非営利組織としての自治体の可能性――『自治体のエネルギー戦略』インタビュー

思い、知恵、巧みさ

 

山下 ISEPの所長である飯田哲也から「大野さんは、ディーゼル規制のときに、まわりから『たいへんなことになるよ』と言われて『たいへんなことをやるんだから、大きな議論にならなくちゃ困るよ』と言っていた」と聞いているのですが、本当のことなんですか?

 

大野 いや、飯田さんがその話を本に書いているのを読んだんだけど、ぼくは覚えてないんですよね(笑)。

 

山下 なるほど(笑)。でも、きっと気持ちとしてはあったのだと思うんですよね。

 

多くの自治体で求められるように問題と解決策を同時にだす方法ではなく、まだ解決策がわからないなかで、問題と方向性を打ち出すというのは革新的なことだったと思っています。

 

大野 そうですよね、ディーゼル車対策をテーマにもう一冊を書かなくちゃいけないと思っているんですけど(笑)。

 

山下 地域の大きな企業の逆鱗にふれないようにするとか、一自治体より管轄区域が大きいエネルギー会社に遠慮するとかして気を使っているうちに、小さな解決案しかできないことが多いと思うんです。

 

大野 もちろん単に激しい議論を仕掛ければいいわけじゃないですよ。たくみにやらないといけない。

 

ぼくは、「思い」と「知恵」と「巧みさ」この三つがないと政策は実現しないと思うんですよね。「思い」だけでは空回りしてしまう。それを政策に昇華するための知恵や知識が必要で、さらにはそれを実現させるためのテクニックも必要となってくる。

 

 

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人材を育成するために必要なこと

 

古屋 そういうスキルをもった人材はどうやって育成すればいいんでしょうか。

 

いろいろな自治体をみてきて気がついたことは、自然エネルギー導入に成功した自治体は、多くの場合、熱意と行動力のあるスタッフがいるところなんですよね。

 

東京都の場合、それがチームで、組織としてやっていくことが当たり前のようになっている。これはすごいことだと思うのですが、組織として動けるようになった理由を教えていただけますか。

 

大野 そうですね、やはりみんなが経験を積んできたからだと思います。でもこういった経験を積めるようになったのはここ10年くらいの流れなんですよ。

 

いまの環境局は、環境保全局と清掃局がルーツなんですが、ぼくが98年に環境保全局に異動してきたとき「大野さん、なんであんなところに行くの? お休みでもするんですか?」って言われちゃったんですよね。そのくらい、なにもしていない局だと思われていたんです。

 

実は環境保全局は美濃部さんが都知事のときに、公害問題で革新的な役割を果たしたんです。ただ、そのあと一度、「環境政策は国並みにやればいい」、という低迷した時代があった。自動車公害の被害者が裁判を起こしたとき、当時の環境保全局の課長さんが被害者団体に「なんでなにもしないんだ!」と言われてもなにも答えられなくて、ただただ糾弾を浴びていたことは忘れもしません。

 

だから「このままじゃいけない」と思っていたんですよ。東京都も最初からなんでもできたわけじゃなくて、一歩一歩いろいろな問題を突破していくなかで鍛えられていったんですよね。だから実践するしかないんじゃないですか。

 

それとも教室でも開きますか(笑)。

 

山下 大事なことだと思いますよ(笑)。

 

われわれも自治体の方々に集まっていただいて、地域の再生可能エネルギー事業を地域の人が活躍するかたちで実践してもらえるよう支援するためのレクチャーをしていきます。

 

 

NGOとNPOとしての地方自治体の育成

 

大野 この本の前半にアメリカの事例を書きましたが、日本とアメリカで違う点は、公共ではない、NGOセクターの役割が非常に大きいところだと思うんですよ。ISEPさんなどは例外的にがんばっていらっしゃると思っていますが、それでもアメリカに比べるとボリュームが全然違う。いくら古屋さんと山下さんが日本中を駆けずり回っても限界があるでしょう。

 

以前サンフランシスコにあるEDF(Environmental Defense Fund)の事務所にいったら、「ここは法律事務所かな?」と思うくらい高級なオフィスだったんですね。話を聞いてみると、スタッフもアイビーリーグのようないい大学をでていて、なんだか環境NGOっぽくない。アメリカのNGOはそれだけ大きくて、社会の構成要素になっている。日本もこの部分をなんとかしないといけないと思うんですよね。

 

あとですね、ぼくは、日本の自治体ってNPOだと思っているんですよ。

 

ぼくが新宿区で課長をやっていたとき、都市計画決定では山手線の下をくぐる(アンダーパス)はずだった都道74号線が、東京都の事業計画では、山手線の上をまたぐ(オーバーパス)ようになっていて、地域で反対運動が起きたことがありました。

 

新宿区にも住民から「なんで急に変えたんだ」と話がきたので東京都に聞いてみたら「具体的な道路設計をしたら、アンダーパスにすると、いまの都市計画決定の範囲を超えて、道路の幅を拡張しないといけないことがわかった。このため、現在の都市計画決定の範囲でできるように、オーバーパスに変えた」と説明をうけたんですね。

 

「本当か?」と思って新宿区の職員に調べてもらったらくぐらせることもできるとわかった。「話が違う」と都の建設局に交渉をしたら、紆余曲折はあったんですが、最終的には当時の都の担当部長が英断されて、当初の都市計画どおり、アンダーパスに戻してくれたんです。

 

住民だけではできないことを非営利の立場でやるという意味では、地方自治体は、NGO(非政府組織)ではないけれども、いわばNPO(非営利組織)なんだと思います。財政が厳しいとはいいますが、職員の数も予算も日本の現在のNGOやNPOに比べれば、ある程度はあるので、ちゃんと使えばできるはずです。

 

山下 なるほど。

 

大野 NGOを育てること、そして地方自治体がマインドをもつことで、中央官僚とは別の代替的な政策決定プロセスが機能すると思います。それは日本社会の政策形成プロセスを革新する大事な要素だと思いますね。

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.275 

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