あなたの盲点がここにある

これも含めてのアブディンだから

 

―― 書いてみて周りの反応はどうでしたか。

 

兄からは「良かったね」という言葉をもらいました。10年ほど前から、ずっと「本を書け」と言い続けていたので。ただ、これからだとおもうんです。色んな人に読んでもらって、色んな感想が聞けるのを楽しみにしています。

 

批判をうけることもありますし、おもしろかったよと言われることもあります。よくあんな話が本になったな、という人もいます(笑)。みんなが「面白かった」と言うならそこまで刺激的なものでは無かったということだとおもうので、どんな反応であれ、聞かせてもらえるのは嬉しいですね。

 

 

―― イスラム教では飲酒は禁じられているとのことですが、過去の飲酒の話は赤裸々に書かれていますね。

 

書くかどうか、非常に迷ったんですよ。最初は、書いても守りに入ったような書き方をしていたわけです。「本当は楽しくないけれど、仕方なく飲んでた」って。でも、高野さんに「アブディンあの時すごい楽しそうだったよな」と言われて(笑)。今はやめたし、いいんじゃないかな。これも含めてのアブディンだから。

 

日本でお酒を飲まないと、孤立するという一面がある。それでなくてもホームシックに悩まされたりしているから、罪悪感を感じながらも手を出してしまう。でも、飲んで美味しかったのも事実です(笑)。

 

ムスリムの人達は、同じような葛藤に悩まされることが多いんです。もし、彼らがお酒を飲んでいたとしても、どういう気持ちで飲んでいるのか、日本の皆さんにも分かってもらうきっかけになるんじゃないかな。

 

 

―― 奥さんと結婚される時、過去の飲酒を隠していたとのことでしたが、本に書くことで、奥さんにバレてしまうことは恐れなかったんでしょうか。

 

ぼくは妻と出会う2年前に、ダラダラとした自分の生活をあらためたくて、お酒をやめました。彼女は出会う前の過去についてほじくったりはしない人です。でも、知らないうちにバレていたんですよね。引越しの時に昔の写真の整理をしていて、ぼくがビールを飲んでる写真を見つけてしまったみたいで。「それは、ノンアルコールビールですよ」とごまかしたら、「ノンアルコールビールの缶じゃないよ」と言われてしまって(笑)。「知っていたのになんで言わなかったの」と聞くと、「昔の話でしょ」と言われて、気が楽になりましたよ。

 

 

視覚障害は情報障害である

 

―― 現在、大学院で紛争問題を研究されているとのことですが、スーダンの視覚障害者の支援も行っているようですね。

 

5年前に、スーダン障害者教育支援の会というNPOを立ち上げました。英語で言うと「Committee of Assisting and Promoting Education for Disabled in Sudan」。長ったらしいので、略してキャベッジ(CAPEDS)と言います。キャベツじゃないですよ。でもキャベツと似ているところがあって、いくら剥いても芯がしっかりしている(笑)。

 

視覚障害は情報障害であると私はおもっています。学校では視覚障害者は不利な立場に置かれます。スーダンには視覚障害者向けの学校が少ないので、普通の学校で勉強するケースが多い。その上で、授業での配慮や点字の教材があれば、子ども達の将来が変わってくるわけです。

 

活動としては、主に、盲学校に通えない子どもたちに点字を教えたり、すべての教材を電子化し、点字で出力できる点字プリンターを日本の財団の支援を受けて贈ったりしています。これまで80名程の視覚障害を持った学生にパソコンの基礎的な使い方を教えたり、スーダン最古の高等教育機関であるハルツーム大学に、アラビア語の音声ソフトが入ったパソコンを設置したりしました。

 

情報障害をできるだけとっぱらうための努力をしています。情報にアクセスできないのは、資本にアクセスできないのと一緒です。情報に自由にアクセスして、自分自身で将来の可能性を開けるよう、環境改善を行っています。

 

ぼくが小さい時には、点字の学習や読み書きをする機会がありませんでした。それが、日本で点字を学び、いろいろな本を読んだり、音声読み上げソフトを使って自分から発信できるようになって、人生が変わったのを実感しました。環境によって、一人の子どもの将来は大きく変わっていきます。あまり背伸びせず、自分のできる範囲で、学業にしわ寄せがいかない形で活動しようとおもっています。と言いつつ、やりだしたらハマってしまって。けっこうな力を割いていますね。

 

スーダンで動きがあってそれが見えると、こっちも勇気づけられるんです。大学院の研究というのはやればやるほど深くなるんだけど、すぐに世の中が動くことって残念ながらまれですよね。もしくは動きがあったとしても、直接は見えてこない。でもNPOの活動は、生活や学力の向上が見えて来るので、やっぱりやっていて楽しいですよね。手ごたえがあります。

 

 

―― スーダンへ強いおもいがあるんですね。

 

それはもちろんありますよ。情勢も気にしています。紛争で戦死した友達も沢山います。政治家がね、自分達の本当に小さな小さなエゴのために国を紛争に導いたり、和平に導いたりしている。国民を苦しめているのは一部の政治家なんです。そこに対して私は怒りを持っているし、研究を通してできるだけ冷静に分析していこうとおもうんです

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.276 

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