繊細で微妙な「地位の差」を捉える

「靴ひもがほどけても、足を止めてくれなかった」

 

―― スクールカーストというのは、宮台真司さんが言う「島宇宙」とは違うものなんですか?

 

宮台真司さんは、さまざまな仲良しグループが存在し、それぞれが独立していることを「島宇宙」と呼んでいます。それらはお互い干渉しあうことがなく、力関係が対等だと位置づけられています。しかし、「スクールカースト」は、フラットな関係である「島宇宙」とは違い、地位の差が存在します。

 

そして、今回の研究で、スクールカーストが構造的な問題であることも浮かびあがってきました。自然に上位にいた人気者の人もいたと思うんですが、努力して、カーストをのぼりつめた人たちは「上位層」なりの役割を演じることに重荷を感じていました。自分の地位を維持するために、下位の人をしかたなく「いじら」なければいけない。そうなると、個人の問題ではなく、構造的な問題だといえるでしょう。

 

 

―― 「いじめ」と「スクールカースト」はなにが違うのですか。

 

最近のいじめの多くが、微妙なラインでできていて。みんな上手いんですよね。「いじられ」なのか、「いじめ」なのか、区別がつかないラインで攻撃する。「いじられて、オイシイじゃん」の一言で「いじめ」はなかったことになってしまうんです。でも、いじめのラインって人それぞれで、同じことをされても「いじめ」と思う人もいれば、そう思わない人もいます。

 

「めっちゃ笑いを取ってやった!」と喜んでいる人もいれば、「笑われてしまった」と傷つく人もいて、そのラインも曖昧で。結局、本人が「いじめられている」と認識するかどうかなんです。しかも、「見下されている」と感じていても、そこから、「いじめられている」と声をあげるまでには勇気がいると思うんです。

 

殴る蹴るといった暴力が絡むものであれば、しかるべき場所に相談したり、通報したり、できることが沢山あります。ですが、今のいじめは分かりやすいものばかりではありません。だからこそ、「いじめが何か」という定義を考えるのではなく、そもそもなぜ、「いじられる」と「いじる」という構図ができてしまうのか。そのことにスポットを当てるべきなのではと思います。

 

インタビューをしたある女の子が、「中学の頃、自分の靴ひもがほどけたときに、一緒に歩いていた子たちが足を止めてくれなかった。でも、他の子の靴ひもがほどけたときはみんながぴたっと止まって待っていた。」という経験を話してくれました。彼女は別にいじめられているわけでもないし、そんな認識もないんですけど、「見下されている」とはその当時感じていたようです。

 

スクールカーストってそういうことだよ、とぼくは思いました。この話はとても些細なことのように聞こえます。でも、中学の頃の話のはずなのに、彼女はそれを今でも思い出して苦しくなるそうです。自尊感情に影響しているといえます。

 

そんな小さなことが積み重なって来たときに、確固たる上下の関係ができて、「コイツにはなにをしても許される」と、どんどん行為がエスカレートしていく可能性があるのかもしれません。

 

 

―― 権力の上位と下位を分ける要因はなんなのでしょうか。

 

計量分析した結果、一番関連が強かったのは容姿についての自己評価でした。それと、学力、コミュニケーション能力、自分の意見を押し通す能力などが関係ありました。

 

でも、容姿って難しくて。とくに、女子は容姿で左右される部分が大きかったのですが、女子の場合は化粧や髪型で変わることができるじゃないですか。女子の場合の「容姿」はその意味合いが強いと思うんです。

 

かわいいからスクールカーストが高いというよりも、スクールカーストが高いからこそ、派手目の化粧をしてもいいし、髪を染めてもいい。先生に怒られても「いいじゃんこのくらい、自毛です~」というやりとりができるんじゃないかとか。「意見を押し通すこと」ができるからこそ、なにをやっても許されるのかもしれません。

 

かといって、スクールカーストが下の子が急に意見を押し通すと、「空気が読めない」と言われてしまうので、「意見を押し通す」ということが要因なのか、現時点では、スクールカーストができあがった後に聞いているんで、発生原因については、まだよくわかりません。

