづらい。このような状況を打破するためには、雇用の流動性を高めることが必要でしょう。

 

セカンドチャンスがないと、起業をし、イノベーションを生む人も少なくなります。なんといっても日本は企業家が少ない国です。いい大学を出ても、大手企業に勤める安定志向の人が多い。「日本人にやる気がないんだ!」と言いたいわけではなく、中途採用の仕組みが整っていないとチャレンジすることをためらうのは当たり前です。

 

私がアメリカの大学に行って驚いたのは、優秀な学生ほど大学卒業後に起業していることでした。しかも、けっこう失敗するんです。3回倒産して、4回目で当たる、それで上出来な世界です。アメリカ社会では失敗しても負の遺産になりません。

 

ですから、「起業したのですが倒産してしまったので、御社に入社したいです」と中途面接で言ってもなんの問題もありません。むしろ、ボーナスポイントです。日本だとマイナスポイントになってしまいますよね。やはりそんな環境でイノベーションをうむのは難しいでしょう。

 

日本ほどセカンドチャンスをつかむための人的資本に恵まれている国もないのに、今は非常にもったいない状況です。そして、人口減少社会だからこそ、今までの働き方を大胆に変えることができると思います。『武器としての人口減社会』が、日本がこれから大きなチャンスをつかむための一助になれば幸いです。

 

 

 

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