「株安でアベノミクスは頓挫した」と、1割の可能性にBETする危ない橋を渡る人たち

黒田・岩田緩和の波及経路

 

―― マネタリーベース増加の予想インフレ率への波及経路の話に戻りますが……、恐らくですね、それは、予想インフレ率という数字が何だかフワッとしたものに感じられて、予想なんてうつろいやすいものだから、すぐに方向性なんて変化してしまうものなのではないか? と思っている人がいるということではないかと思います。とくに最近は株価が下がってきているのにからめて、アベノミクスは頓挫したと言っている人もいるようです。

 

たしかに予想はうつろいやすいですよ。でも上のグラフを見ればわかる通り、相関係数は0.91です。これは、日本でマネタリーベースを増やせば、およそ9割方は予想インフレ率も6ヶ月後には上昇するということが示されているものです。これは、日本の過去でも、リーマン・ショック後の欧米でも見られた現象ですから、これをどうやったら否定できるのかわたしにはわかりません。

 

そして予想インフレ率が上がれば、実質金利は即座に下がります。この実質金利の下落こそが、決定的にその後の経済動向に対して重要なのです。それがなぜ重要かを10年前から言っていたのがバーナンキで、『リフレが正しい。』(中経出版)の第1章の講演「インフレ率の低下が好ましくない理由」で詳しく述べていることです。

 

なぜ予想インフレ率を上げ、そのことによって実質金利を低下させることが重要かは、次の図を見てもらっても簡単にわかります。上のグラフと、下の図をあわせて見れば、今回の株安なんかで狼狽える必要がないことがよくわかります。

 

 

takahashi02

 

 

上の図は、マネタリーベースの増加を起点とし、マネーストック(=市場に流通しているマネーの総量)が増加し、その過程で、どんな経路で、約2年をかけてGDPが増え、失業率が下がり、賃金が上昇し、インフレ率が上昇するのかを示した概念図 ―― いわば波及経路の図です。

 

端的に言えば、その約2年~のあいだにマネーストックが増加する過程で起こることは、次のようなことです。

 

 

1.日銀がマネタリーベースを増やす

2.予想インフレ率が約半年かけて徐々に上昇し、実質金利が下がる

3.消費と投資が徐々に増える

4.外為市場で円安が起こり、徐々に輸出が増える

5.約2年~をかけて、徐々にGDPが増え、失業率が下がり、賃金が上がり、インフレ率も上昇する。その過程で株価も上がる。

 

 

これら1~5までの動きは、過去40年間のデータから見れば、9割方はだいたい説明できると言えることです。マネタリーベースが増えると、上のような経路を通して約2年~をかけて徐々にマネーストックが増加し、結果的に徐々にGDPが増え、失業率も下がり、賃金も上昇し、インフレ率も上昇するということも、過去40年間のデータを分析すれば、9割方もっともらしいと言えることです。

 

 

1割の失敗に賭ける ――危ない橋を渡る―― 人びと

 

ここで重要なことは、上の図で、「株価の上昇がもたらす消費と投資の増加効果」を示す矢印が、緑の“点線”で描かれているということです。この部分が、なぜ“実線”ではなく、“点線”で描かれているのかは、それはじつは、「マネタリーベースを増やしたからと言って、株価が上がるかどうかは5割方しか説明できないから」です。

 

「実質金利が下がると株価が上がる」ということも、普通の株価形成理論から言えることですが、この関係のみは、「実質金利と1年後のGDPで5割方くらいは説明できる(=予想できる)ことになっているが、残りの5割は、要因はいろいろとあって、何が株価を決めているのかはわからない」ため、5割方しかしか言えないことというわけです。

 

今回の株安の動きを受けて、「アベノミクスは頓挫した」なんてことを言い出してしまっている人がいることはわたしもよく承知しています。こういった人たちは、いわば、「相関係数で約9割なので、アベノミクスの第一の矢(=金融緩和)はまず成功すると言われているのに、あえて“1割”のあまりあり得ない方向にBETしている(=賭けている)ようなもの」なのです。わたしには、なぜそんな危ない橋を渡る人が大勢いるのかまったく理解できません。

 

実際、株価なんてランダムウォークする(=予測不可能な動きをする)ものなので、いつ、どこまで株価が上がって、いつ、どの時点で下がるかなんて説明することはできません。それなのに現在の株安の動きを受けて、「アベノミクスは頓挫した」なんて言う人がいるとしたら、その人が、何を根拠として株価の先行きを説明しているのかをよーく見てみるといいでしょう。実際は、5割方しか説明できないものを説明しようとしているわけですから、ほとんどの場合言いっぱなしで、論拠なんてひとつも語られていない場合が多いはずです。

 

その典型が、5月24日と5月31日の2回に分けて東洋経済オンライン上に掲載された、同志社大学大学院教授の浜矩子さんのインタビューです。

 

 

●「アホノミクス」が5つの悲劇を引き起こす!――浜矩子がアベノミクスに反対する理由

http://toyokeizai.net/articles/-/14072

 

●株価急落で露呈した妖怪アベノミクスの本性――浜矩子がアベノミクスに反対する理由(その2)

http://toyokeizai.net/articles/-/14155

 

 

浜さんは、5月24日時点で次のように述べ、株高がまだまだ続くということをほのめかしていました。

 

 

「この金融緩和の結果、株や不動産などの資産、すなわち「カネの世界」だけがバブルに沸き、わたしたち庶民の毎日の生活に関係する「モノの世界」ではデフレが続くという、本来ならば起こりえないはずのことが、日本経済で起こってしまうのです。」

 

 

にも関わらず、今回の株安の動きを受けて、その7日後に掲載されたインタビューのなかですでに、次のようなかたちで、株価のランダムウォークに乗じるかたちで、アベノミクスの終わりの始まりを示唆しているのです。

 

 

「来るべきものが、わたしでさえ予想外に早く来たという感じですね。当然の成り行きだったと思います。ここまで株価を押し上げて来た買い手筋の行動は、要するに「売るため」の買いだった。要は、買った瞬間から売るタイミングと売る材料を探していたわけです。」

 

 

この株安に乗じて、1割方の少ない可能性に、アベノミクス第一の矢の失敗に高らかとBETしている典型的な人物です。また、今回の株安で、1割方のあまり考えられないほうにBETした人は、デフレ派の有名人をはじめ、他にも大勢いるようです。

 

それにアベノミクスの目標は実体経済をよくすることで、株価の上げはあくまで副産物です。きちんとアベノミクスを理解していないのがよくわかります。

 

 

 

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