 

できあがる過程って、すごく繊細で微妙な感じだと思うんですよ。クラス替えとかめちゃめちゃ緊張するじゃないですか。だれと友だちになるかって、死活問題だったと思うんです。自分の体験ですが、すごく周りを見ていました。

 

 

いろんな軸があっていい

 

―― 鈴木さん個人は、スクールカーストについてどのように感じていますか。

 

完全に、それがなくなることはないと思っています。でも、カーストの軸が変わればいいなと思います。

 

研究の結果を見ると、どの場面でも、上位グループが仕切っていることがわかりました。サッカーの授業のときに、サッカーが上手い生徒が仕切るのは良いと思うんです。でも、数学の時間は数学の得意な人が仕切る、文化祭の看板を作るなら、絵の上手い人が仕切ればいいと思うんです。でも、一貫して同じグループが仕切ってしまうことが問題だと思います。

 

その軸が拡散していけばいいなと。やっぱり、そうでないと学校はつまんないだろうと思いますし。自分が下にいかないために、いろんな戦略を行使したりして、それは必要のない努力なのでは、と思うんです。

 

指導教員の本田先生は「わたしはコミュニケーション能力なかったから」とよく言うんですけど、先生を見ていても、コミュニケーション能力が低いとは思わなくて。むしろ学生たちとうまくコミュニケーションがとれていると思いますし、人気もあります。

 

過去にカーストが上位だったり、下位だったりしても、大学に入れば見分けがつかなくて。むしろ、高校のときに「コミュニケーション能力」の差ってなかったんじゃないかってぼくは感じるんです。発揮できる場所が制限されていただけで、高校時代に友だちが一人もいなかったと言う人でも、接しやすい人も沢山います。

 

それぞれの人が、本当は発揮できるものを持っているのに、なぜか発生した「スクールカースト」に縛られていて。だとしたら、そんな状態って、望ましくないですよね。みんなが、「あいつはこれを言ってもいいキャラだけど、オレは駄目だ」とか考えずに、素直に面白いことを言える環境だったらいいですよね。

 

 

今悩んでいる君にも手に取ってほしい

 

―― 本を出版してどんな反響がありましたか。

 

よくあった感想は、「学術的にスポットを当てていて面白い」「調査対象が少ないよね」「自分の経験が昇華されたようでうれしい」というものでした。面白いなと思ったのは、「(教室内カーストは)権力で成り立っているというよりも、下位の人の過剰な謙遜で成り立っている」という、Twitterでの大学生のつぶやきです。同じデータを見ても、いろんな意見があるんだと感じましたね。

 

後輩からは、「こういう新しいことを研究でやっていいんですね」と言われました。なので、後輩たちに「新しいことやってもいいんだ」とか、「本当に気になったことを研究してもいいんだ」と思ってもらえてうれしいですね。

 

 

―― この本をだれに読んで欲しいでしょうか。

 

元は論文なので、少し難しいかもしれませんが、中高生から読めるように噛み砕いて書いたつもりです。

 

書き直して、すごく勉強になりましたね。論文の場合は言葉や概念を、たとえば、そのまま「島宇宙」って括って引用していれば成り立ってしまう面があります。ですが、自分の頭の中の中学生に「島宇宙」って概念を言ってみても、「は?なにそれ?」と言われてしまうんで(笑)。何度も噛み砕いて簡単なことばで説明する作業で、自分の中で意外と理解していない部分を発見することができました。

 

とくに、先行研究の章は中高生にとっては難解かもしれませんね。ですが、研究者の方や学術研究の対象としても読んで欲しかったので、欲張った結果こんなかたちになりました。

 

学生や、研究者だけではなく、興味がある方全員に、手に取ってもらえればいいですね。不思議に思っている人や居酒屋で話し足りない人とかにも読んでもらって、「ああこうだったのか」とか「これは違うんじゃないか」と、考えるきっかけになってもらえればうれしいですね。

 

 

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