「社会調査」をやってみたいと思ったら――面白くてマネしたくなる『最強の社会調査入門』編著者に聞く

▶シノドスの電子メールマガジン「αシノドス」

https://synodos.jp/a-synodos

▶真の教養を身に着ける「シノドス・サークル」

https://synodos.jp/article/20937

なにをもって「社会学」となるのか

 

――テーマが決まったとして、単純に「質的調査」と言っても、「聞く」「やる」「行く」「読む」と様々な方法がありますよね。どの方法をどんな基準で選べばいいのでしょうか?

 

朴 ううん、どうでしょう。まずテーマが決まって、次に調査方法を考えよう、なんてことは実際のところ、なかなか想像しづらいです。 この本に載っている人たちの調査方法は、どれも、テーマ(問題意識や興味・関心)と無関係ではありませんよね。

 

たとえば、私は、自分の親族に聞き取りをすることから調査をスタートさせていますし、東園子さんは、まずは自分自身が宝塚歌劇のファンであり、ご自身がすでに「好きなもの」「どっぷりと浸かっているもの」を対象に調査をされています。こんなふうに、すでにいま自分が置かれた状況を前提として、そこから調査を始める人もいます。

 

また、「ホステスの仕事」に関心をもち、調査のためにみずからホステスになってしまった松田さおりさんや、大阪は岸和田の「だんじり祭り」に関心をもち、実際に祭りに参加して地車をひいてみることにした有本尚央さん、「高齢者介護を担う家族」に関心をもち、「家族会」と呼ばれるセルフヘルプグループに参加することにした木下衆さんなどのように、興味のある場所や人を見つけ、一定程度目的をもってそこへ行く人もいます。

 

アルビノと呼ばれる遺伝性疾患の当事者である矢吹康夫さんは、ご自身が日本アルビニズムネットワーク(JAN)というコミュニティをつくった人です。このなかで、個人化され、社会的な文脈になかなか位置づけられてこなかった当事者の「あるある」を聞き取りました。このように、調査する場所や人のつながりを自分で作ってしまう人もいます。

 

あるいは、興味の対象を絞り込んでから、調査、とくに文字資料に特化した調査をすることもあるでしょう。牧野智和さんであれば、雑誌記事、ビジネス書、実用書。小宮友根さんであれば、公文書、とくに刑事裁判の判決文です。これを「読む」ことを通して、わたしたちがどんなふうにして社会を経験し、理解しているのかを読み解こうとします。

 

全員に共通しているのは、テーマと方法とが切り離されていないということです。何を知りたいかということと、どうやってそれを知ることができるのかということは、同じ1つのことではないかと思います。

 

もちろん、まず「方法」を先に決めてから、そのあとに「問い」を探すような状況も、もしかするとあり得るかもしれません。

 

インタビューしてみたい!でも何を? フィールドワークやってみたい!でもどこに? という状況ですね。大学で社会調査の実習をするときも、そうなるかもしれません。この本の場合ですと、平井秀幸さんの、刑務所での調査のケースが参考になるでしょう。国家施設である刑務所での調査は、矯正局の協力なしには実現できませんが、平井さんたちは、当局からの提案・リクエストによって、先に対象も方法もほぼ限定されているなかで調査をおこなう必要がありました。これは、たとえば大学生が、ゼミや実習のなかで調査をおこなう際に、教員のほうからフィールドや方法を限定され、なおかつグループで調査を実施する必要がある場合にも参考になると思います。

 

私自身も「インタビューしてみたい(してこないといけない)!でも誰に?何を?」という状態からテーマを探しました。私が一番困ったのは、自分が何を知りたいのかよくわからなかったことです。そういう時は「私はなぜこの対象を面白いと思うのだろう?」と考えると、自分の知りたいことが何なのかがわかりやすくなったような気がします。

 

ですので、私からの回答は「テーマと方法は同じものなので、テーマが見つかれば大体の場合に方法も見つかる。方法だけ見つかってテーマがわからない時は「私はこの対象(人・場所・物事・やり取り)の何に興味を惹かれているのだろう?」と考えるといいかもしれない、というものです。

 

 

――「ホステスをすること」から「会議で紙を配ること」まで、様々なテーマがあり、調査方法も多種多様です。なにをもって「社会学」になるのでしょうか? 共通しているものはなんですか?

 

秋谷 社会学はその名のとおり「社会」を研究対象とする学問分野です。しかし、「社会」という概念はたいへん多義的なものですから、「社会を研究対象とするのが社会学だよ」というだけでは十分に説明できているとは思われないでしょう。そこで、「秩序」と「規範」という2つのキーワードを用いて説明してみたいと思います。

 

まず「秩序」とはなにか。ここではさしあたって、「なにをすることが適切なのかを知っている状態」のことである、としましょう。ここで言う「適切」とは、「他人からとがめられないようなやりかた」とでもしておきましょうか。

 

一方で、わたしたち一人ひとりが「ここではこうするのが適切だ」「これはこう理解するのが適切だ」というふうに、自分が「適切」だと思っていることが、それ以外の人びとにもつねに同じように共有されているとはかぎりませんよね。

 

実際のところ、わたしたちの日常生活には、他者も自分と同じ「適切さ」の基準を持っているということを前提として振る舞った結果、どうにもギクシャクしてしまったり、にもかかわらず、その場その場でなんとかつじつま合わせをしようとしたり、ときにそれもうまくいかずトラブルになったり……といったことが無数にあるのではないでしょうか。

 

このような無数の他者との相互のやりとりをじっくり見ていくと、わたしと他者のあいだで「適切であること」とはどのようなことなのか、ということが立ち現れてくるわけです。これを「規範」と呼びます。そして、このような「規範」が成立している状態をもって、「秩序だっている」と言います。

