生活保護の現実はどうなっているんだろう――最後のセーフティーネット・生活保護の意味

近年、繰り返しセンセーショナルに取り上げられるようになった「生活保護」。生活保護受給者を身近に感じない生活を送っている私たちは、どれだけ「生活保護のリアル」を知っているのだろうか? 2013年7月にみわよしこ氏が上梓した『生活保護リアル』は、生活保護受給者のリアルな声と、さまざまな立場で生活保護に携わる人々の声、さらに生活保護の制度面と、生活保護制度を取り巻く全体像を描いている。なぜ、みわ氏はこの本を書いたのか。その思いをうかがった。(聞き手・構成/金子昂)

 

 

世の中の多くの人が知りたがっているであろうことを

 

―― 『生活保護リアル』は、ダイヤモンド・オンラインの連載「生活保護のリアル」がもとになっていますが、この連載のきっかけは、どのようなことだったのでしょうか?

 

後ほど詳しくお話することになるかと思いますが、ダイヤモンド・オンラインさんには最初に災害と障害者の問題についての記事を持ち込んでいるんです。ダイヤモンド・オンラインさんに持ち込んだのは、ビジネスパーソンの方々にこそ、読んでいただきたいと思ったからです。

 

 

「災害に強い町づくりを、過疎の町と障害者たちに学ぶ」

前編

http://diamond.jp/articles/-/14888

後編

http://diamond.jp/articles/-/15024

 

 

並行して、生活保護問題についての企画を、いくつかのビジネス系媒体に持ち込んでいたのですが、あまり乗り気になっていただけなくて。災害と障害者に関する記事を載せていただいたダイヤモンド・オンラインさんなら、この問題も取り上げてくれるのではないかと思い、企画を提案したところ、非常に良い反応をいただきました。それから、前・後編での単発記事としての掲載を前提に取材を始めました。結局、さまざまな偶然が重なった結果、いまも続く長期連載になりました。

 

 

―― 何名くらいの当事者の方に取材されたのでしょうか? また、その中から5名の方を選ばれて本書に収録しているのは、どんな理由があったのでしょうか?

 

正式に取材依頼をした上で取材をさせていただいたのは20名弱なのですが、短くてもお話をうかがったことのある当事者の方は、200名程度になります。立ち話に毛が生えた程度でもお話をうかがったことのある方を含めますと、過去10年ほどの延べ人数で4~500人程度にはなっているかと思います。接触の機会は、さまざまな場所にあります。気がつけば、そして相手が受け入れてくれれば、ですが。

 

本書に収録する際には、なるべく「典型」といえる方に登場いただく方針としました。なぜ生活保護を申請したのか、保護開始後はどのような生活をしているのか。ご登場いただく当事者のお一人が、登場されない何名もの当事者を代表できるように、と考えました。

 

生活保護当事者もさまざまです。不正受給も含めて、とても稀な、センセーショナルで驚くような話題をお持ちの方ではなく、例えば30代の生活保護当事者なら、その「典型」と言えるような方に登場いただくことを意識しました。そして、「原家族に若干の問題があり、さらに社会構造の問題に不運が重なって、資産がなく収入が足りない状態に陥り、生活保護に至る」という多くの方々に見られる経緯を代表できるかどうかという視点から、登場いただく方を選択しました。

 

 

―― 生活保護はこの二年弱、いろいろなかたちで注目を受けました。連載を始められてから、さまざまな反応があったと思いますが、とくにどんなものがありましたか?

 

驚いたのは、誹謗中傷ではなく、「そういうことだったんだ!」という声が多かったことです。私の記事を読んで、ご自分の心の中に真剣な関心があったことに気がつかれた感じの反応が、数多くありました。

 

皆さんきっと、生活保護とその周辺には目を向けるべき問題が数多いことに気がついていらっしゃるんだと思うんです。でも肝心の生活保護当事者の方について知る機会が少ないのですよね。生活保護の受給とはどういうことなのか、当事者の方がどんな日常を送っているのか、どういうお店で買い物をしていて、家の中はどんな様子なのか、どこで何をして息抜きしているのか。当事者の友達がいない限り、こうしたことはなかなか知ることはできないと思います。堂々と「生活保護を受けている」とカミングアウトされる方は少ないですから、たとえ、隣の方が生活保護を受給していても、通常は知ることができません。

 

私自身は障害者であり、障害を持った友達が多いです。そして障害者は、健常者に比べると生活保護の受給率が5、6倍と言われています。ですから私は、生活保護を受給されている方がどういう生活を送っているのかを、比較的よく知っていました。それは、メディアがなかなか報じないことであり、きっと世の中の多くの方が知りたいと思っていることだと思います。

 

ですから先ほどの話に戻りますが、インパクトのあるエピソードは極力書かないようにして、生活保護当事者の「この類型の方は、有利とはいえない人生のスタートを切り、不運が重なり、現在はこういう生活を送っていることが多い」ということが少しでも伝わるように意識しました。

 

 

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一部上場企業の企業研究者からライターへ

 

―― そもそもみわさんはなぜ生活保護について書こうと思われたのでしょうか?

 

これはきっかけがあるようでないといいますか、とても長い、でも自然な流れで行きついたんですね。

 

私は1990年に大学院修士課程を修了しています。この頃はバブルが膨張していた時期で、苦労もなく一部上場の大手メーカーに入れてしまいました。1990年から2000年までは、そのメーカーで半導体の研究開発をしていました。

 

でも91年末ごろ、半導体業界ではバブルが弾けてしまい、それからは、ほとんどのメーカーが企業としての生き残りをかけて、いわゆる「血で血を洗うリストラ」を始めました。私の勤めていた会社でも、93年から94年ごろ、中高年の管理職多数が閑職に異動したと思ったら、半年もしないうちに全員が会社からいなくなったりしました。さらに95年ごろになりますと、研究所の女性研究員が、一か月に4、5人ほど退職するほどの事態になっていました。

 

私は、事業部に付属している研究部門にいましたので、つぎは私の番だと思いました。研究所での動きが次に飛び火するとすれば、その部門だったんです。でも、成果の出はじめていた研究テーマもあったので、会社を辞めて転職活動をするのではなく、勤務を続けながら転職活動をすることにしました。

 

転職活動の際には、いろいろな転職パターンを考えて動いていました。電機メーカーにこだわるか、仕事の内容にこだわるか、それともマイペースに生活できるような仕事を選ぶか。その間にも、猛烈な退職勧奨を受けました。98年ごろには、横領の冤罪をされそうになったり。ここ数年で話題になっている退職勧奨の手段のいろいろは、ほとんど一通り経験していますよ(笑)。

 

会社に居続けるのは、どう考えても無理な状況でした。背景には、半導体業界と会社の不振がありましたから、闘ってしがみつくことに意味があるとも思えませんでした。そこで、もともと、子どものときから「ライターになりたい」と思っていたこともあり、すでにライター活動をしていたICT技術者の友達に相談してみたところ、書き手を探している編集部を紹介してくれたんです。

 

まず、単発記事を数本書いたんです。好評で、次は連載の仕事をいただいたのですが、また幸いに評判がよく、あっという間に、3本の連載を抱えるようになりました。そうなるとボーナスはありませんが、勤務していた会社の月収よりも、毎月いただく原稿料の方が多くなったんです。「たぶん、会社を辞めても、ライターとして食っていけるんじゃないかな?」と思い、退職することにしました。

 

 

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