日本はいかに死んできたのか

緊急地震速報のチャイム音の作り手・伊福部達。そしてその叔父にあたり「ゴジラ」の効果音を手掛けた作曲家・伊福部昭。彼は第二次世界大戦の勝利のために、科学研究に携わり、放射線に被曝していた ―― 『国の死に方』という不気味なタイトルがついている本書は、「ゴジラ」から保険制度、鎌倉時代から現代、そしてナチス・ドイツやソ連など、縦横無尽に国家が自壊していく様子を描いていく。そこで描かれるさまざまな時代の国家は、現代日本のありさまにそっくりであった。『国の死に方』はどのようにして執筆されたのか。現代の日本は歴史を繰り返しつつあるのか。著者・片山杜秀氏にインタビューを行った。(聞き手・構成 / 金子昂)

 

 

いま書けるものを書き残す

 

―― 最初に本書をお書きになった経緯をお聞かせください。

 

本書は2011年6月号の『新潮45』に単発で掲載した「<原爆の子>と<原発の子>」(「民族のトラウマ」と改題されて収録)と、それにつづく「国の死に方」という連載をまとめたものです。そもそも書籍化が前提ではなかったし、書き始めたころは地震が起きた直後で、連載が始まったときもずっとつづけてまとめるという発想はあまりなかったですね。つづいているうちに書けることは書く。雑誌なんていつなくなるともわからないし。そんなつもりで書いていました。

 

3月中旬・下旬は、このまま原発が爆発して、大勢の方が亡くならないにしても、東京も汚染地域となって住めなくなるんじゃないかとか、人々がパニックになって騒乱状態になるとか、そういったことをリアルに想像していました。信ずるに足る情報がなかなかなかったし、最悪のことを考えざるをえない。3月に書いたり喋ったりしたものは日本への遺言とか辞世の言葉みたいなのばっかりで……。

 

『新潮45』の6月号となるとお話をいただいたのは4月でしょうか。そのころは明日をも知れぬ感じではもうなかったけれども、復旧復興モードというよりは戦時の感覚ですね。「今日もどこどこで負け戦」みたいな。「でも大本営発表でごまかしているので、まあ、まだ負けないかな」「じつはあとで負けてしましたと言われるんじゃないか」とか。とても中長期的にものを考える段階ではない。雑誌に連載して本にするような発想はまったくありませんでした。ですから書けるときに書いておこうと。出版社もどうなるかわからないだろう。全何回の連載で、どのようにまとめるかなんて見通しを作ることなんて無意味だと。次回もあれば次回も書く。それだけだ。そういう感じでした。

 

 

―― その後、事態は少しずつ変わっていきましたが、心構えに変化はありましたか?

 

ええ、その後だんだん、少なくとも大出版社がすぐなくなるとか日本の社会秩序がすぐ崩れるという事態ではないととりあえず思えてきたので、「今回の掲載で連載が終わるかもしれない」という心構えも弱まっていきました。

 

とはいえ何年、何十年というスパンで考えると、この問題は日本の社会や経済、そして一人ひとりの心の問題にまで大きな負担になることはますます明らかになっていった。原発問題はいまだ収束していませんし、次の大地震は明日か十年後かちっともわかりませんしね。

 

少なくとも地震列島日本の地震発生の頻度が桁違いに上がったという、とんでもない時代が生きている時期にたまたま当たってしまったのですから堪らないですよ。破滅的な可能性をはらんだ危険な状況はこれからもつづいて行くでしょう。「国の死に方」というのは連載当初にわたくしが自分でつけて、そのまま書名にもなってしまいましたが、大袈裟すぎたとは必ずしも思っていません。むしろそのくらいのネーミングでは追いつかないくらいかなあと。

 

そもそも資本主義国として成熟しきり、さらには高齢化も迎え、右肩下がりとなっていた日本が、大震災と原発事故によって処置なしのところまで追いつめられてしまったわけでしょう。まさに未曾有の危機ではないですか。そんな日本の今後を考えるときには、たとえば福島原発の今日明日の危機に切り込むような本もけっこうと思いますけれども、そういう時事に密着したものはすぐ新しい情報に乗り越えられてしまうでしょう。かといって福島なら福島の問題を歴史として突き放してみるのは早すぎるというか無理なわけですよね、いまの出来事ですから。となりますと、いまから想い出される過去を参考にしてもらうくらいしか、少なくともわたくしにはやれないだろうなあと。時事ネタでなければ本の寿命も少しのびるんじゃないかと思っています。

 

 

「政治主導」を掲げていた民主党が、ナチス・ドイツやソ連に重なった

 

―― 本書では、ナチス・ドイツやソ連の崩壊、鎌倉幕府から大日本帝国までの日本が自壊していく様子などが描かれていますが、原発事故後になぜこのようなトピックを選んでお書きになられたのでしょうか?

 

原発事故の報道を見聞きしていますと、当時の民主党政権の動きが20世紀のいろんな出来事を想い出させてくれたんですね。

 

「政治主導」や権力の集中を掲げていた民主党政権は、地震の前からずっと混乱状態を呈していて、地震と津波と原発事故で混乱に拍車がかかって、これはもう「こんな時代に直面するとは!」と、大いに驚いてしまったわけなんですよ。危機に直面する日本の政治のすがたかたちが、かつての大日本帝国やナチス・ドイツやソ連の壊れ方と重なり合うように見えてきた。

 

権力を集中させたくてもタテ割りがきつくてうまくいかない大日本帝国。わざと下部に権力抗争を起こさせて独裁者の安泰をはかろうとするヒトラーのシステム。権力を集中させて下をがんじがらめにして結局全部が停止してしまったソ連のシステム。大日本帝国とナチスとソ連ではえらい違いだと思うんだけれども、それぞれがどこかいまの日本と似ている。ソ連の硬直化の果てに起きたのはチェルノブイリ事故だったとか、あの事故の報道が出たとき、駿河台の坂から天を仰いで、これでもう世界もダメかもしれないなあと、呆然としたこととか。それまでの知識や経験のもろもろがみんな目の前の現実にダブってくる。そういう感覚をとくに菅政権の初期対応のドタバタ、大本営発表のような枝野官房長官の会見、ほかのたくさんのことから、もう連想回路みたいなのができちゃいましてね。

 

 

katayama

 

 

 

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