 

では、元の質問に戻りましょう。なにをもって「社会学」となるのか。

 

それは、ここまでで述べたような「秩序」と「規範」の存在と、「わたしたちが実際に、あたりまえのようにやっていること」との結びつきを記述することを通して、そのありさまを明らかにすることだと言えます。

 

「秩序」と「規範」を見出しうる場面や状況は、それこそ人間が活動するところであればどこにでも見出しうるものです。それは、調査の対象になっている人たちにとっての「ふつう」がどんなものなのか、どんなふうに成り立っているのかに注目することによってそれが可能になることが多いです。

 

「会議の場で紙を配る」というおこないが、どんなふうであれば「いつもの感じ」にスムーズにいくのか、また、「いつもと違ってしまう」のか。あるいは、ホステスが、「男性客からのハラスメントをうまくあしらう」とき、どんなやりかたであれば「うまくいっている」のか。

 

このように、「会議で紙を配る」という極めてトリヴィアルなことと「ホステスとして働くこと」。一見かけ離れたシチュエーションではありながら、じつは、「秩序」と「規範」が成立している場面を見出すことができるという意味では共通しています。

 

このように、「秩序」と「規範」が見いだすことのできる場面や状況であればなんでも「社会学」になりうるのですから、結果的に、社会学が研究の「対象」とするものは、とてつもなく多様になります。このように、社会学研究の対象フィールドの多様さもあわせて示したいということも、本書を作る際の目的のひとつでした。

 

ちなみに、今は日本社会学会──日本国内でもっとも大きな社会学の学会だと言えます──の大会開催プログラムは、すぐにネットで見ることができます。ご関心あればぜひアクセスしてみてください。社会学者が実際に取り組んでいる問いや研究対象の幅広さが実感できるかと思います。

 

 

(編著者集合写真:左から木下氏、秋谷氏、前田氏、朴氏)

(編著者集合写真:左から木下氏、秋谷氏、前田氏、朴氏)

 

 

町に出るなら、この書を持って

 

――どのような人にこの本を読んで欲しいですか? おすすめの読み方はありますか?

 

木下 この本は、「ちゃんと社会調査がしたいけど、どうしたら良いのか分からなくなってしまった人」に読んで欲しいと思って作りました。ただ、そうした人だけでなく、「人文社会科学系の本が好きな読書家」にも、面白く読んでもらえる本だと思うんですよ。

 

この本の面白いところは、プロのフィールドワーカーたちが、自分達の仕事の進め方を振り返った、ある種のドキュメンタリーとして成立してる点にあります。この本には、学術論文ができるまで、調査が成功するまでのプロセスが書かれている。だけどそれって、できあがった論文には書かれない、これまでは秘密だった内容なんです。だから、集まってきた原稿を読んでいても、各章が読み物として、普通に面白いんですよ。

 

ただ、この本は面白いだけじゃありません。「ちゃんと社会調査がしたいけど、どうしたら良いのか分からなくなった」ときに、この本は誰よりも、力を貸してくれます。例えば、「こう進めていけば良いんじゃない?」と背中を押してくれたり、あるいは逆に「そっちに進むとヤバいぞ!」と踏みとどまらせてくれたり、そんな最強のパートナーになってくれるんです。私たちが分身してみなさんのところに飛んでいくことはできませんが、本なら増刷できますからね。

 

前田さんも言っていたように、質的調査って「いきなりはじめられる」分、はじめた後にどう進めばよいのか、迷ってしまうことが多いんですよ。そうなると、せっかく始めた調査が面白くなくなったり、自信がなくなったりする。だけどそういう状況って、ちょっとしたアドバイスで変わりうる。

 

だから私たちは、この本を読むときに「拾い読みのススメ」をしています。前田さんや朴さんも言っていたことですが、読者のみなさんには、困ったときに、関連しそうな箇所から読んでもらえれば良いと思っています。ちょっとしたことで、調査が面白くて良いものになり、自信が湧いてくる。

 

この本を調査のときに持って出てもらえれば、きっと助けてくれます。私たちはこれを、「町に出るなら、この書を持って」と表現しています。幸い、ソフトカバーだから片手で楽に持てるんですよ。だから、好きなときに、好きな場所で、好きな章から拾い読みして下さい。

 

それと読むときには、ぜひこの光り輝く表紙を見せびらかしながら読んでもらいたいと思っています。そうすれば周りの人は、「あ、この人には最強の味方がついているんだな」と思ってくれるはずです。

 

私たちはとにかく、色んな人にこの本を読んで、最強になって欲しいと思っています。だから、表紙もド派手にしたし、特設サイトを作って執筆陣の論文へのリンクも一覧にしました。そして、何らかの障害を理由に紙媒体の本を読みにくい方のために、ナカニシヤ出版初の試みとして、テキストデータ引換券もつけました。

 

この一冊の本を通じ、より多くの方が社会学の、特に質的調査の面白さと意義に触れていただけると、幸せです。なんてったって、最強の入門書ですから。

 

 

AWS Access Key ID: AKIAJSA5SEKND2GVG7TA. You are submitting requests too quickly. Please retry your requests at a slower rate.

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

1 2
シノドス国際社会動向研究所

vol.267 

・堅田香緒里「ベーシック・インカムとジェンダー」
・有馬斉「安楽死と尊厳死」

・山本章子「誤解だらけの日米地位協定」
・桜井啓太「こうすれば日本の貧困対策はよくなる――貧困を測定して公表する」
・福原正人「ウォルツァー政治理論の全体像――価値多元論を手がかりとして」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(11)――シンクタンク人生から思うこと」
・杉原里美「掃除で、美しい日本人の心を育てる?」